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花火前の

 俺と成瀬は歩いて花火大会の会場に向かった。

 会場に近づくにつれ、どんどん人が増えていく。まぁ当たり前なんだけどさ。

 すると成瀬が俺と手を繋いできた。

「バカッ……! 人がいるだろ……!」

「平気だって。それに、これなら絶対はぐれなくて良いだろ?」

「誰かに見られたら……」

 と言った瞬間、後ろから誰かに声をかけられた。振り返るとそこにはクラスメイトの三人がいた。

「よお、成瀬ぇ〜高坂ぁ〜」

「高坂は浴衣か」

「めっちゃ似合ってんじゃん!」

 浴衣を褒められるのは嬉しいけど、今は成瀬と手を離したかった。なのに、全然離してくれない。むしろガッチリ掴んでる。

 向こうからしたら、クラスメイト二人が手を繋いで花火大会に来てるとか、不自然でしかない。

「なぁなぁ、良かったら一緒に回らね?」

 心臓が跳ね上がった。一緒に回るってことは、手を繋いでるのもバレるということ。

 とにかく離そうとしていると、成瀬が、

「わりぃ、俺ら先約があるんだ。そっちで楽しんでくれ」

「おう、楽しんでこいよ〜!」

「行くぞ陽希」

 耳元で成瀬に囁かれたかと思えば、繋いだ手をグイグイ引っ張られていった。

「おい成瀬……」

「陽希、手ぇ離そうとしてただろ」

「そりゃあ、恥ずかしいし……」

「あと褒められて嬉しそうだったろ」

「そりゃあ、誰だってそうだろ」

「俺が一番だろ?」

「そりゃあ……って、はっ!?」

 大きい声を出してしまったことに気づき、周りの何人かがこちらを見ていた。

「と、とにかく! なんか食べようぜ? な?」

 特に返事をしない成瀬は、どこか拗ね気味で、少し気まずくなった。

 とりあえず屋台巡りを始めたが……。

「焼きそば食べるか? こっちにチョコバナナ! あっちに鶏皮……」

 何も返ってこねぇ。いつもならあーだこーだ言って振り回すクセに……!

「なぁ悪かったってば……」

「おう」

 会話終了。

 こんな成瀬、出会った時以来だな。

 やがて端っこまで来てしまったので、近くにあったイチゴ飴を購入し、少し離れたところに座った。

「なぁ成瀬……機嫌直してくれよ……」

 しばらく成瀬を見つめていると、成瀬が急に吹き出した。

「え、なになに……?」

「焦ってる陽希面白いなぁ」

「わざと返事しなかったのかよ!」

「悪い悪い。つい、な?」

 俺は言い返す代わりにイチゴ飴を一粒食べた。

「俺にも寄越せ」

「やだ」

「一粒だけだから」

「一本五百円だから自分で買えよ」

「やだ陽希の食いかけが良い」

 その言葉に顔が一気に熱くなる感覚がした。

「外でそんなこと言うな……!」

「家なら良いの?」

 それはそれで心臓に悪い。


 やがて会場に、花火が打ち上がるというアナウンスが響き渡った。

「もうすぐだってよ。だからこっち見てねぇで上向け」

「なぁ陽希。そろそろ下の名前で呼んでほしいんだけど」

 俺が今まで、恥ずかしくて避けてきたことだ。

「無理にとは言わねぇけどさ、でも……一回くらい聞きたい」

 アナウンスでは花火が打ち上がるカウントダウンを開始していた。

『3、2……』

 俺は深呼吸をしてから、成瀬を真っ直ぐ見つめた。


「そ……颯太……!」


 バンッと音が響き、空に綺麗な花が咲いた。

 花火の光の中で、颯太が嬉しそうに笑った。

「上々だな」

 誰もが空を見上げる中、俺らは人知れず……まぁ王道だけど、唇を重ねた。

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