冥王(ハーデス)戦⑪冥王ハーデス登場
張り詰めた空気が漂う中、ライアンが仲間思いの面を見せた。
「……ギルガメッシュ。ベルゼブブとケソカにリベンジできなくてすまんが……貴様の魔導武器庫にメフィストとイグナイトの遺体を収納して、例の場所に向かってくれ」
その指示に、ギルガメッシュは一瞬驚いたような顔を見せたが、一年の付き合いになるライアンの意図を全て理解し、素直に了承した。
一つ、七武神の中で一番の古株である自身を信頼してくれている事。二つ、危険な帰路を一人で歩ませるという自身の戦闘力が認められている事。三つ、主の仲間思いな決断が嬉しかった事。
「リリア。という訳ですまんが、今回の戦闘はお預けである。但し――次回、お主とどこで会っても、果たし合いのタイマン勝負を開始する事をここで誓おう」
「……わかった。俺もこのタイミングで戦闘するなど、無粋な真似はしない」
「かたじけない。これで貸し借り無しでござるな」
「何? お前に殺していいほどの貸しはあっても、借りはない」
「カカカッ、そうだったでござるな」
「!?」
ギルガメッシュの言葉の本当の意味を、今のリリアは理解できていなかった。
ライアンが俺に呟いた。
「さて、俺たちは優先的にやらなければならない事がある。貴様らパーティーに構ってる暇などない」
「珍しく同感だな。ライアン。俺もあの蠅共と冥王にしか興味がない事はテメーも知ってるだろ」
「ふん、貴様ら、仲間の仇だ! 蠅共と冥王を殺る!」
「「「「了解!!」」」」
「みんな、ライアンたちと俺たち、どっちが先に蠅共を倒すか勝負だ!」
「「「「「了解!!」」」」」
カインとルーク、ゼインとアナキン。今回たまたまではあったが直接やり合う事無く、彼らはひとまず安心した。
俺たち七人、ライアンチーム五人、それに四匹の強召喚獣を相手に真っ向から戦うベルゼブブ、ケソカ、オーバーロードの実力は確かに凄かったが、予想通り自分たちの守るべきボスのいる方へジリジリと後退させられていく。
(何かおかしい)
俺や、天才のライアンも違和感を持ち始めていた。
確かに人数に勝る俺たちに押されるのはわかる。
だが明らかに、三人に本気の殺意が感じられないのだ。
特にケソカに至っては、激しい出血にも関わらず狂戦士モードが解除されていた。
――二十分ほど前の冥界の王室。
ベルゼブブから分かれた蠅が、冥王に戦況の報告を行っていた。
そして冥王の気を逸らし、意図的にヘルケロベロスが倒されまくっているシーンを見せないようにしていた。
『残念ながら、勇者一行は冥王様の予想をはるかに上回り、魔獣軍団約千五百体は全滅いたしました』
『ぜっ全滅か? 途中までこの水晶で見てはいたが』
『こちらの生き残りは私とケソカ、オーバーロードのみでしたが、先程私とヤツで五十体のヘル・ケルベロスを蘇らせ、大橋で挟撃の形をとっておりました』
『ほう。ポセイドンからネクロガル(オーバーロード)を借りてきて良かったわ』
『ですが、そこに便利屋の一味と言われるパーティーまで侵入してきました。これ以上クソ人間共を入れないよう、ヤツが急遽【帳】を降ろしました』
『たかが人間共に、ここまで舐められとは。まあ向こうにはルシフェルがついているせいもあるな』
――その時。
ドガーーーン!!
凄まじい爆発音と共に、王室の屋根が丸ごと吹き飛んだ。
『なっ、何だこの爆発的な黒炎は!?』
冥王は咄嗟に防御魔法を展開し、燃え盛る瓦礫を弾き飛ばす。
『……ベルゼブブよ。今のは何だ?』
『ケ、ケルベロス共の放った黒炎が、流れ弾となっただけに違いありません!』
『ふん。力の制御もできぬ駄犬どもめ』
『ええい、我が直々に出向き塵にしてくれるわ』
苛立ちとともに立ち上がろうとする冥王を、ベルゼブブが慌てて制止する。
『お待ちを! 現在、奴らは五十体のヘルケルベロスに押され、こちらへ近づいてきております。もう少し王室の近くまで引きつけましょう。私が合図を出しますので、そこで参戦して一気に叩き潰すのが確実かと』
『ほう……なるほど』
冥王は瓦礫の散乱する玉座に再び深く座り直した。
『良かろう。ならば勇者を倒した暁には、私と貴様で奴の血で祝杯をあげようではないか』
『おおっ、楽しみだなー。勇者の血は若返り薬になりそうですねぇ?』
屋根が吹き飛んだ異常事態にも関わらず、圧倒的戦闘力を持つ二人は余裕の笑いを浮かべていた。
ベルゼブブは時間稼ぎのため、俺たちとライアンのパーティーが大橋の中央まで到達するのを待っていたのだ。
『冥王様、今です! 奴らが大橋の中央まで近づいてきました!』
『良かろう。祝杯の前に、我自ら赴いて少し躾をしてやらねばならんな』
ベルゼブブの合図を受け、冥王は崩れ落ちた壁の向こう――眼下の大橋を見下ろせる場所へと悠然と歩みを進めた。
ベルゼブブの報告通り、確かに敵は橋の中央まで進軍してきていた。
だが、そこにいるはずの五十体のケルベロスの姿は一体もない。
いるのは、勇者一行と便利屋の連携に押し込まれ、ジリジリとこちらへ後退してくる味方幹部三人の姿だった。
『おのれ……よくも我が冥界を、我が玉座をここまでコケにしてくれたなァッ!!』
限界を超えた怒り。完全にブチギレた冥王の咆哮が、冥界全体に響き渡る。
『消し炭にしてくれるわ、下等生物共ッー!!』
冥王の全身からおぞましい漆黒の魔力が立ち昇り始めた。極大魔法の発動態勢だ。
しかしその瞬間、俺とライアンが同時に叫んだ。
「来い! ノアーーー!!」
「来い! ルシファー!!」
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