ガルドレイア闘技場(前編)
マリーナを見渡すと、厳つい軍艦なども停泊していた。冥界の入口が近いせいか、防壁には大砲のようなものまで何門も確認できる。いかにも最前線の要塞都市といった物々しい雰囲気だ。
管理人に停泊料を支払い、三人で都市部へと足を踏み入れる。すると、ひときわ目を引く巨大なコロシアムがそびえ立っていた。見上げれば塔のように何層にも重なっているのがわかる。だが、右も左もわからない俺たちは、とりあえず情報収集も兼ねて冒険者ギルドへ向かうことにした。
ギルドの中は熱気にあふれていた。先日のポルト・マリナーズにも腕利きの冒険者は多かったが、ここはそれ以上の猛者ぞろいだ。試しに、二日後の昼間に開催される地下オークションの警備依頼を探してみたが、予想以上に希望者が殺到したらしく、昨日ですでに締め切られた後だった。
せっかくなので受付嬢に、あの巨大なコロシアムについても尋ねてみた。試合に勝ち抜いてランクが上がるほど上層の闘技台へ行け、勝てば多額の報酬も貰えるという、どこかで聞いたことのあるようなシステムらしい。莫大な観戦料とスポンサー収入で成り立っているそうだ。
オークション警備に参加しないとお宝武器が狙えない為、ダメ元でこの街の警備担当について探りを入れてみる。すると、コロシアムの一階受付の近くに『警備担当部長』の部屋があるらしく、そこを案内してもらえることになった。
部長の部屋に通された俺は、まず急な訪問にもかかわらず会ってくれたことに感謝を伝えた。
「いやいや、ギルドマスターから『最近有名な便利屋の涼さんが来ている』と聞いておりましてね。私も是非一度お会いしたいと思っていたのですよ。どうぞお気になさらず」
部長は人当たりの良い笑顔を浮かべ、気さくに接してきた。だが、俺が黒ひげ海賊団の襲撃リスクについて切り出すと、その態度はわずかに変化した。
「黒ひげ海賊団……ええ、どこかで聞いたことはあります。しかしね、ここは要塞都市ガルドレイアですよ? このオークションは伝統もあり、規模も桁違いなのです。そういった噂話なら山ほど舞い込んでくるのですよ。それに、我々のセキュリティレベルは非常に高い。臨時バイトですら、大半がAランク冒険者で固められていますから、今のところ何も心配はしていませんよ」
にこやかな表情の裏にある『侮り』に、俺はすぐに気がついた。
俺たちは重装備のアーマーを着込んでいるわけでもなく、女もいるし、見た目も若い。おまけに冒険者登録は『最弱大陸』のままだ。明らかに舐められているのだ。
(なんだかノアから聞いていた話と違うな……)
そう思っていた矢先だった。通りがかった三人のいかにも性格の悪そうなセキュリティ担当たちが、俺たちを指差してせせら笑う声が聞こえてきた。
このまま引き下がれば、本当に黒ひげの襲撃を許し、計画が滅茶苦茶になる。俺は一歩前へ出た。
「俺たちの実力に疑問があるなら、証明してやりますよ。賞金を出してくれるなら、俺たち三人でコロシアムに参加してもいい」
そう言い放つと、部長は少しだけ目を細め、やがて口角を上げた。
「……あなたがそこまで仰るなら、いいでしょう。ちょうど、重罪を犯した極悪リザードマン三兄弟が、恩赦を求めてコロシアムへの参加を希望していましてね。もし彼らに勝てたなら、あなた方三人を『好待遇』で警備に雇い入れましょう」
こうして、俺たちは急遽、今晩のコロシアムバトルに勢いで参加することになってしまった。
部屋を出た直後、カインがギリッと歯を鳴らして吐き捨てた。
「……超ムカつくな、あのクソ部長」
リリアも相当イライラしていた。
「俺が女だと思ってなめてるな?」
俺も続ける。
「ノアと作戦立てて、あんなトカゲ野郎ども瞬殺してやろうぜ。俺らみたいな無名チームのオッズは、どうせ超高いはずだ。そこに金貨十枚ベットしてやろうじゃねーか!」
まだ宿も決まっていない俺たちは、人通りの少ない路地裏へと移動した。そこで俺はノアを呼び出す。
「ノア、今晩のコロシアムで『極悪リザードマン三兄弟』と戦うことになった。あいつらを瞬殺するためのアドバイスをくれ」
《承知いたしました。極悪リザードマン三兄弟に関するデータを検索、及び最適な戦術を構築します》
ノアは即座に応答し、脳内に分析結果を投影した。
《敵である極悪リザードマン三兄弟の平均戦闘力は『470』と算出されています。強靭な鱗による高い物理耐性を持ち、互いの死角をカバーし合う強固な陣形を組むため、正面からの力押しは悪手です》
「なら、どう崩す?」
《弱点は二つ。一つ目は鱗の薄い首元や関節部。そして最大の弱点は、陣形の要である「長男」への依存度です》
《まずは重戦士であるリリアさんが正面からドラゴンスレイヤーで強烈な打撃を叩き込み、敵のヘイトと陣形を完全に引きつけます。その隙に涼様が、ポーチ内にあるロープを用いた得意のロープワークで敵の足回りに巻き絡み付け、機動力を奪ってください》
《足元から陣形が崩れ、動きが鈍った直後――アサシンであるカインさんが『影道潜闇(シャドウダイブ』で長男の死角に潜り込み、素早い連撃で関節部を正確に切り裂いて無力化します》
「長男が倒れれば、残りの二体は混乱して隙だらけになるな。そこをリリアの重撃とカインの二刀流で一気に叩き潰す。あわよくば俺がトドメを刺す。極悪人だから迷わず殺れる」
《肯定します。それぞれのジョブ特性を活かしたこの戦術を用いた場合、無傷での【瞬殺】成功率は87%以上と算出されました》
「上出来だ。みんな聞こえたか? 痛快なショーにして、あのクソ部長の度肝を抜いてやる」
金貨10枚を本当にBET(賭け)しに行くと、俺たちのオッズは7倍強もついていた。
どうやら観客たちにも舐められてるらしい。
そして、決戦の時間がやってきた。
控室でしっかりとアーマーを装着し、完全武装を整えた俺、リリア、カインの三人。
勝手に決められた盛り上がるテーマソングを流されて、入場ゲートをくぐると、鼓膜を揺らすような大歓声と、眩い魔力照明が俺たちを包み込んだ。すり鉢状の客席は、血気盛んな観客たちで超満員だった。
『さあ、本日の特別試合! 最近、巷で噂の【奇跡の便利屋の一味 涼チーム】の入場だぁっ!』
実況の声が闘技場に響き渡る。勝手に仰々(ぎょうぎょう)しいあだ名をつけられて呼ばれているが、今はツッコんでいる余裕はない。
『対するは、恩赦を懸ける血に飢えた極悪非道獣人! 【極悪リザードマン三兄弟】!!』
向かいのゲートから、分厚い鱗に覆われた三体の巨大なトカゲ獣人が姿を現した。平均戦闘力470というだけあり、放つ殺気は本物だ。
だが、俺の視線はリザードマンたちではなく、闘技台の中央に立つ男に釘付けになっていた。
今回の試合の審判であり、昨日からこの街の『警備副隊長』に就任したという男。頭上からは煌々と魔力照明が照らしているというのに――なぜか、奴の足元には『影』が一切なかったのだ。
(なんだ? あいつ……影がない!)
得体の知れない異常事態に俺が注意を払った次の瞬間、さらに目を疑う光景が飛び込んできた。
審判が、リザードマンの長男へとスッと近づき、ボソボソと何かを耳打ちする。それと同時に、禍々しいオーラを放つ『強力な魔法武器』をこっそりと手渡したのだ。
「おい、ふざけんな! 審判が手助けして——」
俺が抗議の声を上げるより早く。
ガァァァァンッ!!
有無を言わさぬ開始のゴングが鳴り響き、不穏な試合が強制的に幕を開けてしまった。
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