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距離が変わる音

 期末テストが始まる前の金曜日。

 いつも通り勉強会をしていると、成瀬がある提案をしてきた。

「明日、暇だったら一緒に勉強しない?」

「良いけど……場所は、図書か――」

「俺の家」

 思考が停止した。

「は……?」


 翌日。

 駅前で集合し、成瀬が家まで案内してくれた。

 着いてしまった……。

 成瀬の部屋に入ると、シンプルで綺麗な雰囲気を感じた。

「昨日急いで片付けた。勉強会するのに、汚れてたら集中できねぇだろうし」

「俺のた……いや、勉強のためにか……すごいな。どのくらい汚れたかは知らねぇけど」

「高坂のためだぞ」

 思わず荷物を落としてしまった。

「なんだよ固まって。嬉しいか?」

 成瀬が面白そうに笑いながら、俺の頬をつまんできた。

「やめろモニュモニュするなぁっ!」

「結構柔らかいんだな」

「やめろっつってるだろ!」

 顔が熱くなってるのを感じて、隠すために手を振り払った。

「ほら、さっさとやるぞ」

 そう言って机の前に座ると、いつもの勉強会通り、成瀬は隣に座ってきた。

 心なしか、いつもより近い気がするけども。

 切り替えようと思って、ノートを開き、問題に目を落とした……けど、全然頭に入ってこない。

 隣にいる成瀬の気配が、やけに近い。

 ペンを走らせる音とか、ページをめくる音とか、いちいち意識してしまう。

 俺の集中力を削りに来てやがる……本人は無自覚なんだろうけど。

 チラッと横を見ると、成瀬は普通に問題を解いていた。

 何事もないみたいな顔してやがる。

 いつもより距離が近くて、肩が触れそうで触れない。少し動いただけで当たりそうだ。

 そう意識した瞬間、余計に気になって、慌てて視線をノートに戻した。

「高坂」

「な、なんだよ」

 チラ見してたことがバレたか……?

「ここ違う」

 言いながら、成瀬が近づいてきた。

 ただでさえ近かった距離が縮まり、肩が触れる。

 ノートを指さす手が、すぐ近くにあって。

 少し動けば、触れそうだと考えていたら、

「ほら、ここ」

 成瀬の指先が、紙の上をなぞり、そのまま俺の手首に軽く触れてきた。

「ちょ……」

「どうした?」

「いや……なんでもねぇ」

 心臓がうるさい。

 絶対バレてる気がするのに、成瀬は平然としている。

 なんなんだよ、こいつ。

 絶対弄んでやがる……!

「なぁ高坂」

「何だよ……」

「陽希って呼んでいい?」

 ペン先が止まった。

 ゆっくり顔を上げると、成瀬と目が合う。

 ただでさえ、さっきから距離近くておかしくなりそうなのに。

「ダメか?」

 軽い口調なのに、成瀬は目を逸らさなかった。

 逃げ場が塞がれるような感覚。

 俺はなんとか言葉を絞り出すが、

「別に、好きにすれば」

 ぶっきらぼうに返すのが精一杯だった。

 成瀬は軽く笑って、

「りょーかい。陽希」

 また顔が熱くなっているような気がする。

 好きな人に名前を呼ばれるだけで、こんなにドキドキするなんて、思ってなかった。

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