黒ひげ窃盗団対策会議
朝起きて豪華な朝食を摂った後、俺たちは食後のコーヒーで一息ついていた。
さて、昨夜の気まずい余韻は横に追いやり、明日の「黒ひげ強盗」への対策を練る時間だ。
「ノア、明日の地下オークションにおける、黒ひげの襲撃に対する対策案を出してくれ」
《了解しました。その前に、涼さんの戦略を左右する重要な非公開データをご報告します》
「ほう。なんだ?」
《独自調査をした結果、この国の防衛大臣が黒ひげから多額の賄賂を受け取っている事実が判明しました》
《昨日の闘技場で審判を務めていた男が現在の警備副隊長であり、黒ひげ海賊団八番隊隊長のジャギです》
「……なるほどな。あのクソ審判、裏で繋がっていたどころか黒ひげんとこの幹部だったか」
《はい。そして賄賂を受け取っている防衛大臣と、涼さんにこの部屋を用意した警備部長は、明日オークションが本当に襲撃されるとは思っていません》
「黒ひげ側が情報を絞って出し抜こうとしているのか、上層部が揃いも揃って無能なのか……。いずれにせよ、正規の警備はアテにならないってことだな」
《肯定します。これを踏まえた最適解を出力します。明日の地下オークションでは、強盗団はジャギの手引きで、警備システムを無効化して侵入してきます》
「つまり、正面からやり合えば乱戦になって会場の客に被害が出るな」
《はい。ですので、涼さんたちは会場で迎え撃つのではなく、ジャギが『黒ひげの逃走経路』として用意しているはずの地下搬出路へ先回りしてください。会場がパニックになっている隙に、お宝を抱えて逃げてきた一味を、カインさんとリリアさんの戦闘力で袋叩きにするのが最も効率良い方法です》
《注意点としてジャギの能力迄は解明できませんでしたが、何故か影が無いので、カインさんの『影道潜闇』の直接使用は不可能です。また、この作戦で入手を推奨する出品物が二点あります》
「わざわざノアが薦めるとは、余程の代物らしいな」
《まず最優先は出品ナンバー009番。涼さんの出身国の伝説において頂点に立つ神具、『天叢雲剣こと、草薙剣』です。これはライアンの聖剣に対抗し得る数少ない伝説の剣です》
《二点目は、出品ナンバー014番『イエローガムのムチ』。昨日敵が使用していた物ですが、涼さんの頭脳を用いた戦闘スタイルに、新たなバリエーションを加えてくれるでしょう》
俺は端末から流れるノアのアドバイスを聞いて、カインとリリアに向き直った。
「俺たちは強盗を地下で一網打尽にし、オークションの混乱を収束させる。その『防衛への貢献に対する正当な礼』として譲り受ける作戦でいきたい」
俺の言葉に、カインとリリアは深く頷いた。
敵が一番安心しきっている逃げ道で待ち伏せし、ジャギたちを潰す。被害も出さずに利益だけを掠め取り、ついでに防衛大臣への交渉カードも手に入れる。実に俺好みの合理的でえげつない作戦だ。
作戦会議を終えた俺たちは、明日の襲撃に向けた下見と英気を養うべく、要塞都市の市街へと足を運んだ。
驚いたことに、明日の地下オークションの会場は、俺たちが今泊まっているこの最高級ホテルの地下施設そのものだった。
オークションを明日に控え、街はお祭り騒ぎのような熱気に包まれている。
カインは早々に屋台の料理に目を奪われ、リリアも珍しい武具屋の出店を興味深そうに覗いていた。
その横で、俺は街の喧騒に紛れながら、ノアのマップデータと実際の地形を照らし合わせていた。
オークション会場から続く地下搬出路の出口や、身を隠すポイントを散歩を装って視察していく。
(……よし、地形は頭に入った。これで明日はハメられるな)
明日の大仕事に向けた確かな手応えを感じつつ、俺たちはホテルへと戻った。
――そして夜。
スイートルームに戻りご馳走を堪能したが、二日酔いが残ってるせいか、風呂を覗かれたせいか、リリアが酒を飲まない。
それぞれがベッドに入る準備を始めたが、リリアの警戒心は最高潮に達しているようだった。
「いいか、お前ら。今日は覗いた奴からオロす。寝てる時に襲ってきても同様だ」
リリアは冗談を排した声で言い放つと、あろうことか『ドラゴンスレイヤー』を肩に担ぎ、そのまま悠々と脱衣所へ消えていった。
(本気だ。あの女、何かあったら本当に抜くつもりだ)
それを見た俺とカインは、「本気で殺られる」と本能で察し、顔を見合わせて沈黙した。
結局、俺たちは彼女が上がるのを待ち、その後、大人しく二人で浴室に入った。
昨夜の浮ついた空気は微塵もなく、無言で互いの背中を流し合う姿は、どこか悲哀の漂う兄弟のようだった。
風呂から出た後も、俺たちは示し合わせたように自分のベッドへ潜り込み、余計な動きを封じて眠りにつこうとした。
――深夜。
静まり返った室内で、俺は意識の端でノアに問いかけた。
「ノア、二回目を使う。念のためライアンの現在の帰還率に変更がないか確認してくれ」
《了解しました。……涼さん、演算プロセス中に異常な生体反応を検知しました。照合の結果、これは以前、リリアさんが襲撃された際の『攻撃用の蟲』のデータと完全に一致します》
「……なんだと?」
ライアンの動向を探ろうとした偶然の産物だったが、過去データのおかげで最悪の事態は免れた。
俺が跳ね起きた直後、室内の静寂を切り裂くように、カチカチと不気味な羽音が響き渡った。
「……カイン、リリア、起きろ! 侵入されてるぞ!」
俺の声に二人が弾かれたように反応した瞬間、双月に照らされた床を、無数の黒い蟲が波のように埋め尽くしていく。
「げえっ!? なんだよこの蟲!」
カインが驚くと、テラスの窓の外から下卑た笑い声が響いた。
「ヒャッハッハ! さすがは闘技場のヒーローたちだ。反応が早いねぇ!」
逆光の中に立っていたのは、予想通り黒ヒゲ四番隊隊長、蟲使いのアミバだった。
「俺の可愛い蟲たちの毒を浴びて、悶え苦しみながら永遠に眠らせてやるよ!」
アミバが号令をかけると、蟲たちが一斉に跳ね、俺たちへ襲いかかってくる。
「ノア、こいつらの弱点は過去のデータから割り出せるか?」
《はい。対象の弱点は炎か雷属性の範囲攻撃です。まとめて死滅するでしょう》
「涼、カイン。手を出すな。この蟲男は俺が一人で殺る」
「リリア、気をつけろよ」
俺はそういいながら部屋の灯りを付けた。
リリアが続けて言う。
「そこの蟲使い!会うのは二度目だな? この前はナメた真似しやがって。今日こそオロす!」
リリアがアミバを鋭い目でにらみつける。
「アァ? ああ、思い出した! お前、あの時は七武神が来て助られたんだっけなぁ! ヒャッハッハ!」
アミバの侮蔑的な笑い声に、リリアの瞳に静かな、しかし苛烈な怒りが宿った。
「カイン、雷切を貸せ!」
カインが慌ててリリアに渡すと、一度使用して慣れたのか紫色の放電一振りで蟲の軍団をまとめて焼き払ってしまった。
『アブギャッ!? 天才的なアミバ様の戦術がぁ! 私の可愛い蟲たちがぁー』
リリアはそのまま、ぽいっと俺に雷切を投げ渡したかと思うと、すかさずドラゴンスレイヤーに持ち替え、爆速で必殺技繰り出した。
「【極技・竜牙断滅斬ドラゴンファング・スラッシュ】!!」
そのまま有無を言わさずアミバを真っ二つに一刀両断してしまった。
『……ヤ……ババ』
なおも蟲使いが飛び出した内臓辺りから細かな虫に分裂して脱出しようとする。
「涼!トドメだ」
「おっおう」
俺はトドメの雷切の放電で焼き払った。
『ジュワー』という嫌な音共に部屋中に焦げた肉の匂いが充満した。
「……ったく。せっかくの高級スイートルームが台無しだな」
燃えカスとなった蟲の残骸を見下ろしながら、リリアが深くため息をついた。
「ジャギの差し金か、それともアミバの独断か……。いずれにせよ、向こうも俺たちを明確に排除対象として認識したらしい」
「望むところだぜ。明日会うのが楽しみになってきた」
カインが不敵に笑う。
結局、深夜の掃除と部屋の移動を余儀なくされ、俺の「七時間睡眠」計画はまたしても崩れ去ることになった。
「涼、カインわかってるな? おやすみ~」
真新しい布団に潜りながら俺とカインは思った。リリアを怒らせたらヤバイと。
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