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最弱職「便利屋」が攻略AIで挑む異世界冒険記 ―チート勇者とのAI対決を便利屋スキルで出し抜く―  作者: 便利屋 涼
― 第二次魔獣大戦 ―

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謎の奇術師現る

 港に停泊させていた魔導船に無事乗り込んだ俺たちは、次なる目的地である『ヴェルシア大陸』へ向けて出航した。

 スマホのナビに航路をセットし、船は順調に海原を進んでいく。


 そろそろ夕食の仕入れをしたいところだが、いちいち船を止めて釣り糸を垂らすのは効率が悪い。

 そこで俺のアイデアで、イチかバチかの『トローリング作戦』を敢行することにした。


 船尾の左右二か所にある穴に大型用の釣り竿を二本立て、魔導冷蔵庫に残っていた食材の残りを分厚い針に引っ掛ける。

 そのままルアーのように海面を引きずりながら、目的地に向かって船を進行させた。


 しばらくすると、ギュルルルルッ! と左のロッドのリールが激しい音を立てて逆回転を始めた。


「よし、来たぞ!」


 俺が慌てて左のロッドを掴み、力いっぱい引き上げようとしたその瞬間、今度は右側のロッドが大きくしなり、同じように激しい音を立てた。


「兄貴、こっちもだ! これは大物だぞ、重い……!」


 カインが右の竿に飛びつき、踏ん張ってリールを巻き始める。

 海面で激しく水飛沫が上がり、マグロのような流線型をした巨大な魚が二匹、針にかかって暴れ狂っているのが見えた。


「群れに当たったな? でかしたカイン! これ釣り上げれたらしばらくは食材に困らないぜ!」


 俺たちが歓声を上げた直後だった。

 暴れるマグロの後方から、海面が突如として大きく盛り上がり、どす黒い巨大な影が浮上してきた。


 ザバァァァァンッ!!


 凄まじい水柱と共に姿を現したのは、異常な体躯を持った海の魔獣――『暴食鮫グラトニー・ジョーズ』だった。

 奴はカインの竿にかかっていたマグロに横から食らいつくと、そのままの勢いで船尾ごと引きちぎろうと巨大な顎を開いて突進してくる。


「っ、危ない!」


 カインが腰の黒刀に手をかけようとした瞬間、横から疾風のように飛び出した影があった。


「船に傷はつけさせないよッ!」


 リリアだ。

 その手にはアダマンタイトと融合した鈍い輝きを放つ『ドラゴンスレイヤー改』がしっかりと握られている。

 彼女は船の縁を力強く蹴り、巨大な顎の真正面へと跳躍した。


「はぁぁぁッ!!」


 気合一閃。

 空中でリリアが振り下ろした大剣が、大口を開けた暴食鮫の巨体を脳天から真っ二つに両断した。


ズバァァァンッ!!


 鋼のように強靭な皮膚も、分厚い頭蓋骨も全く関係ない。

 ドラゴンスレイヤー改の圧倒的な質量と斬れ味の前には、巨大な魔獣すらもまるで豆腐のように切り裂かれてしまった。


 真っ二つになった魔獣の死骸が海へと落ち、ド派手な血飛沫と水柱を上げる。

 リリアは軽やかに船の甲板へと着地し、何事もなかったかのように大剣を肩に担いだ。


「凄い……! 威力も斬れ味も桁違いだよ。涼、この大剣は最高だ!」


 満面の笑みで振り返るリリアの圧倒的な一撃を前に、俺とカインは釣竿を握りしめたまま、しばし獲物を引き上げるのを忘れていた。


「って、見とれてる場合じゃない! 兄貴、左の竿のマグロがまだ暴れてるぞ!」


 カインの声でハッと我に返る。

 暴食鮫の気配にパニックを起こしたのか、俺の握る左のロッドの先で、残ったもう一匹の巨大マグロが狂ったように海面を跳ね回っていた。


「くそっ、重い! こいつ、どんだけ力があるんだ……!」


 俺が一人で必死にリールを巻いて格闘していると、ふいに別の船の影が俺たちを覆った。

 見上げると、俺たちのすぐ横を、別の魔導船がすれ違うところだった。


 その船の先端に、派手な衣装を纏った奇術師のような出で立ちの男が突っ立っている。

 男は暴れるマグロと引き合いをしている俺を見下ろすと、口角を吊り上げて妖しく笑った。


「ヒヒッ……大変そうだねェ。一匹、貰っていくよォ」


 言うが早いか、男はふわりと空中に跳躍した。

 その両手には、奇術師という風貌にふさわしい、奇抜で流麗な装飾が施された青龍刀のような刃が二振り握られている。


 男は空中で独楽コマのように回転しながら、俺の釣り糸の先で暴れる巨大マグロへと肉薄した。


シュパパパッ!!


 目にも留まらぬ双剣の乱舞。空中で繰り出されたその恐るべき斬撃は、なんと巨大なマグロを瞬く間に『三枚おろし』にしてしまったのだ。

 一切の身を無駄にしない、狂気じみたほどに完璧な手際だった。


 綺麗に切り分けられた美しい赤身のブロックは、男の動きに合わせて宙を舞い、すれ違う彼の船のデッキへとドサリ、ドサリと綺麗に積み重なるように落ちていく。

 俺の釣り糸の先には、見事に中骨と頭だけが残されていた。


 男はそのまま俺の目の前まで跳んでくると、俺たちの船の最後尾をトンッと軽く蹴り、その反動でふわりと自分の船の甲板へと舞い戻っていった。着地と同時にこちらを振り返り、不気味に笑う。


「アハッ、ご馳走様ァ! ……キミ、便利屋だろォ? そのうちまた会えるのを、楽しみにしてるよォ……クックック」


 唖然とする俺たちを残し、謎の奇術師を乗せた魔導船は、海の彼方へと走り去っていった。


「……兄貴」


 遠ざかる船を呆然と見つめていたカインが、ポツリと漏らした。

「あいつの一切の無駄も無い身のこなし……はっきり言って、俺以上だ」

 アサシンであるカインが、明確に畏怖いふしていた。


 俺の竿には無惨な骨だけが残された。カインの竿にかかっていたもう一匹はなんとか無事に引き上げることができたものの、先ほどの暴食鮫に下半身を食いちぎられ、見事に半分になってしまっていた。

 だが、幸いにも元のサイズがデカいため、半分だけでもゆうに十食分以上の身が取れそうだ。


 甲板に横たわる巨大魚を見下ろす。

 ノアのアップデートプレゼントのおかげで、いちいちスマホをポケットから取り出してかざす必要はなくなっていた。今回初めて、その機能を実戦する。


「スカウター始動!」


 俺が声を出すと、脳内に直接情報が浮かび上がった。


《マグローディン:体長約二メートル。毒性なし》


「おっしゃ、スキャン成功! モアチートだぜ……!」


 俺はあまりの便利さに歓喜した。食べられると分かれば、さっそく解体だ。

 俺は包丁を取り出し、引き上げた半分のマグローディンを下ろしていく。我ながら見事な手際だと思うのだが、サメのせいで半分になったのと、ついさっきあの奇術師の神業を見たばかりのせいで、どうにも自分の凄さが霞んでしまって面白くない。


 俺は負けず嫌いをこじらせて、自分の釣り糸の先に残された中骨を指差しながら鼻を鳴らした。


「……馬鹿だな、あのピエロ。こういう魚は、骨と骨の間にある『中落ち』が一番美味いんだよ」


 強がりつつ中落ちを削り取り、調味料で和えて『マグローディンのカルパッチョ』を完成させた。


 完成した料理をテーブルに並べると、カインとリリアは目を輝かせた。


「んんっ! 口の中でとろける! 涼、これ絶品だよ!」

「すげえ……! 兄貴、いくらでも食えそうだ!」


 二人が大喜びで平らげてくれる姿を見て、俺のささやかなプライドもようやく満たされた。

 貴重な残りの身はしっかりと魔導冷凍庫に保管し、今後の食料とする。


【料理メモ】

・マグローディンのカルパッチョうまし!

・醤油とワサビが欲しい


 美味しい夕食を終えると、空は茜色に染まっていた。そして水平線の向こうにようやく目的地が姿を現した。

 巨大な城壁に囲まれた堅牢な都市――『要塞都市ガルドレイア』だ。

 俺たちはその外縁に併設されているマリーナへと、ゆっくりと魔導船を停泊させた。

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