涼一行、新魔導潜水艦で出発!
出航の朝。俺はNOAを起動し、ポセイドンのいる海底神殿へのルートと、その攻略に向けた最適解を割り出させた。
龍戦士を探したり、ポセイドンを倒すのにNOAのアドバイス回数が重要な事はわかってはいたが、昨日は装備強化が必要だったのと、ライアンチームも動き出したというNOAの情報で、残り1回のみのアドバイスを残し、今日すぐに出発するしかないという事情があったのだ。
ホテルの朝食を食べた後、俺たちは連れ立ってガルクの造船所へと足を運んだ。
潮の香りが漂う巨大なドックに足を踏み入れると、待ち構えていた親方が満面の笑みで俺たちを出迎えた。
「どうだ、涼! これが俺の最高傑作だ!」
親方のガルクが自慢げに胸を張り、巨大な船体を指差す。
そこにあったのは、以前手に入れた魔導船の機構をうまく生かし、分厚い特殊装甲で覆われた漆黒の『新魔導潜水艦』だった。
黒ひげ海賊団の潜水艦と比べれば一回り小さいが、深海を往くために無駄を削ぎ落とした最新作だ。非常に優秀な造りをしている。
「……見事な仕事だ。さすがは親方だな」
「へっ、当たり前だ。俺の腕をみくびるなよ。水圧防壁もバッチリだ。ポセイドンだろうが何だろうが、そう簡単には水漏れ一つしねえぞ」
「助かる。……だが、いじったのは外殻や推進機だけじゃないだろ?」
俺の問いかけに、ガルクは少しだけ照れくさそうに鼻の頭を擦った。
「……船内の居住区と、例の『魔導冷蔵庫』も少しばかり手を入れておいた。深海への長旅になるんだろうが、腹が減っちゃ戦はできねえからな」
ガルクの言葉に、俺は思わず息を吐いた。
以前、船を作ってもらった時のことを思い出す。あの時も頼んでいないのに、釣り竿や飲み物、魔導冷蔵庫の中身が溢れんばかりの食材でパンパンにサービスされていたのだ。
「……親方。前回もそうだったが、本当にありがたい気遣いだ。助かるよ」
「馬鹿野郎、水臭いこと言ってんじゃねえ。海神に挑む馬鹿な便利屋への、ただの餞別だ」
「ああ。ありがたく使わせてもらう。……ありがとうな」
俺は新魔導潜水艦の冷たい装甲を軽く叩き、深海という未知の仕事場へ向けて思考を切り替えた。
そしてNOAが弾き出した『パーティ全員での同行が最善』という結果に従い、俺たちは全員揃って向かうことにした。
『拙者も、行ける所までお供するでござる』
サスケもそう頷き、全員が潜水艦に乗り込むと、見送りのために桟橋に立っていたガルクが大きく手を振った。
「死ぬんじゃねえぞ、お前さんたち! 船が傷んだら、またいつでも俺んとこへ持ってきな!」
「ガルク親方、本当にありがとう! 行ってきます!」
エリスやレイナたちも、甲板からガルクに向けて大きく手を振り返す。
「ああ、行ってくる。……世話になったな」
俺も短く別れを告げ、ハッチを閉める。
こうして俺たちは、海神ポセイドンがいる海底神殿へと出航した。
順調に航海を進め、深海へと続く巨大な海溝――ブルーホールの入り口近くに差し掛かった時のことだ。
俺たちの新魔導潜水艦の前に、巨大で禍々しい装甲を持つ別の魔導潜水艦が、行く手を塞ぐように浮上していた。
『あれは……黒ひげ海賊団の船が現れたでござる!』
甲板上から相手の船影を確認したサスケが声を上げる。
向こうの巨大な甲板には、見覚えのある顔ぶれが並んでいた。
黒ひげ海賊団の船長ソロモン・ティーチと、その副長イザーク・メルキオールだ。
「よう便利屋ー、ハーデス戦ぶりだな。お前もポセイドンの首を狙ってるんだろ? ライアン達もポセイドンを狙ってるらしいから俺たちは楽だな」
黒ひげが傲慢な声を響かせる。
「ゼハハハ! 俺はポセイドンがいなくなった後、この世界の海を頂く手筈になってるんでな」
「お頭、その辺で」
傍らに立つイザークが、冷ややかな声でティーチの言葉を遮った。
その姿を見た瞬間、隣にいたレイナから凄まじい魔力が立ち上る。
「よくウチの前に顔を出せたなイザーク!? 今すぐ殺すよ?」
レイナが杖を握り締め、殺意を剥き出しにしてブチ切れる。だが、イザークは一瞥しただけで、全く意に介さない。
「落ち着け、レイナ。挑発に乗るな」
俺が静かに制止すると、黒ひげが再び口を開いた。
「ゼハハハ! 俺はライアンが倒そうが、お前が倒そうが、どっちでもいいぜ? ただ、俺たちと戦闘になった時に人数が多いと面倒臭いからな。双方、少しずつ間引いていく予定だがな」
「……俺たちがお前らの計算通りに動くと思うなよ?」
俺が冷たく返した直後、黒ひげたちの後ろから、派手な身なりをした男が歩み出てきた。奇術師ケソカだ。
「アハー! 久しぶりだねぇ、便利屋の涼!」
ケソカは機嫌よく叫びながら、手にした青龍刀を出したり消したりして挑発してくる。
「いつ殺してあげようかなぁ? 今かなぁ? それとも、ポセイドン倒してからにしようかなぁ?」
「……勝手に予定を組むな。俺の『仕事』の邪魔をするなら、お前らから先に片付けるだけだ」
(コイツら、俺の戦闘力が低いと油断してるな? 勇者になれる可能性がある事は、ティーチたちはおろかライアンさえも気づいていないだろう)
俺の言葉に、黒ひげ海賊団の連中は不敵な笑みを残したまま潜水艦のハッチを閉じた。
二つの魔導潜水艦が海底神殿の入口と思われる海面に着いたが、当初想像していた荒れ狂う波もなく、渚のように静かだった。
クラーケンや大鮫どころか、雑魚の迎撃隊すらおらず、それが逆に不気味だった。
『涼殿、ご武運を』
海に潜れないサスケがそう言って、空高く大きく羽ばたいていった。
俺たちはサスケを見送り、いよいよ深海への潜航を開始した。
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