リリアへのプレゼント
――ドワーフの洞窟前
俺は頭を整理していた。
(ライアンたちも装備を強化している……。それはつまり、もう間もなく神々と直接戦うつもりだということだろう。ルークやエリスたちも、パーティーのために必死に成長しようとしてくれている。戦力が底上げされた今、俺たちが次に打つべき手は何だ?)
俺はスマホを出さず空に向けて呟いた。
「ノア、今日一回目を使う」
《涼さんはもうお分かりかと思いますが、第二次魔獣大戦が始まります。三大神もライアンたちを相当警戒をしていて、この世界中の強力な魔獣達を招致してる事でしょう。なので簡単すぐに決着がつくような事はありません》
ノアの冷静な声が響く。だが、懸念材料は神だけではなかった。
《それと、黒ひげが力をつけてきています。あの野心家は単に世界の秘宝を狙っているだけでなく、もっと大きな、何らかの事態を狙って戦力を増強しているようです》
《特に厄介なのは、ナンバー2の男が操る禁呪です。特異な力を持った能力者が増殖しており、まずその元凶を叩かない限り、泥沼の消耗戦になるでしょう》
探し回るのはタイムロスだ。ノアは合理的なタイミングで助言すると約束し、さらに衝撃的な告白を続けた。
《現在、ライアンの持つギアをハッキング中です。既に重要機密もいくつか奪取しました。真偽が確定次第、報告しますね》
「え!? お前、そんなことして大丈夫なのか?」
思わず声が裏返った。相手はあのライアンだぞ。
《ライアンもルシフェル様も、涼さんにAIの味方がついていることには気づいていますが、末端天使である私の個体識別まではできていません》
「ええっ!? お前のその行動……前世の感覚で言うと、ファンのストーキングじゃねえか?」
《なっ、なんてことを言うんですか! 私はこんなに一生懸命、涼さんのために危険なハッキングまでしているのに!》
ノアが慌てて言い訳をはじめる。
《……ルシフェル様の嗜好探知なんて、たまたまの『ついで』です!》
「やば! ノアやばっ!」
《こんなに頑張っているんですから、そのくらいのご褒美があったっていいじゃないですか》
開き直ったノアに、俺は頬を引きつらせるしかなかった。
「ま、まあ……見つからないように頼むわ」
呆れる俺をよそに、ノアはすっと声のトーンを真面目なものに戻した。
《それから、涼さんも今後、ホーリーナイフ一本で戦うのは危険です》
《私の調べた結果、ライアン達はまず戦闘力が一番低くて、ついでに『冥王兜』が手に入りそうなハーデスを倒そうとしています》
《涼さん達はそれを阻止する為に、魔導船で次の大陸の、冥界の入口に近い要塞都市に向かって下さい。そこで、ついでに強力な武器を入手するのです》
「入手って……買う金なんてないぞ?」
《実はその都市で近々、大規模な地下オークションが開催されます。そして、黒ひげの配下たちがそこを襲撃し、たくさんのお宝を強奪しようと計画しているんです》
「なるほど。俺たちが先回りしてその襲撃を防ぐってわけか」
《はい。ただ、部外者がいきなり会場に入るのは困難です。そこで、便利屋の涼さんの出番です》
「便利屋の出番?」
《ええ。涼さんの交渉スキルを活かして、オークションの主催トップと交渉し、警護任務依頼を受けるのです。リリアとカインの『Aランク冒険者』という肩書きは、交渉材料には十分です》
《見事黒ひげの攻撃を防ぎきれば、お礼としてスーパーレア装備を譲ってもらえる算段です。さらに、その護衛報酬とギルドで得たお金を合わせて、レア装備をもう一つ狙うのです》
《涼さんにぴったりな合理的作戦です》
悪党の強奪を阻止しつつ、任務もこなす。それなら俺のスタンスにも合う素晴らしい提案だ。
《というわけで、魔導船に乗る前にまずは冒険者ギルドですね。手持ちの素材を換金して、少しでも資金を潤沢にしておきましょう》
ノアの的確なアドバイスに頷き、俺たちは出発前の換金手続きのため、ギルドへ向かった。
ギルドに到着した俺たちは、早速Aランク任務の証である『ヴェノム・マンティコア』の毒の尻尾と魔石をカウンターに提出した。
ついでに道中で手に入れた魔獣のドロップ魔石も全て買い取ってもらい、懐はかなり温かくなった。
だが、今後の旅に向けて一つ懸念があった。いくら機動性が上がったとはいえ、流石にリリアのあのアダマンタイトアーマーを長距離移動で着たままこれ以上歩くのは不向きすぎる。
そこで受付嬢に専門ショップを教えてもらい、俺はリリアに『魔導バックパック』をプレゼントした。
「こんな高価なものを……! ありがとう。涼」
「いや、リリアやカインを含め、みんなで頑張って稼いだお金だから」
かなりの高額出費だったが、リリアが満面の笑みで喜んでくれたので安いものだ。
ただ、普段はバックパックに装備を収納しておくとなると、いざ戦闘が起きた時の「アーマーの装着時間」も計算に入れて立ち回らなきゃいけない。俺もリリアも、その点はしっかりと肝に銘じておいた。
用事を済ませた俺たちは、昼食をとることにした。
ずっと野食が続いていたので、今日は少しだけ贅沢をして、この地方の名物だという『雷鳥の卵と雲乳のオムレツ』を注文する。ふわふわで濃厚な味わいが疲れた体に染み渡り、三人にとって最高の休息になった。
食後、一息つきながら、俺はノアから聞いていた情報をカインとリリアの二人に説明した。
これから向かうべき場所、そして待ち受けるであろう事態。
情報をしっかりと共有し、腹ごしらえも済ませた俺たちは、次なる目的地である『魔導船』の乗り場へと向かって歩き出した。
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