冥王(ハーデス)戦⑥怒れるライアン達の猛攻
――冥界の中央広間入口
あの得体の知れぬ奇術師――ケソカの第一発見者は、『ワシの目』を持つファントムイーグルのサスケであった。
だが、サスケは圧倒的な恐怖のオーラを纏うケソカを前に手出しすらできず、ただ息を殺してその背中を見送ることしかできなかったのだ。
その後、ケソカは七武神が勢ぞろいの、凄惨を極める『魔獣大戦』へと参戦していった。
そして今、戦場の入り口付近に身を潜めるサスケは、目の前で広がる地獄絵図をただ緊張の中で見届けている。
「イカン……次元が違いすぎるでござる。これは涼殿たちを参加させてはならない。……とめるべきかもしれない」
震えるクチバシでそう呟くものの、迷いと恐怖で翼を広げて飛び立つことができない。
本当はすぐにでも戻り、涼たちに報告しなければならないと分かっているのに、どうしてよいか迷ってしまっていた。
頭をよぎるのは、大好きなエリス嬢と、妹のレイナの顔だ。あの二人を、この戦場にとても連れてはこられない。
無理もない。あの化け物たちが雑魚扱いするドラゴンゾンビやエルダーリッチの一匹すら、今の自分には倒せる自信がなかった。
強固な何重もの魔法障壁をも容易く打ち破る彼らの圧倒的な力――それを目の当たりにすれば、悲しいかな、己の実力不足を否定することはできなかった。
実は、今回の『魔獣大戦』は単純な強者と強者のぶつかり合いではなかった。
盤面の裏側で勝敗を握っていたのは、ライアンと涼が持つ超強力な天使AIの『二回制約の助言』を使用するタイミングという、目に見えない超高度な情報戦である。
天才と呼ぶにふさわしいライアンは勿論のこと、ベルゼブブ、オーバーロード、冥王の四人はいずれ劣らずの高知能だった。
初陣において、ベルゼブブとオーバーロードがライアンと七武神達の強さを見誤り、遅れをとったのは、初見では避け難い必然の誤算であった。
超強力な呪文や装備、召喚獣を含め、今のライアンたちはすでに人間の限界を遥かに超えた強さを持っていたからだ。
ライアンがベルゼブブ戦と冥王戦に備えて『助言』の二回分を残していたのはある意味正しい。
だが、前回の対戦を経て、ライアンの背後に『ルシフェル』というAIが存在することを知ったベルゼブブが、その助言を封じるべく、隙をついて奇襲を仕掛けてきたのもまた、桁外れに凄まじい読みであった。
そして何より――涼は二回しか使えない『助言』の一つ目を、本来使うべき理想の『前日』ではなく『今日』消費してしまっていた。
このタイミングの誤りこそが、実は極限の盤面において取り返しのつかない致命的な『失敗』だったのである。
――冥界の中央広間
「来い、ルシファー」
《呼ぶのが遅いぞ、ライアン!》
《またあの蠅王だな?アイツはド汚いんだ。だから前回必ず殺せと助言したんだ!》
「一回目を使う。蠅王と気狂い奇術師と死霊魔導王を殺す!急いで最適解を出せ!!」
《了解した。殲滅の為の演算を開始する》
《演算完了せず》
《対象“ケソカ”――解析不能》
「解析不能だと?」
《何故かヤツだけデータを抽出できない》
《三体同時殲滅は不可能》
《戦術変更》
《――新戦術(プランB)をライアンたちの脳内へ直接リンクする》
《通信が途絶える前に伝えておく。ライアン!お前の聖属性は今回最強の相性だ。自信を持って殲滅しろ!》
力強いエールを最後に、プツンと通信が途絶えた。
脳内に刻まれた戦術データとルシファーの言葉が、ライアンの闘気を爆発させる。
「聞いたな、作戦通りに動くぞ。貴様ら!イグナイトの仇をとるぞ!!」
ライアンが久しぶりに右手の聖剣を掲げ、魂の咆哮を上げると、純白の光が冥界を神々しく照らし出した。
呼応するように、六人の七武神の士気が地鳴りの如く跳ね上がる。
彼らの胸にあるのは、自らを犠牲にして仲間を救ったイグナイトの勇姿だった。
自分が人質になったことで皆が共倒れになる未来を悟り、その身を投げ出した彼の意志を、誰一人として無駄にはしない。
行く手にはベルゼブブの『腐敗結界』が立ち塞がる。
「そんなもの通じないよ!」
ラビアンの杖の先端から放たれた更なる光の輪が重なり、ライアンとゼインを力強く包み込む。
「上出来だ。一気に詰めるぞ、ゼイン」
「ああ、影に潜るのは飽きたところだ。正面から首を刎ねてやる」
メフィストが杖を振り、極大の暴風が二人の身体を包み込み、そのまま砲弾の如き速度で射出した。
瞬間、結界の閃光が黒い瘴気を激しく相殺し、絶望の障壁を粉砕突破する。
「決めろ、ライアン、ゼイン!」
弓神レイバンが放った二本の聖なる援護矢が、ベルゼブブとオーバーロードの出鼻を完璧に挫いた。
虚を突かれたオーバーロードが漆黒の防壁を展開しようと杖を掲げるが、ゼインの速度はそれを凌駕していた。風の推進力を刃に乗せ、極限まで圧縮された殺気を双刃に束ねる。
「奥義――『虚空斬波・双無ノ太刀』!!」
マスターアサシンの神速と暴風の加速が融合した、防御魔法ごと空間を抉り取る十字斬り。
不可視の斬波が死霊魔導王の展開しかけた魔法障壁を紙屑のように粉砕し、その禍々しい骨の身体に深々と漆黒の刃を突き立て、大きく後退させた。
一方、ライアンは迎撃に動くベルゼブブと正面衝突する。
美しい顔を歪ませる蠅王の爪撃を浄化の光で弾き、全魔力を聖剣に注いだ。
「死んでイグナイトに詫びろ!
新奥義『聖絶剣・白煌』!!」
極太の閃光の刃が、躱そうとしたベルゼブブの強固な甲殻を焼き切り、背中に生えていた醜悪な片羽を三枚、根元から斬り飛ばした。
『ギィヤアアアッ!!』
黒い体液を噴出させ、バランスを崩した蠅王がたまらず仰け反る。
その最中、ケソカの前にギルガメッシュが泰然と立った。
「ピエロ一人なら余裕余裕。先日の借りを返すでござる」
『また負けるよ?ファッファッファッ』
不気味な笑い声と共に捉えどころのない奇異な動きで襲い掛かるが『雷神剣』と『鬼徹』が閃き、雷光がケソカの肉体を焼き、切り裂く。
『クッソ、痛ってーなテメー!! ブッ殺すぞ!?ゴルァーーー!!!』
戦局を完全に覆がえした一行は、熱狂の中で残った魔獣軍団を掃討し、冥王の王室へ続く一直線の大回廊を突き進む。
ライアンの渾身の二の太刀が、ついにベルゼブブの左腕までもを斬り飛ばした。
誰の目にも勝敗は決したかに見えた。
だが、地に落ちた腕を見下ろすベルゼブブの端正な貌には、嘲笑が浮かんでいた。
『……ククク』
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