異世界最後のギルド依頼?
ノアとの深夜の通信から数時間後、短い夜が明けた。
(ノアがライアンのチームに動きがないと言ってたから、今日は〈夢幻の森〉へ行こう)
朝食の席で、俺は女性陣に向かって頭を下げた。
「昨日は俺のスケベなワガママに付き合ってくれてありがとうな」
「ふふっ、涼さんが喜んでくれたし、私たちも楽しかったから気にしないで下さい」
「そうそう、お酒とデザートも美味しかったしね!」
「ま、まぁ……肉も最高だったから、多めに見てやるぞ」
エリス、レイナ、リリアがそれぞれ笑顔でフォローを入れてくれる。
「ありがとう。ただ、俺も約束は守る。今日は昨日約束した魔導ローブとリボンの素材取得に使う」
俺が真剣な表情に切り替えると、場の空気が少しだけ引き締まる。
「今朝ノアに聞いた所、どうやらベルゼブブクラスの魔王達が新たに動きだしたらしい」
「ま、魔王が……!?」
「ああ。エリスのロッドとティアラ、レイナのロッドと帽子、リリアの大剣とアーマー。お前たちも、いつの間にか最高の装備になってきた。そこで俺が考えた、更なる脅威に対して強化が必要な最後のパーツが、エリスとレイナのローブと、リリアのステータス防御の為のリボンだと思うんだ」
俺の言葉に、三人はハッとした表情になり、「私たちのことをそこまで深く考えてくれてたんだ……」と感動と決意を込めて強く頷いた。
(よかった……。単なるスケベじゃなく、チームの事も考えてる事が伝わって、なんとかリーダーの面目が保てたぜ)
「それとどうせ【幻糸蜘蛛】の糸を求めて〈夢幻の森〉へ行くんだ。ついでにギルドで同じ方角の依頼を受注してこなした方が効率的だろ」
俺の合理的な意見に、メンバーたちは「おおっ」「さすが涼さん、無駄がないですね!」「兄貴、頭いいな!」と感嘆の声を上げた。
実は俺がついでにギルド依頼を受けたのには別の理由もあった。
無事、前世に戻れたとしても、仮にこの先の戦いで死んでしまったとしても……これが、この世界で受ける最後のギルド依頼になるだろうという思いがあったからだ。
さっそく例のパブが併設された冒険者ギルドへ足を運ぶと、思わぬサプライズが待っていた。
なんとこれまでの実績が評価され、俺たちのパーティーは全員『Aランク』に昇格していたのだ。
元々この街では、俺たちは実力者としてそこそこ名が知れていたが、Aランク昇格の報せでギルド内はちょっとした騒ぎになった。
「あれが有名な便利屋の一味だぜ? 勇者ライアンチームと共に冥王までぶっ倒したらしいぞ」
「ああ! それに、昨日の水着ファッションショーの優勝パーティーでもあるんだろ?」
「おおすげぇ、間近で見るとマジで女神だな……!」
冒険者たちから次々と握手やサインまで求められる始末だ。
だが、どこの世界でも男の性は一緒らしい。
俺とカインの周りにはむさ苦しい男の冒険者が数人いるだけだが、昨日過激な水着姿で会場を沸かせた女性陣三人には、圧倒的な数のファンが群がっていた。
(完全にアイドル扱いだな……)
熱狂する男たちを遠巻きに眺めながら、俺は苦笑するしかなかった。
なんとか人だかりを抜け出し、受付嬢からAランクの依頼ボードを見せてもらう。
そこには都合よく、【夢幻の森】を目的地とした依頼が張り出されていた。
『依頼内容(報酬金貨15枚):森の中心にある幻霧沼の『魔導発電機』の再起動、および周辺の安全確保』
これなら便利屋の技術が活かせる上に、目的の場所とも完全に一致している。俺たちは迷わずその依頼を受注した。
さっそく受付で手続きを済ませ、街の外に出た俺はサスケを呼び出した。
「サスケ、悪いが時間短縮のために森の入り口まで乗せていってくれ。まずは俺とカインから頼む」
「承知したでござる」
その巨大な背中に俺とカインを乗せ、サスケは大空へと飛び立つ。
上空から見下ろすと、目的地の〈夢幻の森〉は、その名の通り不気味な深い霧にすっぽりと包み込まれていた。
「以前に涼殿を見失った【迷いの森】と似ているでござる」
「ああ、念のためノアも一回残してるし、今回は慎重に行くよ」
森の入り口付近に降り立ち、俺たちが待機している間に、サスケは再び街へと戻り、女性陣三人を見事に運んできてくれた。
「ありがとうサスケ。お前は万が一に備えて、この森の入り口で上空から待機しててくれ」
「承知したでござる」
サスケを入り口に残し、深い霧が立ち込める森を前に俺たちは気を引き締める。
「それにしても、マジで霧やばくない? 少し先も見えないんだけどー」
「魔物の気配も読めねえ。涼、気をつけて進もうぜ」
リリアがドラゴンスレイヤーを抜き、レイナもロッドを構え周囲を警戒する。
「この霧だ、視界が悪い。絶対にはぐれないように進むぞ。カイン、お前が先頭だ」
「任せとけって、兄貴!」
索敵能力に優れたカインを先頭にし、俺たちは警戒しながら霧の中へと足を踏み入れた。
――だが、森に入って数分と経たないうちだった。
「きゃあッ!?」
突如、最後尾付近を歩いていたエリスの悲鳴が響いた。
「ちょっ、エリス!?」
「涼、上だ!」
レイナとリリアの緊迫した声に振り返ると、エリスが足首を透明な『糸』に絡めとられ、大木から無惨に逆さ吊りにされていた。
「エリス! 動くなよ」
俺は即座に駆け寄り、彼女を吊るし上げている透明な糸を観察した。
(……高い位置で吊られている。下手に糸を斬れば、頭から落ちて大怪我をするな)
俺は魔導ポーチから『イエローガムのムチ』を取り出し、エリスの腰へ向けて一閃した。
「ひゃっ!?」
粘着力を持つムチが、宙吊りになっている彼女の体にしっかりと巻き付く。
「少し揺れるぞ」
俺は手元のムチを強く引き寄せながら、空いた手でナイフを抜き、足首を縛る罠の糸を一刀両断した。
プツンと糸が切れ、エリスの体が真っ逆さまに落下する。
だが、ゴムのように伸縮するムチが落下の勢いを完全に殺し、彼女の体は安全な軌道で俺の胸元へとスライドしてきた。
そのまま、ふわりとお姫様抱っこで受け止める。
「嘘……私たちの罠が、あんなにあっさりと……?」
頭上の濃霧の中から、動揺を含んだ凛とした女の声が降ってきた。
霧が晴れた木々の合間から姿を現したのは、上半身は妖艶な美女、下半身は巨大な蜘蛛の姿をした亜人――アラクネ族の女たちだった。
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