なんで平気なんだよ
結局部屋に上げてしまった。
成瀬が、部屋を軽く周りを見渡して、
「散らかってんな」
「お前がいきなり来るからだろ!」
床にあったものも、机の上にあったものも、さっきテキトーな場所に無理やり押し込んだだけで、全然片付いてない。
「別に気にしねぇよ。なんか、陽希っぽい」
「どういう意味だよ!」
成瀬は机まで歩くと、いつの間にか手にしていた折りたたみイスを広げた。
「ほら、やるぞ」
「何を?」
「宿題。さっき言っただろ」
そう言って、俺の机を軽く叩いた。
「やらねぇと終わんねぇだろ」
ごもっとも。
渋々机に近づくと、成瀬がノートを広げた。
「どこまで進めた?」
「まだ何もしてない」
「陽希お前、さては最終日に近づいて来てから、やっと終わらせるタイプだろ」
「うるせぇ」
当たりだよ。
「そんじゃあ、数学からやるぞ」
「何で数学……」
「陽希は計算間違いが多いから」
「悪かったな」
成瀬が座り直すと、ガタッと椅子が鳴り、距離が一気に縮まった。
やっぱり近い。
分かってたけど、逃げ場がない分、余計に近く感じる。
「何してんだよ、早くやれ」
「分かってるし」
ペンを持つ手が、ほんの少しだけぎこちなくなっている気がする。
ノートに視線を落としても、隣の気配がやけに近くて。肩が触れそうで、意識しない方が無理だった。
「そこ違う」
成瀬の指がノートを押さえる。
こんな距離、教室でもあったはずなのに。なんでこんなに落ち着かないんだ。
自分の家だからか?
「止まってる」
軽く頭を小突かれる。
「痛っ」
「分かんねぇなら素直に言えよ」
「別に分かるし」
「そもそもちゃんと集中してんのか?」
「してるし」
言い返しながらも、またノートに視線を戻した。
そして休憩時間を取ることになり、俺はぐったりしていた。
「まだ数ページしか進んでねぇのに」
「お前とは違うんだよ」
机に突っ伏したまま返すと、成瀬が小さく息を吐いた。
「それで困るのはお前だろ」
「分かってる……」
分かってるけど、頭が回らない。
というか。
いつもより成瀬が近くにいるせいで、余計に集中できない。
なんて言えるわけもないけど。
「ほら」
視界の端に何かが差し出された。
何かと思って顔を上げると、口元に棒付きキャンディを押し付けられた。
「口開けろ。糖分補給」
言われるがまま咥えると、人工的な甘ったるさで、くどい味。
しかも、後から追いかけてくる薬みたいな変な匂いが、その甘ったるさを、得体の知れないものに変わっていく。
「何味だよこれ」
「チェリー味。家にあったやつテキトーに持ってきた」
絶対よく分からない海外製のやつだ。
「なんだよその顔」
「別に……」
すると突然、成瀬が棒を引いて、自分で咥え始めた。
「うわ、甘ったる。絶対よく分からない海外製のやつじゃん」
突然のことに固まっていると、代わりに別の棒付きキャンディを口に入れられた。
舌の上で弾ける、舐めたことあるソーダ味だった。
「こっちなら、まだマシだろ。王道だし」
いや、待って。ソーダ味に変わったのはまだ良い。
なんで、俺が咥えてたもんを、成瀬が咥えてんだよ。
それってどう考えても、間接キスじゃ……。
「陽希? どうした? まさかその味もダメだったのか?」
「いやっ、別に……平気。たまに食べるし」
「そっか。なら良いや」
心臓の音が、やけにハッキリ聞こえる。こっちは全然良くないけどな……!




