堕天使 NOA
《本日の助言残数:2》
《使用するか?》
「何?よくわからんがヤバい!使う!」
《左個体へ直進。包囲完成前に数を減らせ》
《兄弟は前世から身に着けていた、工具やスマホを持っている》
(そうだ!腰のベルトにドライバーがある)
言われた通り、俺は前へ出た。
躊躇はしない。
持ち前の反射神経で、魔獣の目に突き刺す。
一体を潰し、残りと距離を取る。
《残存二》
《生存確率52%に上昇》
「次は?」
《使用するか?》
(何だ?残り1回て事か?)
「……イヤ、自分でどうにかする」
プラスとマイナスのドライバーを両手に持ち、ファイティングポーズをとって威嚇する。
《右へ退避。二体は追撃せず離脱傾向》
その通りだった。
ゴブリン達は森の奥へ退いていった。
静寂が落ちる。
俺は荒い息を整えながら、頭の中で会話する。
「すまんノア、最後の一回だ。説明に使う。状況整理が重要だ」
数秒の沈黙。
辺りが白くなる。
頭に天使の輪、背中に翼の生えた美しい女性が目の前に浮いている。
《私はNOA》
《元AIという認識は、あなたが作った仮定です》
「じゃあ正体は?」
《観測者》
《堕天の位にある存在》
(ノアは堕天使!?)
空を見上げる。
青い。
雲の流れも、太陽の位置も、違和感はない。
「気温も体感も、地球とほぼ同じだな」
《この世界の自転周期は約二十四時間》
《重力誤差、誤差範囲内》
《ただし月が二つ存在》
俺は空を睨む。
薄く、昼でも見える白い月が二つ見えた。
《助言回復条件:双月の巡り》
《二つの月が重なる周期で二回分補充》
「だから助言は一日二回か」
《ええ》
女の声は淡々としているが、どこか感情の底がある。
「ここは何だ」
《歪みを抱えた世界》
《上位存在の干渉下にあります》
「干渉?」
《魔獣の異常進化は意図的》
《観測されることで変異が加速》
「観測ってのは――」
《あなたが撮影する行為》
電波表示は圏外。
だが正常に動いている。
試しに、死んだゴブリンにカメラを起動する。
画面越しに景色が歪む。
《観測確定》
空気が一瞬、震える。
「……今、何か変わったな」
《観測=世界への干渉》
《干渉が強いほど、帰還達成率が上昇》
画面右上に小さな表示。
《帰還達成率:0.02%》
「帰還?」
《百分率到達で選択可能》
《強制ではありません》
「ひょっとして、元の世界に戻れるってことか?」
《はい》
沈黙。
風が吹く。
森の匂いは濃いが、不快ではない。
「じゃあ上げればいいんだな?」
《そう単純ではありません》
《強敵、干渉の核を観測・是正した場合のみ大幅上昇》
《雑魚では微増》
「つまり、面倒な場所に首突っ込めって話か」
《便利屋でしょう?》
わずかに、声が柔らぐ。
俺は苦笑する。
スマホの画面が淡く光る。
《最初の歪みです》
女の声が静かに落ちる。
《涼、今まで親友として有難う。私はこれからあなたの観測装置内に降ります》
《この世界は、あなたを観測し始めています》
目の前の天使が消えた。




