水の中で揺れる
次の月曜日。今日は授業が午前中で終わりだからと、成瀬と勉強会をする約束をしていた。物凄く気まずい。
土日なんて、成瀬のことで頭がいっぱいだったし、顔を合わせられる自信もない。
そう思いながら、俺は教室の扉を開けた。
教室に入ると、成瀬はすでに席に座っており、スマホを眺めていた。
「成瀬……おはよう……」
「ああ、おはよ。なんだよその気まずそうな表情」
いつもみたいな余裕そうな顔。その表情に、思わず息が詰まる。俺だけが意識してるみたいでバカみたいじゃん。成瀬はなんとも思ってないんだ。そう思ったら、胸の奥がざわついた。
「なぁ高坂、今日の午後さ、勉強会の予定だったよな」
「そう、だけど……」
こんな状態で勉強に集中できるかよ……なんか適当な理由言って断るか? でもそれはそれでなんかモヤモヤする。
成瀬はスマホから目を離し、俺の方を真っ直ぐ見てきた。
「勉強会中止にして、水族館行かね?」
「水……族、館……?」
「そ。たまには気分転換しようぜ」
人の気持ちも知らないで。そんな軽々しく言うなよ。
「高坂? もしかして水族館苦手か?」
「ううん! 大好き」
「じゃあ決まりな」
成瀬は軽く笑った。
断りたくない、成瀬と一緒にいたい。って、そう思ったのは初めてだった。
放課後になり、俺たちは学校から直接、水族館まで来た。チケットを買って、ゲートを通り、水槽がある室内へ続く扉を開けた。
最初は人が少ないと思っていたが、進むに連れて、人がどんどん増えて行った。俺は隣にいた成瀬に話しかけた。水族館に来てから、全然会話できてないし。
「平日でも割といるんだな」
「ああ……そうだな」
で、会話が止まってしまった。
薄暗いからか、成瀬の表情が分からない。何を考えているのか、全く。
「成瀬、楽しんでるのか?」
「一応楽しんでるぞ。次は俺のオススメコーナーだ」
そう言われたコーナーは、部屋の全ての水槽が、クラゲの水槽だった。
部屋の中心に置かれた丸い水槽。その上にあるミズクラゲデザインの天井。幻想的な空間に圧倒された。
そんな空間だからなのか、カップルが多くて気まずくなってきた。そのせいか少し混雑しており、ちゃんと成瀬についていかないと、はぐれそうな気がした。
「高坂」と名前を呼ばれたかと思えば、急に手を繋いできた。
「は、はぁ⁉ 何すん――」
「はぐれんだろ。大人しく繋がれとけ」
やめてくれよ。心臓の音がうるさくて集中できないじゃないか。
水槽の光で、顔が見える事に気づき、平常心になるように集中した。顔が熱い。繋いだ手も熱く感じた。
嫌なら離せば良い。そんなことは分かってんだよ。何回もそう思ってる。でも、嫌じゃないから、離したくないから。
認めたくない、こんな気持ち。
「おい、高坂。なんで泣いてんだよ」
「え……」
成瀬がハンカチで涙を拭き取ってくれた。
「ごめん」
「なんで謝んだよ。そんなにここが感動的だったのか?」
「……うん」
そうだ、この空間に感動しただけ。そう決めつけないと、俺の中で何かが崩れそうな気がした。




