表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/24

第9話 内閣総理大臣の憂鬱  米軍経費と対等な交渉

◆米軍経費と対等な交渉

首相官邸・執務室


午後の陽が差し込む中、官房長官が一枚の資料を手に静かに部屋へ入ってきた。


「総理、アメリカ政府から正式に“在日米軍駐留費”の増額要請が届きました。提示額は、現行の2倍、約一兆円規模です」


総理・安原晋太郎は、椅子に深くもたれたまま、窓の外を見つめていた。


「またか。自分たちの軍隊を“商品”とでも思ってるのか?」


「アメリカ側は『日本は経済が回復している。ならば応分の負担をすべきだ』と主張しています」


「ふむ・・・」


静かに立ち上がった総理は、机の端に置かれた地球儀を回しながら、つぶやいた。


「ならばこちらも、対価を要求しよう。日本はもう、言いなりにはならん」


その夜、国家安全保障会議(NSC)が開かれた。


防衛大臣が驚いたように言う。


「総理、まさか本気で、原子力潜水艦の購入を?」


「そうだ。アメリカが日本に防衛の対価を求めるというなら、こちらも自立の準備を始めねばならん。原潜はその第一歩だ」


官房長官が頷く。


「米国の技術協力を条件に、最新鋭の攻撃型原潜2隻の取得を交渉材料にしましょう。もちろん、搭載兵器は防御専用に限ります」


総理はさらに一言付け加えた。


「そして、米軍の駐留部隊の縮小も視野に入れると伝える。『日本は米軍の盾ではなく、自ら立つ意思がある』と示すためにな」


翌週、日米首脳会談がオンラインで開かれた。


ホワイトハウスの大統領補佐官が切り出す。


「安原総理、我が国としては、自由と安全の維持のためにも、同盟国として応分の負担をお願いしたいと」


「もちろん。日本は責任を果たす。その代わり、原子力潜水艦の購入契約を結ばせてほしい。米軍の存在は必要だが、今後は自立も目指したい」


「日本が原潜を?」


「その通りだ。そして、米軍の駐留部隊については、50%の削減も選択肢にある」


画面の向こうの表情が硬直した。


「これは『支払いを拒否する』という意味ではない。『払うべきもの』には応じる。だが、こちらも『持つべきもの』を持たせてもらう。それが真の同盟というものだ」


沈黙の後、アメリカ側が小さく頷いた。


「理解しました。では、詳細は防衛当局間で協議しましょう」


会議が終了すると、官房長官が静かに漏らした。


「今までの総理なら、こんなことは絶対に言えなかったでしょうね」


総理は笑って言った。


「日本は“NO”と言わなきゃいけないときがあるんだよ。ようやく、それを言えるようになっただけだ」


そしてその日、日本の防衛政策における『新たな自立』”への第一歩が静かに刻まれた。



◆原子力潜水艦の平和利用と日本の自立

首相官邸・執務室


総理・安原晋太郎は、国際会議後の報告書に目を通しながら、ふと視線を天井に向けた。


「アケミ、憲法9条の制約を回避しながら、原潜を導入する方法はあるか?」


すぐに政治AIアドバイザー・アケミが答えた。


「はい、総理。原子力潜水艦を“平和目的”に限定すれば、法的回避の余地があります。たとえば、ロケット発射母艦としての使用です」


総理はゆっくりと顔を上げた。


「なるほど、宇宙開発支援艦か」


「現在、日本のH3ロケットやその後継機の発射能力は、陸上発射に偏っています。原潜を洋上発射台にすれば、軌道選択が柔軟になり、災害時の緊急通信衛星展開などにも有用です」


「いい。宇宙開発支援艦として正式に設計させよう。そして、明確に“核兵器は搭載しない”と公言しておけ」


官房長官が頷いた。


「すでに防衛省に通達しました。原子炉は純粋な推進用。兵装は対艦・対空ではなく、衛星管制とロケット射出専用とし、装備体系にも『平和利用目的』を明記します」


「うむ。これで憲法9条との整合性も取れる。米国にも説明しやすくなるな」


数日後、臨時記者会見が開かれた。


壇上に立つ総理が、全国民に向けて言葉を紡ぐ。


「我が国は、いかなる時代であっても“平和国家”であり続けます。今回導入する原子力潜水艦は、いわゆる軍事兵器ではありません。“H3ロケットの海上発射支援母艦”として使用し、災害通信、衛星インフラ、宇宙開発のために活用します」


「同時に、これらの艦艇には“核兵器を一切搭載しない”ことを、ここに明確に宣言いたします」


会見場が一瞬静まり、その後、拍手が沸き起こった。


記者の一人が質問する。


「総理、それはつまり、日本が宇宙開発において新たな戦略を取るということですか?」


「その通りです。我々は、宇宙を“戦場”ではなく“希望の領域”として扱います。そのための艦艇です。そして、同時にそれは――“自立”の第一歩でもあります」


リリィたち冒険者ギルドのメンバーも、別室のモニター越しに会見を見ていた。


コモンがつぶやいた。


「地球人の総理も、やるときはやるな」


ジャックがうなずく。


「これで、日本は未来の宇宙時代に名乗りを上げたってわけだ」


リリィは静かに笑みを浮かべた。


「この星も、少しずつ変わってきてるわね。私たちが背中を押した結果なら、誇らしいことよ」


こうして、日本の原子力潜水艦導入は、軍拡でも武装でもなく、『平和利用』という名のもとに、堂々と世界の注目を浴びることとなった。


◆財務省官僚の密談

財務省・深夜、第五会議室

厚いカーテンの奥、灯りを落としたテーブルの周囲に三人の男たちが集まっていた。


財務官僚Aが渋い声で口を開く。

「原子力潜水艦だと? それも『ロケット発射台』として平和利用? 総理はついに、軍拡をも逆手に取ったか……」


財務官僚Bが冷笑を浮かべる。

「しかも核兵器は搭載しないと公言し、国民は拍手喝采。支持率も天井知らずだ。我々の出番がどんどんなくなっていく」


財務官僚Cが資料を叩きながら呟く。

「予算の根幹が揺らぎ始めている。減税で税収が減り、天下り先に流す“余剰”がなくなってきた。すでに複数の公益法人が予算縮小で悲鳴を上げている。もはや“国のため”ではない。我々自身の生存がかかっている」


財務官僚Aは低く唸るように言った。

「次は、国際信用格付けに揺さぶりをかける。格下げが出れば、円の信頼性も下がり、総理の“自立路線”も失速するだろう」


財務官僚Bが頷いた。

「このまま黙っていれば、我々の時代は終わる。我々が、この国の“裏の舵”を握っているということを、思い知らせねばならない」


◆野党側の反対勢力の会話

国会議員宿舎・某会議室


野党議員Aが机を叩きつけた。

「アイツ、今度は原潜まで買ったんだとよ! しかも“平和利用”だとぉ!? どういう頭してんだか!」


野党議員Bが渋い顔で頷く。

「しかも、それで国民の支持率はさらに上がってる。SNSなんて『科学の日本、未来の日本』って持ち上げムードだ。こっちは追い風どころか無風どころか逆風だよ」


野党議員Cがボソッと呟いた。

「党首が落選したあれが痛すぎたな。あそこから議席が半減して、資金も組織力もボロボロだ。次の選挙、俺たち何人残れるか」


野党議員Aは椅子にもたれ、苦く笑った。

「だが諦めるな。原潜なんて“戦争準備だ!”って叫べば、まだ利用できる。あとは例によって『年金削減! 医療危機!』と騒いで、不安を煽るんだ」


野党議員Bが皮肉気に言った。

「このままじゃ『庶民の味方』を名乗るのも限界だな。どこか新しい“敵”が必要だ」


◆マスコミの反対勢力の会話

某テレビ局編集室・深夜


記者Aが資料を放り投げる。

「またやりやがったよ、あの総理。今度は原潜まで。しかも“宇宙発射台”? 何だそれ、国民は手放しで賞賛してるじゃねぇか」


記者Bが肩をすくめる。

「新聞の購読数は減る一方、テレビの広告もネットに流れてる。政府批判で数字が取れなくなっちまった」


記者Cがモニターを見ながら呟く。

「視聴率が稼げるネガティブキャンペーンが必要だな。『減税で医療が崩壊』『原潜導入で平和国家の理念が危機』って方向でどうだ?」


記者Aが首をひねる。

「それと、匿名の“専門家”に語らせる記事も出そう。『減税の陰で進む国力低下』なんて見出しにすれば、年配層は騙される」


記者Bがぼそりと呟く。

「でも、もう国民の空気が変わってる。叩けば叩くほど、彼に味方する層が増えてる気がする」


一瞬、場に重い沈黙が落ちた。


◆某国スパイ工作員の密談

某国・大使館地下室・秘密会議室


スパイAが地図を見ながら小さく唸った。

「我が国の指導部が政変で親日派に替わってから、日本があまりに羨ましく見えて仕方ない」


スパイBが苦い顔で言う。

「減税で経済成長、出生率の上昇、原潜導入に宇宙戦略まで……完全に世界の主役になりつつある。しかも“軍事目的ではない”と主張して国際世論も黙らせた」


スパイCが顔をしかめる。

「こちらのメディア操作も通用しない。ネットでは“日本を見習え”の声が爆増中。我々の正統性まで疑問視されている」


スパイAは書類を閉じた。

「もう、足を引っ張るのは難しい。むしろ、こちらから協力を申し入れる方が現実的だろう。民間レベルでの経済交流を拡大し、“友好国”としての印象を高めるしかない」


スパイBがぽつりと漏らす。

「日本、羨ましすぎるな」


スパイCは頭を抱えて、天井を見上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ