名前
帰り道。花火が上がっている途中で抜けて来たからか、まだ人けがない。
成瀬は俺の手を握りながら、俺の歩幅に合わせて歩いてくれた。
まだ顔が熱い。さっき、花火の下で……。
「陽希? どうした?」
「な、なんでもないよ!」
「ふーん」
成瀬はニヤリと笑った。
そういう余裕そうな顔がムカつく。でもそこも好き。まぁ本人には直接言えないけど。
「陽希。花火綺麗だったな」
「ああ、そうだな」
「陽希が俺の名前呼んでくれたの、めっちゃ嬉しかった」
「そうかよ……」
「もう一回言って。これからも、名前で呼んで。良いでしょ?」
「ハードル高い要求すんな……」
「一回越えられたんだから行ける行ける」
成瀬は楽しそうに、嬉しそうに笑った。
その笑顔を見てたら、応えたくなるだろ……ばか。
「颯太」
「もう一回」
「颯太……!」
「もう一回」
「颯太!」
「もう一回」
「何回言わせんだよ!!」
「すんなり出てくるようになるまで」
「お前っ……!」
成瀬が突然、俺を引き寄せ、そのまま抱きしめてきた。そのまま耳元で、
「好きだぞ、陽希」
一気に顔が熱くなる。そんなの耳元で言われたら、心臓がもたなくなるだろ。
「ずりぃ……」
「ズルくて結構」
暑い夜に、二人が抱きついていたら、当然暑い。離れたら多少は涼しくなるのは分かってるけど、離れたくない。
俺は言葉で言う代わりに、抱きしめ返した。
それから時は流れ、新学期になった。
俺は緊張しながら教室の扉を開け、成瀬の姿を見つけて近づいた。
成瀬は俺に気づいたらしく、「おはよう」と挨拶してくれた。
俺はそれに応えるために、一度深呼吸をした。大丈夫、いっぱい練習してきたんだから。
「おはよう……そ、颯太」
目の前の颯太が固まった。
もっと喜ぶかと思ってたから、予想と違う反応に少し落ち込んだ。
すると、颯太に抱きしめられてビックリした。
「なんっ、どうした……?」
「反則」
「ってここ学校だからっ」
「今誰もいねぇから平気」
「そういうことじゃなくてだな……」
離してほしいはずなのに、押し返す手に力が入らない。
「めっちゃ嬉しい」
「それは良かったな……颯太」
「待って」
「颯太」
「待てって」
「颯太」
「ちょっと待ってくれ」
颯太が俺を離して後退りし始めた。
いつもの颯太なら余裕そうな顔して笑うクセに、今は耳まで真っ赤だ。
「顔真っ赤だぞ」
「うるさいなぁ……」
颯太の珍しい顔が見れて、優越感に浸れる日が来るとは思ってなかった。




