いつも通りへ
成瀬にチョコ付きビスケットを食べさせられてから、勉強に集中できない。
移動教室も置いて行って。でもずっとついて来て、顔を覗こうとしてくる。
「なぁ高坂」
「ついてくんな!」
「いや同じ教室だし」
お昼休みになり、俺はすぐに教室を出ようとすると、成瀬が話しかけてきた。
「高坂、パン買いに行くのか? 俺も行……」
最後まで聞かずに教室を出た。
成瀬には悪いけど、こっちは心臓が持たないし、まともに顔見れないし、話したらぼろが出そうで、ツラい。
拒絶されたら、って考えてしまう。ただでさえ友達少ない……というか成瀬以外そこまで仲良い奴がいない。
そんなことを考えていると、中庭のベンチに着く。
「また独りぼっちになるのは嫌だ」
溜め息混じりに呟いた。すると頬に冷たい感触がして、驚いて声が裏返った。
「ははっ、なんだよその声」
「成瀬お前……!」
「ほら、お前が好きなオレンジジュース。ありがたく受け取りな」
言われるがまま受け取ると、成瀬は当然のように隣に座った。
「そんで、何で俺から逃げてんの?」
「逃げてねぇし……」
「いや逃げてんだろ」
「逃げてねぇって」
すると成瀬が、両手で俺の顔を挟んで、無理やり目線を合わせてきた。
「じゃあこっち見ろよ」
成瀬の表情は、いつになく真剣だった。冗談を言う時の顔じゃない。真っ直ぐで、全てを見ようとしているような……そんな目。
「なんかあったのか?」
「え……」
「さっき言ってただろ。『また独りぼっちになるのは嫌だ』って」
聞かれてたのか……恥ずかし……。
「別に……」
反射的にそう返したけど、声がうまく出ない。
「別に、で済む顔してねぇだろ」
逃げようとしても、顔を掴まれていて逸らせない。
近い。近すぎる。
何もかも見透かされそうで、怖い。
「俺、なんかした?」
「何も……してない……」
「じゃあ何で逃げた。何で自分から独りぼっちになろうとしてんだよ」
何も言い返せない。
喉の奥が詰まったみたいで、言葉が出てこない。
視界が、少しだけ滲む。
「なんでも、ねぇよ」
やっと絞り出した声は、情けないくらい掠れていた。
それ以上、何か言われるのが怖くて。
俺は成瀬の手を振り払って、立ち上がった。
「高坂」
呼び止める声を無視して、背を向ける。
逃げてるって分かってる。
でも、今は……これ以上、ここにいられない。
走り出そうとすると、成瀬に腕を掴まれた。
「話聞けよ。俺がいるだろ」
視界がどんどんぼやけていく。
またあの顔を晒すのが嫌で、俯いた。
「高坂、お前が前の学校で、何があったのかは知らない。でも、今は俺がいるだろ。悩んでることがあったら言えよ」
今の悩みなんて、成瀬に相談なんてできないけどな……。
「俺、高坂が来る前は、自分から一人になって、それなりに良い生活を送れてるなって思ってたけど」
成瀬は一呼吸置いてから、
「高坂と出会って、めっちゃ良い生活送れてるって思えることが増えた。お前のおかげで、友達って良いもんなんだなって思えた」
俺は深呼吸してから、
「そっか」
小さく息を吐いた。
「悪かったな。変に避けて」
自分でも驚くくらい、素直に言葉が出た。
「いーよ別に」
成瀬が少しだけ笑った。
その顔を見て、胸の奥がちくりと痛んだ。
だけど無理やり口角を上げる。
友達。
そっか、友達か。
もしかしたら、俺は友情を別の何かと勘違いしているだけかもしれない。
そう考えさせてほしい。そう思い込ませてほしい。
結局俺は、そうやってずっと逃げている。




