零れた言葉の行き先
それから夕方まで、なんとか宿題を進めた。
進めたはずなんだけど……正直、何をやったかほとんど覚えてない。
成瀬のせいで、全然集中できなかった。
成瀬を玄関まで見送って、扉を閉め、部屋に戻って、ベッドに倒れ込んだ。疲れなのか何なのか分かんないけど。
さっきのことが、頭の中で何度も繰り返される。
アイツが咥えてた飴。あれは元々俺が咥えてたやつだろ。
なんで人が舐めてた飴、食えんだよ。
家族のでさえも抵抗するのに。
まさか、成瀬も……いやそんなことないか。
そういうのが平気な奴なんだろう。
なんだか縮こまりたくなって、俺は起き上がって体育座りをした。
成瀬が俺のこと好きかもしれない、なんて。そんな夢物語みたいなことないよな。
最初は冷たかったクセに、なんだかんだ世話焼きだし。
相合傘のときだって、あいつは何も気にしてなかった。肩が触れても、平気な顔で。
文房具屋で、自分が使ってるってもの選んで渡してきたし。
俺がボールを頭にぶつけられた時なんて、自分じゃないのに怒ってたし。
当日に突然、水族館に誘ってきたり。
急に手を繋いで来たり、泣いてたらハンカチで拭ってきたり。
お揃いになっちゃったって言ってキーホルダー見せてきたり。
俺のためにクレーンゲームで、イルカストラップ取ってくれたり。
チョコ付きビスケットを口に突っ込んできて、俺の唇に触れたのに、何事もなかったかのように手を引っ込めたり。
俺が好きなジュース覚えてたり。
俺のために部屋片付けてたとか。
頬つまんできたりとか。
今日なんて、いきなり家凸してきたりさ。
でもそんな成瀬が、
「好きになっちゃったんだよな……」
俺だけ変に意識してたみたいで。
ホント、バカみたい。
次の瞬間、扉が開く音が響いた。
母さんかなと思いつつ顔を上げると、そこには成瀬がいた。
「成瀬……なんで……」
「いや、忘れ物取りに来た」
「そっか」
「なぁ、『好きになっちゃった』って、何のことだ?」
一気に頭が真っ白になった。
成瀬の声が遠くに感じる。
このまま告白……そんなことが出来る勇気なんて持ってない。そもそも『ありがとう』すら言えない奴が言えるわけないだろ。
「陽希」
肩を掴まれて、驚きで心臓が跳ね上がる。
気づけば顔が近くにあった。逃げ場を塞ぐみたいに距離詰めてきて。
「誰だ?」
目の前の成瀬は、どこか切羽詰まったような表情だった。
「好きな奴って、誰だ?」
なんでお前が、そんな顔してんだよ。




