夜景なんか見てられない
夜空に色鮮やかな光を放つ、巨大な観覧車。中央にあるデジタル時計は、19:30と表示されていた。
成瀬が「そろそろか……」と呟いた次の瞬間、突然俺の手を引っ張り、観覧車へ向かって歩き出した。
「おい成瀬、急に引っ張んなよ」
「悪い悪い。代わりに最高の景色を見せてやるからよ」
悪いだなんて一ミリも思ってなさそうな顔で、ただの手繋ぎから恋人繋ぎに変えてきた。
「おい……恥ずかしいからやめろ……」
「堂々としてりゃ良いんだよ」
相変わらずの強引さ。でもそれも含めて好き……。
ゴンドラに乗り込むと、スタッフがゆっくりと扉を閉めた。
二人っきりの空間。さっきまで聞こえていた園内の賑やかさが、少しずつ遠ざかっていく。
外の夜景は綺麗だった。けど、どうしても成瀬の方を見てしまう。
「陽希、今日一日楽しかったか?」
「うん、まぁ……ね」
「素直じゃねぇな〜」
「悪かったな」
それから俺は少し間を空けてから、
「なぁ、いつからだ?」
「何が?」
「俺のこと、好きになったタイミング」
初対面ではあんなに嫌悪されてたのに、気づいたらこうなってたし……。
「いつからなんだろうな。自覚一歩手前だったのは、バレーボールが陽希に当たっちゃった時」
珍しく成瀬が怒ってた時か……。
その後保健室で寝てたら、成瀬に顔近づけられて、めっちゃ心臓に悪かったやつ。
「それから色々考えてさ。毎日陽希の顔見てたら、恋愛対象として好きだって気づいた」
一拍置いてから、成瀬は続けた。
「だって俺、陽希でぬ……いや、何でもない」
「恥ずかしいこと言うな……」
「何も言ってないぞ」
「お前なぁっ!」
「陽希はいつから? 俺にドキドキした瞬間くらいあんじゃねぇの?」
成瀬はニヤニヤと笑いだした。
ドキドキした瞬間なんて、心当たりしかない。
相合傘とか、手が触れた時とか、優しくされた時とか。数え切れないほどたくさん。
でも全部言うのは癪だから、外を向いて黙った。
もうすぐ頂上に着くらしい。
すると何故か、成瀬が隣に来て、恋人繋ぎをしてきた。思わず成瀬の顔を見た瞬間。
「陽希、好きだよ」
顔が熱くなる。真剣で、真っ直ぐ見つめてきて。安直な言葉。でも、ハッキリと伝わる言葉で。
恥ずかしさで顔を逸らすと、顎を掴まれ、目線が戻される。
「今ドキドキしてるだろ?」
「そんなこと」
「じゃあこれでも?」
成瀬が顔を近づけて、軽く口付けてきた。
心臓が跳ね上がる。
「バカッ、誰かに見られたらどうすんだ!」
「みんな夜景に夢中で気づかねぇよ」
「そういう問題じゃなくてだな……!」
成瀬はクスリと笑うと、軽く俺の胸に手を当ててきた。
「何すんだよ」
「やっぱドキドキしてんじゃん。身体は正直だな」
「お前っ、その言い方やめろ!」
でもそんなところを許してしまうくらい、この男が好きな俺は、相当毒されてるみたいだ。




