昨日までと違う朝
水族館に行った日の翌朝。
目が覚めた瞬間、俺は天井を見つめたまま固まっていた。
昨日の出来事が、一気に頭の中に蘇ってきた。
水族館、クラゲ、手ぇ繋がれて、飲み物買ってくれて、アザラシのキーホルダーお揃いで持つことになって、イルカのぬいぐるみ取ってくれて、頭を撫でられて……そして、成瀬が好きなんだって、気づいた。
「は?」
自分で思った言葉なのに、改めて思い出して頭を抱えた。
「マジかよ……」
枕に顔を押しつけた。
「なんで俺、アイツのこと……」
ふと時計を見ると、寝坊していることに気づいた。
昨日中々寝付けなかったというのもあるんだろうけどさ。
俺は急いで支度して家を出た。
学校に着き、教室のドアを開けると、ちょうど予鈴のチャイムが鳴った。
セーフ……。
内心で安堵しながら席に向かうと、隣の席に座っていた成瀬がこちらを見た。
「おはよ。珍しくギリじゃん」
「うっせぇ……」
それだけ返して、俺は椅子に腰を下ろした。
鞄を机の横に掛けながら、ちらっと隣を見る。
成瀬はいつも通りの顔で、何事もなかったみたいにしていた。
なんなんだよ。昨日あんなことしてきたクセに。
すると成瀬が、
「高坂、お前朝飯食ってねぇだろ」
図星だ。
「べ、別に……」
「嘘つけ」
そう言って、成瀬がポケットから小さな袋を取り出す。
チョコが付いたビスケットだった。
「これ食えよ」
「いらねぇよ」
でも腹の虫が鳴った。めっちゃ恥ずかしい。
「いいから食え」
「いらねぇって」
「腹鳴ってたぞ」
「なっ、鳴ってねぇ!」
言い返した瞬間だった。
成瀬が一枚つまみ上げて、そのまま俺の口に突っ込んできた。俺は思わず口を閉じる。
その瞬間、成瀬の指が俺の唇に触れ、思考が止まる。
成瀬は何事もなかったみたいな顔で、手を引っ込めた。
思考停止したまま咀嚼すると、甘いチョコとビスケットの味が広がる。
「うまい」
「だろ?」
「いやそうじゃなくて!」
キーンコーンカーンコーン……と、授業開始のチャイムが鳴って、会話は遮られた。
一限目が始まったが、俺は心ここにあらずだった。
さっき……触れたよな?
チラッ、と隣を見ると、成瀬は普通にノートを取っていた。
なんでそんな平然としてんだよ。
俺だけ意識してて、バカみたいじゃん。
またチラッと見た、次の瞬間。
「何?」
成瀬と目が合った。
心臓が跳ね上がる感覚がして、俺は慌てて前を向いた。
授業が終わり、成瀬が話しかけてきた。
「高坂、俺の方見てただろ」
「はぁっ!? 見てねぇし! 自意識過剰なんじゃねぇの!!」
「てか朝から様子おかし……」
「次移動教室だろ! 置いてくぞ!」
とにかくその場から離れたかった。
俺は早歩きで教室を出た。
「おい待てって」
そう言う成瀬を置き去りにして、早歩きで次の教室に向かった。




