夢幻の森③涼一行の新必殺技
――天界の王室。
「便利屋とかの所に向かったアスタロスの動向を見たいのだが、貴様ら我の水晶をどこへやった?」
神気を放つ玉座から、ゼウスが不機嫌そうに魔王達へ尋ねる。
「全くわかりません」
「そういや、ベルゼブブの奴はどこに行った?」
「ゼウス様、何かベルゼブブの動き、怪しくありませんか?」
「……」
ゼウスは無言のまま、険しい表情で虚空を睨みつけていた。
――幻霧沼。
「スカウター始動!」
俺の網膜に、ノアが弾き出した絶望的な解析結果が赤い警告色と共に表示された。
■ SCAN・SYSTEM ―START■
《空間魔力波形スキャン……完了》
《対象:魔王級1体、強魔獣1体》
■ TARGET ANALYSIS(対象分析): DEMON LORD(魔王) ■
▶【大公爵 魔王アスタロス:LV70】
┗特性:物理・魔法超耐性、絶望の覇気 属性:闇・黒炎、弱点:神気属性
■ TARGET ANALYSIS(対象分析): DEMON BEAST(魔獣) ■
▶【暗黒竜 ブラックドラゴン:LV45】
┗特性:強堅牢外殻 属性:闇・炎、弱点:聖属性
(レベル70だと……!? 完全にバケモノじゃねえか!)
「そのまま来い!ノア―!!」
《警告です!涼さん、アスタロスはベルゼブブと同じく魔王級の堕天使です》
《サスケさんを救出しようとした場合、パーティーの全滅確率が48%から72%に急上昇してしまいます。撤退を推奨します》
「ふざけんな! 俺が見捨てる訳ないだろ!!」
《……了解しました。ではカインさんを黒龍に奇襲させて牽制しつつ、強固なプロテクションがかかり、アダマンタイトアーマーを装着したリリアさんがアスタロスと対峙して盾となり、その隙にサスケさんをイエローガムのムチでエリスさんの前に引き抜いて下さい》
《――ちょっと待って下さい! 全滅確率の減少を確認。70%、68%、65%、60%……》
「何だ!?」
俺が視線を向けた先――そこには、緋色の眼から大粒の涙を流したレイナが、なんと空中に浮遊していた。全身から、空間を軋ませるほどの莫大な魔力が溢れ出している。
『なっ何だ? あの魔力は?』
「天を統べる古の雷霆よ
我が呼び声に応じ、万象を穿つ裁きの光となれ!
黄金の閃光にて、災厄なる者を大地に縫い止めよ!
――【天翔る雷霆の神罰】!!」
ドッゴォォォォォォォォォォンッ!!!
雲が割れ、天空から極太の超範囲雷撃が幻霧沼に容赦なく降り注いだ。
「ギャアアアアアアアアアアッ!?」
鼓膜を劈く断末魔の絶叫と共に、黒龍の強固な漆黒の鱗が炭化してボロボロと剥がれ落ちる。
圧倒的な雷撃に抗う術もなく、巨大な質量を持ったその巨体は、その身を焦がしながら凄まじい地響きと泥飛沫を上げて沼地へと墜落した。
『グァアアアッ!? マ、マズイ、……かっ身体が燒け崩れる……ッ!?』
アスタロスも驚愕とともに叫び声を上げるが、歯を食いしばりながらもなんとかその雷撃に耐え切った。
レイナの極大魔法が直撃し、動きが完全に止まったその一瞬。
「うおぉぉぉっ!! 閃け、雷切ッ! 【紫電改・双撃の太刀】!!」
「はあぁぁぁッー!! 唸れ、ドラゴンスレイヤー!! 【極技・竜牙極絶滅斬】!!」
左右から飛び出したカインとリリアの新必殺技がアスタロスの両の腕をそれぞれ斬り落とし、そのままの勢いでサスケをエリスの元へと引き抜いた。
「トドメだ、オラァァァッ!!」
俺は草薙の剣を振り被り、無防備な魔王の首へ目掛けて渾身の力で踏み込んだ。
『下等生物どもがあああああっ!!』
――ドバオォォォォォォッ!!
だが、アスタロスが残された魔力を爆発させ、全身から【絶望の暗黒衝撃波】を全方位に放った。
凄まじい反発力に弾かれ、俺とリリア、カインの三人は為す術もなく泥沼へ吹き飛ばされる。
土煙が晴れた先、宙に浮かんでいたのは――片翼のベルゼブブだった。
『あれあれー? 僕より強いとか豪語していたアスタロスともあろー方が、苦戦しているねー』
『グググッ、……抜かせ! これからだ!』
アスタロスが怒号を上げると、驚異的な超絶再生能力により、グチャグチャと不気味な音を立てて蠢きながら新しい指達が、切り落とされた腕の付け根から生え出てくる。
『うげぇ、再生するのか、しつこっ! それじゃあ涼君、貸しだよー。 【呪縛鎖蟲】!!』
ベルゼブブが指を鳴らすと、無数の魔蟲が鎖のようにアスタロスの全身に絡みつき、修復しつつある身体の動きを完全に封じ込めた。
『なっ、何っ!? 貴様、裏切ったのかベル……』
アスタロスの意識がベルゼブブへ向いた、一瞬の死角。俺は泥沼を蹴り上げて跳躍し、魔王の頭上から急降下し、その一閃でアスタロスの首を鮮やかに刎ね飛ばす。
「オラァァァァ!! 必殺――【神威・天叢雲】!!」
ズバーーーンッ!!!
『……ゼブブ?』
血飛沫と共に宙を舞う魔王の生首は、己の絶対的な敗北を理解できぬまま、驚愕に目を見開いて虚ろに呟いた。
ドサッ、と首と胴体が泥に沈む。
その光景を見下ろしながら、ベルゼブブは面白くもなさそうに鼻で笑った。
『最初から敵だっつーの。それでは、便利屋の一味さん。またどこかでー』
そう言い残すと、ベルゼブブの体は蠅のように細かく分散し、幻霧の奥へと姿を消していった。
ベルゼブブが去り、静寂が戻った沼地に、サスケを抱えたエリスの切実な声が響いた。
「……ひどい……。サスケ、しっかりして!」
横たわるサスケの全身は、闇の侵食によってボロボロに傷つき、命の灯火が今にも消えかかっている。
エリスは震える手をサスケの胸元にかざし、溢れんばかりの涙をこらえて深く、長く詠唱を始めた。
「母なる大地の慈愛よ。穢れを祓う清冽なる息吹よ。
失われし魂を繋ぎ、凍てつく命に再生の光を。
絶望に抗う祈りを糧として、彼の者へ再び飛翔する力を与え給え!
――【神聖復活・至高の祝福】!!」
エリスの手のひらから、温かく柔らかな純白の光が溢れ出し、サスケの全身を優しく包み込む。
漆黒に侵されていた傷口が、光の粒子に溶けるように消え去り、閉ざされていたサスケの瞼がかすかに震えた。
『……う、……エ、エリス嬢……?』
「サスケ!」
命の輝きを取り戻した仲間の姿に、俺たちは泥まみれの顔を見合わせ、ようやく安堵の吐息を漏らしたのだった。
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