気づいてしまった
クラゲ空間を抜け、エスカレーターを使って次のフロアに向かうと、そこにはカフェテリアがあった。成瀬が顎でそこを示す、
「なんか飲むか? 今なら人少ねぇし」
「おう……」
「何飲む? 食べもんでも良いけど」
俺は少し考えてから、
「キーホルダー付きドリンク……」
「りょーかい。買ってくるわ。高坂は空いてるとこ座ってろ」
「金は……?」
「いーから座ってろって」
俺は渋々、空いてる場所に座って、成瀬を待っていた。
しばらくして、戻ってきた成瀬からキーホルダー付きドリンクを受け取った。
付いてきたのはアザラシのキーホルダー。可愛いけど、クラゲが欲しかったな……と少しだけ肩が落ちた。
成瀬は俺の隣に座った。手元にはバジル風のナゲット。一口食べると「うま」と言って、また一口と進めて行った。
そんな呑気な成瀬との距離は、肩が触れそうな距離。もう少し離れて欲しいという気持ちと、離れないで欲しいという気持ちがせめぎ合って混乱してくる。
するとナゲットを食べ終わった成瀬が、
「やっぱ飲み物買えば良かったな。ちょっと買ってくるわ」
そう言って買いに行き、帰ってきたと思ったら、成瀬の手元には、俺と同じアザラシのキーホルダーがあった。
「高坂がクラゲのやつ物欲しそうにしてたからさ、出たらやろうと思ったんだけど……ただのお揃いになっちまった」
その言葉に心臓が跳ね上がる。
キーホルダーはランダム。三分の一だけど、まさか同じキーホルダーだとは……
「高坂、イルカんとこ行こうぜ」
「おう……でもショーって」
「今日はもうなかったはずだぜ? だから良いんだろ、ゆっくりイルカ見れるし」
歩き出す成瀬に付いて行く。正直手を繋がれると期待してしまった自分が恥ずかしい。
イルカスタジアムの観覧席には驚くほど人が少なかった。
俺たちは最前列に座り、のんびり泳ぐイルカたちを眺めていた。
ドリンクを飲みながらボーッとしていると、成瀬が突然ポツリと言った。
「落ち着いたか?」
何がだ、と言いかけて、気づく。
さっき泣いたからか。
人混みから離れて、静かな場所に連れてきて、俺のためにだったって。
わざわざ気を使われたことに、胸の奥が、じわりと熱を持つ。
それ以上何か喋るわけでもなく、ただイルカたちを眺めながらドリンクを飲んでるだけ。
それが心地良かった。
そしてドリンクを飲み終わり、二人でカフェテリア近くのゴミ箱に戻ろうとしていた。
が、途中でクレーンゲームを見つけて、ついその中にあったイルカストラップを見つめてしまった。
それに気づいたのかどうか分からないけど、成瀬が、
「お、あのイルカ取れそうじゃん」
と躊躇う事なく百円と投入し、プレイし始め、たった二回でイルカを取ってしまった。
「すげぇ……」
「ほら、やるよ」
と言いながら、イルカストラップを差し出されて驚く。
やっぱり気づかれてたのか、それともただの偶然か、どちらにせよ俺のために取ったんだと思うと、胸が苦しくなる。
ただ嬉しくて。
成瀬からイルカストラップを受け取ると、なぜか頭を撫でられた。それが慰めだと気づいた時には、もう……
もう、無理だ。誤魔化せない。認めざるを得ない。
俺は、成瀬が好きなんだ。




