海王(ポセイドン)戦①バハムート零式
深海へ向け、俺たちの新魔導潜水艦は静かに潜航を続けていた。
先行する黒ひげの潜水艦の航跡を追いながら、分厚い特殊強化ガラスの外には、青黒い海がどこまでも広がっている。
時折、巨大な海竜のような深海生物が船体の横を横切るたびに、エリスたちは不安そうに息を呑んでいた。
「兄貴、海ん中は冥界に行った時より更に緊張感があるぜ」
カインが周囲を警戒するように呟く。
潜航計器の針は、すでに通常船では到底到達できない深度を示していた。
船内には、魔導炉の低い駆動音だけが響いている。
その時だった。
突如、俺の懐の携帯端末から、けたたましい警告音が鳴り響いた。
リンクしている俺の網膜に、直接警告の赤文字が流れてくる。
《EMERGENCY(緊急警告)!》
《EMERGENCY!》
《上空より災厄級6体、強魔獣1体が接近》
「何だと?」
俺が反射的に顔を上げた瞬間――。
ゴォォォォォォォォォォォッ!!!!!!
海そのものが震えるような轟音が、深海にまで響き渡った。
「きゃあっ!?」
潜水艦全体が激しく揺れ、レイナが悲鳴を上げる。
次の瞬間。
遥か上空から、信じられない光景が現れた。
漆黒の深海を、巨大な閃光が一直線に貫いたのだ。
「なっ……海が……割れてる!?」
リリアが驚愕する。
それは、まるで天から海底まで伸びる“光の柱”だった。
超高熱によって瞬間蒸発した海水が、巨大な縦穴となって深海へと到達している。
膨大な水蒸気と衝撃波によって、一瞬だけ海に巨大な『トンネル』が穿たれていた。
「嘘だ……アナキン、まさか……!」
ルークが信じられないものを見るように、悲痛な声で叫んだ。
「あれは召喚獣バハムート……いや、違う……! 『バハムート零式』だ!」
「いかれてるのかあいつら!? 規格外すぎるだろ!!」
俺は思わず顔を引きつらせた。
「あの新しい殲滅級ブレス――【天界爆炎】で海に穴を空けて突っ込んで来たのか!?」
ルークの絶叫と共に、巨大な極太のトンネルの中を――銀白に輝く巨大な竜が、凄まじい速度で降下してくるのが見えた。
「見ろ! 竜の背中に誰か乗ってるぞ!」
カインが指差す。
バハムート零式の巨大な背には、アナキンを先頭に、黄金の聖光を纏ったライアン、そしてギルガメッシュ達が立ち、一直線に海底へ急降下していた。
竜の背に立つアナキンは、両手を横に突き出し、海を割った巨大なトンネルの壁面から迫り来る数万トンの水圧を、見えない力で強引に押し留めていた。
「おいルーク……あのアナキン、様子がおかしくないか?」
俺が目を凝らすと、竜を操るアナキンの姿が以前とは明確に違っていた。
長かった髪が、まるで重力を無視したかのように頭上へと逆立ち、鮮烈な紅銀色のオーラと共に燃え上がるような形状へと変貌している。
その瞳もまた、同じく紅銀の鋭い光を放っていた。
「ま、間違いない。あれは……伝説の『超能力戦士』として覚醒した姿だ!!」
ルークが震える声で、親友の変貌を言い当てる。
「超能力戦士だと!?」
カインが驚愕の声を上げ、俺たち全員がその信じられない光景に息を呑んだ。
海底付近へ到達したバハムート零式が、巨大な翼を広げて急減速する。
凄まじい水圧と落下による衝撃を、超能力戦士となったアナキンの強大な念動力が相殺し、全員が海底神殿の巨大な門前へと、羽のように静かに着地した。
トン、と硬い石畳を叩く乾いた足音が響き、彼らの足元から微かな砂埃が舞う。
ポセイドンの神殿の入口一帯だけは、見えない境界線によって深海の海水が完全に退けられており、陸上と全く同じ空気が満ちていたのだ。
そして――。
ズガァァァァァァァァンッ!!!!
両側から数万トン規模の海水が激突するように閉じ、深海は一瞬で元の静寂を取り戻した。
海を割っていた巨大なトンネルは、まるで最初から存在しなかったかのように消滅する。
静まり返る深海。
その海底の遥か先には、青白い光を放つ巨大建造物――海神ポセイドンの海底神殿が、不気味な威圧感を放ちながら姿を現していた。
海底神殿の門前に到達したアナキンが、背後の巨大な竜に短く命じる。
「戻れ」
バハムート零式の巨体が光の粒子となって深海の闇へ溶けていった。
海底に降り立ったライアンは、神殿へ向かう前に冷徹な視線をこちらの潜水艦へ向けた。
そして、傍らに立つアナキンに短く言い放つ。
「アナキン、あの目障りな潜水艦たちを沈めろ」
「わかった。出でよ――『神龍リバイアサン』」
アナキンが静かに応じ、結界の外の海中へ莫大な魔力を放出した。
深海の闇がねじれ、巨大な水流の渦とともに、バハムートに匹敵する巨体を持つ青き神龍が姿を現す。
「(死ぬなよルーク)……リバイアサン、まずでかい方の潜水艦から沈めろ」
『わかった』
リバイアサンは咆哮を上げ、周囲の海水を極限まで圧縮した『超圧水流』を放とうと大きく顎を開いた。
だが――その矛先が向かったのは、俺たちの潜水艦ではなかった。
「なっ……前方に先行していた黒ひげの潜水艦が狙われてる!」
カインが緊迫した声を上げる。
俺が叫ぶのと同時に、リバイアサンから放たれた極太の超圧水流が、黒ひげの潜水艦へと迫る。
だが――直撃の瞬間。
黒ひげの潜水艦下部の強化ガラスドームに黒ひげと一人の男が姿を現した。
「誰だ、あいつは……?」
俺が目を細める。
その見知らぬ男はガラス越しに平然と立ち、迫り来る超圧水流に向けて片手を突き出した。
「【ベクトル反転】!」
男が短く呟いた瞬間、極太の超圧水流が、まるで見えない鏡に反射したかのように、不自然な直角を描いて真上へと軌道を変えた。
ただ迫り来る『力の向き』そのものを、強制的に書き換えたのだ。
ズドォォォォォォォォォォッ!!!!
真上へと逸らされた超圧水流が、巨大な衝撃波と乱水流を巻き起こした。
その直後、海中にティーチの野太い声が響き渡る。
『ゼハハハ! あの銀髪のガキは超能力戦士だな? だがなライアン! それはお前んとこだけじゃないぜ? うちの9番隊隊長、リュウガの異能の力はどうよ!?』
その挑発的な声は、黒ひげの潜水艦に備え付けられた外部魔導スピーカーからのものだった。
「マズい! こっちにも衝撃波が来るぞ!」
直撃は免れたとはいえ、この距離で激突の余波を受ければ、俺たちの潜水艦も無事では済まない。
俺は即座に操舵盤へ飛びつき、主制御盤を強打した。
「全エネルギーを船底の『蒼海石』に回すんだ!」
俺の操作に応じ、潜水艦の駆動音が限界ギリギリの悲鳴のような高音へと変わる。
船底に組み込まれた蒼海石が妖しく青い光を放ち、迫り来る水圧と乱水流を強引にねじ伏せる。
直後、荒れ狂う水流と衝撃波が、俺たちの潜水艦を激しく打つ。
ギシィィィッ……!
強化ガラスが嫌な音を立て、船内が激しく揺れる。
「耐えろ……耐え抜け!」
俺たちは必死に衝撃に耐えながら、深海の底で荒れ狂う嵐が過ぎ去るのを待った。
視線の先では、体勢を立て直したリヴァイアサンと、不敵に笑うリュウガが睨み合っている。
さらに、リュウガに守られながら神殿入口前に到着すると、静かに乗り上げた黒ひげの潜水艦から、重いハッチが開く音が響いた。
ティーチをはじめとする海賊団の面々が、ぞろぞろと姿を現し始める。
勇者パーティーと黒ひげ海賊団。
規格外の化け物たちが、ポセイドンの海底神殿の門前へついに集結したのだ。
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