夢幻の森④幻魔装備完成
レイナとエリスは泣きはらした目で、蘇生したばかりのサスケの両脇に張り付き、その羽毛をしっかりと握りしめている。
「みんな大丈夫か?」
「なんとかな……」
泥まみれのカインが、肩で息をしながら力なく笑った。
「サスケ、危なかったな。まさか空中でやられるとは……俺の判断ミスだ。すまん」
「……いえ、拙者こそ面目ござらん。己の未熟を恥じるばかりで……」
サスケは痛む胸元を押さえながら、申し訳なさそうに深く首を垂れた。
「気にするな。とりあえず魔王級ってのはヤベえってことがよく分かった。ベルゼブブの気まぐれがなかったら、正直全滅しててもおかしくなかったぞ」
「でもまあ、いつものカインの真似して、ちゃっかり『魔王核』と黒龍のレアドロップは頂いておいたぜ。あっ、泥竜の魔石もな」
沈んだ空気を吹き飛ばすように、俺は泥まみれの黒光りする結晶体を掲げてみせた。
「五大魔王の核なんて、この世界に五個しかねえんだろ? 物凄い価値なんじゃねーか!?」
俺の言葉に、仲間たちにもようやく勝利の実感と、生き延びた安堵の笑みが漏れた。
ひと息ついた後、俺は沼の奥で沈黙していた古い『魔導発電機』を見つけ出した。
どうやら暴れ回っていた泥竜の影響で泥に埋まり、故障してしまっていたらしい。
だが、俺にはグリムワークス製の工具がある。
パネルを開け、配線を繋ぎ直すこと約十分。サクッと修理を完了させると、魔導発電機は低い駆動音を立てて再起動した。
たちまち幻霧沼の汚れた水と淀んだ霧が、みるみるうちに浄化されていく。
よくわからないが、この機械がこの沼の生態系を維持しているのだろう。
俺たちはその光景を見届けた後、アラクネの里へと向かった。
里へ到着し、沼を荒らしていた泥竜を倒した事を報告すると、アラクネの一族はたいそう喜んでくれた。
お礼にと、アラクネ特製の『幻糸パスタ』など絶品の昼飯をご馳走になり、さらには畳三畳ほどの美しい布――『幻魔の布』を譲り受けた。
長老らしきアラクネが年代物の魔導ミシンを使わせてくれると言い、さらに『魔蟲の染粉』までおまけしてくれるという。
それを聞いた瞬間、俺のプロの便利屋としての血が騒いだ。
「これも寸法を合わせるための立派な作業だからな」
俺はそうもっともらしい事を嘯きながら、メジャーを使ってエリスとレイナの身体を――セクハラ気味に――念入りに採寸し、ついでにカインにも泥まみれの黒装束を脱がせてサイズを測った。
皆がアラクネ達と美味しいご飯を食べてくつろいでいる間に、仕事の早い俺は魔導ミシンを唸らせ、一気に新装備を仕立て上げた。
完成したのは五つ。
エリスには、彼女の清純さを引き立てる白の魔導ローブ。
レイナは「絶対にピンクがいい!」と騒いでいたが、俺の独断でそれを無視し、定番の黒の魔導ローブを仕立てた。
そしてリリアには、ワンポイントとなる黄色のリボンを作成した。
さらにカインには、脱がせた黒装束をベースにし、隠密性と機動力を高めた『幻魔の黒装束』を仕立ててやった。
最近どんどん強くなっているルークには、今の緑をやめて滅茶苦茶強者感のある黒と紫のローブを作ってやった。
「ちょっと涼! なんでピンクじゃないのよ!」
レイナは口では文句を言いながらも、その顔は真新しいローブをもらって明らかな嬉しさに溢れていた。
リリアも早速、美しい茶色の長髪を俺の作った黄色のリボンで結び、照れくさそうに微笑んでいる。
カインも真新しい幻魔の黒装束に袖を通し、喜んでいた。
(よしよし。これで皆の魔法耐性が格段に上がったはずだ)
プロとしての仕事の出来栄えに満足していた、その瞬間だった。
不意に、隣でポロポロと大粒の涙をこぼす気配がした。
「……えっ、エリス? どした!?」
見れば、エリスが真新しい白の魔導ローブを胸に抱きしめながら、泣き出していた。
よく考えれば、俺はレイナに杖を作ってやったり、リリアのアーマー作成に付き合ったりはしていたが、エリスに直接こうしてプレゼントをするのは初めてだった。
「涼さん……。本当に、ありがとうございます」
そのあまりに真っ直ぐで純粋な感謝に、俺は柄にもなく照れくさくなってしまい、つい口を滑らせた。
「いやいや、ポセイドンなんかにやられちゃったら、お前の『危ない水着』姿を拝めなくなっちゃうからな」
「そっちかよっ!!」
すかさずレイナから鋭いツッコミが飛んできた。
俺の最低なジョークに呆れた視線が注がれたが、エリスだけは嬉しそうにはにかみながら、白いローブを抱きしめていた。
その後、俺たちはすっかり仲良くなったアラクネ族と別れ、拠点である港町エルミナへと帰還した。
そのまま冒険者ギルドへ直行し、受付嬢に討伐の報告を済ませる。
「こちらで魔導発電機の修理が確認とれました! こちら、規定報酬の金貨十五枚となります」
受付嬢が恭しく革袋をカウンターに置いた。
それを受け取りつつ、俺は魔導ポーチから黒光りする結晶体を無造作に取り出した。
「あ、ついでにこれも買い取ってもらえるか? 『魔王の核』なんだけど」
「えっ……ま、魔王……!?」
ドスンッ!
受付嬢は目を剥いて悲鳴を上げ、見事に腰を抜かしてカウンターの奥へ尻餅をついた。
「そ、そそそ、そんな貴重なものはここでは買い取れません! 恐らく、国家予算が必要でしょう……ッ!」
震える声で告げられた言葉に、ギルド内が水を打ったように静まり返り――直後、爆発したように一般冒険者たちが騒ぎ出した。
「おい嘘だろ!? 今回の魔獣大戦、涼さん達が勝っちまうんじゃねーか!?」
「どうやったらあんな強くてスタイルのいい美女たちをパーティーにできるんだよ! 羨ましすぎるぜ!」
「ああ……俺はリリア様のドラゴンスレイヤーの錆になってもいい……!」
野郎どもの嫉妬と羨望の叫びが飛び交う中、俺はため息をついて別のアイテムをカウンターに並べた。
「買い取れないなら仕方ない。それじゃ、こっちの泥竜たちの魔石と……あと、これだ」
俺が出したのは、カインが抜け目なく拾い集めていたマタンゴやタランチュラの大量の魔石だった。
「……なっ、なかなかの量ですね。締めて、金貨十五枚で買い取らせていただきます!」
慌てて立ち上がった受付嬢が査定額を叫ぶと、パンピー共がさらに沸き立った。
「マジかよ! 追加の魔石だけで金貨十五枚!?」
「一回の探索でどんだけ稼いでんだあのパーティーは!」
そのまま俺たちはギルドに併設された酒場で打ち上げをすることにした。
だが、女性陣のファンになった野郎どもがストーカーのように張り付いてきて、どうにも落ち着かない。
(前世の芸能人ってのは、こんな感じなんだろうなー)
そんなことを思いながら、俺は皆の分の美味そうな食事と酒をたっぷりと注文した。
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