冥王(ハーデス)戦⑧涼一行の底力
「スカウター始動!」
■ SCAN・SYSTEM ― START ■
《空間魔力波形スキャン……完了》
《対象:人間2名・強魔獣20体》
■ TARGET ANALYSIS(対象分析):HUMAN(人間) ■
▶【黒ひげ二番隊隊長:フドウ:戦闘力 780】
┗属性:土/肉体 、特性:超厚重脂肪(物理衝撃大幅減衰)・剛力
┗弱点:魔法攻撃
▶【黒ひげ三番隊隊長:カイオウ:戦闘力 800】
┗属性:雷/魔導 、特性:魔導アーマー(物理・魔法高耐性)・魔力障壁
┗弱点:関節部(結合部)、温度攻撃
■ TARGET ANALYSIS(対象分析):MONSTER(魔獣) ■
▶【個体識別:冥府の三頭処刑犬:魔獣ランクS、LV45】
┣個体数:約20体
┣属性:冥・火炎 、特性:超再生・物理魔法複合耐性
┣弱点:氷結・聖属性
┣物理無効化率50%、魔法無効化率50%
┗重要警告:急所である魔力核コアの『核移動』を確認。外見からの判別不能
■ SCAN・SYSTEM ― END ■
眼前に並び立つのは、魔獣一個師団に匹敵する戦力。
二十体ものヘル・ケルベロスが放つ重圧は、空気を重く変えていた。
さらにその影で不気味に沈黙を守る、黒ひげの二人の隊長。
(くそ強え! どうする? ノアは絶対使えない……)
俺は焦燥を隠しきれずにいた。
どんな難敵だろうが一刻も早くここを突破し、冥王の元へ向かわなければならない。
その焦りが、知らず知らずのうちに俺の呼吸を乱し、視野を狭めていた。
「……涼さん、急ぐんでしょ? でも焦らないで」
右肩に置かれた手の温もりと共に、ルークの穏やかな声が聞こえた。
はっとして隣を見れば、ルークがケルベロスの猛攻をいなしながら、いつの間にか俺の隣に並び立っていた。
「一人で背負いこまないで。……僕たちを、仲間を信じてください!」
年下の彼が見せた、どこまでも優しい笑みと頼りになる声。
それを聞いた瞬間、俺は自分の胸の奥が熱くなるのと同時に、言いようのない気恥ずかしさを覚えた。
自分が誰よりも急いでいることを、年下のルークに完全に見透かされていたのだ。
(リーダーである俺が、仲間を信じる余裕すらなく独りで焦っていたなんて……いや、違う。俺だけじゃない。ルーク、カイン、レイナ、リリアも。皆、本当は早く七武神の所へ行きたいはずなんだ。それなのに、彼らは自分を押し殺し、絶望的な状況下でも冷静に前を向いて俺と共に道を切り拓こうとしてくれている)
気持ちを汲み取ってくれている仲間の友情に、視界が少しだけ滲んだ。
ポタ、と床に一雫の涙がこぼれ落ちる。
流した涙は弱さじゃない。彼らと共に歩むと決めた、覚悟の証だ。
涙が地面に届くより早く、気付けば俺は『草薙の剣』を抜き放ち、そのまま右手を高く掲げていた。
溢れ出したのは、神話の時代を想起させる、清廉にして圧倒的な神気の波動。
そしてその光景は、勇者ライアンを彷彿とさせた。
「よし! みんなの本気を見せてやれ!」
「「「「「おおー!!」」」」」
その瞬間、皆の士気が爆発した。
草薙の剣から放たれた神気がパーティー全員の闘志と共鳴し、目に見えるオーラとなって立ち昇る。
二十体の強魔獣ヘル・ケルベロスが、その圧力に一歩、明確に後退りした。
絶望の包囲網を嘲笑うかのように、仲間たちが各々、自分の最適解を実践し始める。
「そんじゃ行くぜ!」
カインが短く呟き、陽炎のようにその場から消えた。
床に伸びたケルベロスの影へと同化した彼は、暗殺者としての本領を発揮し、闇から闇へと跳びながら敵の意識を撹乱していく。
「聖なる光よ、我が友に力を! 限界を超えた力をその身に宿せ!」
中央でエリスが聖杖を高く掲げ、一気に全員へと神聖な光の加護をかけた。
「【全能力極大上昇】!」
エリスの全ての魔力を注ぎ込んだバフが、俺たちの力を限界まで拡張し、身体を羽のように軽く変える。
「エリス有難う! これで踏み込める! 唸れ!ドラゴンスレイヤーー!!」
リリアは強烈な踏み込みによる爆速の剣撃でケルベロス一体を真っ二つにしてしまった。
「兄貴! 飛んで!」
レイナの鋭い声をかけ、大鷲に飛び乗る。サスケが力強く羽ばたき、弾丸のような速度で上空へと舞い上がった。
その背上でレイナが強力呪文を詠唱し始める。
そして、ルークが空間を歪ませるほどの多層魔法陣を展開し、なんと従魔を三対同時に召喚した。
「召喚! ゴーレム!フェンリル!フレイムドラゴン!!」
ルークの叫びに呼応し、地響きと共に巨大な召喚獣たちが次々と姿を現した。
巨壁のミスリルゴーレム、冷気を纏う霊峰の主フェンリル、そして灼熱の息吹を吐く炎龍フレイムドラゴン。
彼らの雄叫びが、二十体のケルベロスが放っていた威圧感を一瞬で塗り替えた。
「ガハハハッ! デカい狼を呼び出したところで、このフドウ様の肉体は貫けねぇぞ!」
二番隊隊長フドウが、山のような巨体を揺らして突進してくる。分厚い脂肪の鎧が、物理的な衝撃を無効化しながらルークへと接近してくる。
「無駄だ。魔導の輝きこそが、全ての命を等しく沈める」
三番隊隊長カイオウが魔導アーマーの出力を最大に引き上げ、無数の魔力弾を掃射した。俺たちの退路を断つように空間を埋め尽くす電撃の弾幕。
『グルアァァァァッ!』
ヘル・ケルベロスたちも呼応し、三つの首から瘴気と業火を吐き散らしながら、脅威と悟った召喚獣たちの元へと群がっていく。
フドウとカイオウ、そしてケルベロスたちの攻撃は、単なる力任せではない。こちらの布陣を崩すべく、考えて構築された連携を見せていた。
戦場は一瞬にして、極大魔法と物理的な暴力が入り混じる混沌とした地獄絵図へと変貌する。
俺は一瞬激戦を覚悟した。
だが、ルークの召喚した三従魔はそんな俺の想像をはるかに超えて強かった。
ルークを守るべく、まるでカインのように地面から湧き出たミスリルゴーレムがフドウとカイオウの足首を捕まえると、物理攻撃がほとんど効かないと思われたフドウの身体をフェンリルがあっと言う間に冷たい爪で切り裂いてしまった。
そして炎龍が紅蓮の業火を吐き出すとカイオウが真っ赤になった魔導アーマーとともに熱傷で息絶えた。
『おいドラゴ、あのケルベロス、まあまあ強そうだぞ?』
『よしフェンリー、どっちが多く狩るか勝負するか?』
特にこの二匹は、対七武神用の超強魔獣を前に全く臆していなかった。
そして上空のサスケの背でレイナが詠唱を終える。
「リリア、カイン!避けてーーー!!」
「レイナ危なっ!」
「【氷晶契章】!!」
リリアとカインが間一髪躱したフィールドにレイナの超絶冷凍範囲魔法が炸裂した。
ガッキーーーン!!
凄まじい冷気が戦場を吹き抜け、残っていたヘル・ケルベロスたちを一瞬で氷結停止させる。
「涼! 今よ!」
「了解だ! オㇽラァーーーッ!!」
バババババッリーーン!!!!!
初めて実戦で振るった『草薙の剣』の威力は絶大だった。
レイナが氷像に変えたケルベロスたちを、たったの一振りの波動で全て粉々に爆散させた。
(すっ、凄い! 何だこの剣は!? 勝てる! この剣は聖剣にも負けてない!!)
そして俺は必死の戦いですっかり忘れていたが、実はそれと同時に現世への帰還率が物凄い勢いで跳ねあがっていた。
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