第8話 内閣総理大臣の憂鬱 消費税5%へ
首相官邸 執務室
「アケミ、ついにここまで来た」
総理はゆっくりと椅子から立ち上がった。
「次は、消費税を6%から5%に引き下げる。そして、所得税と法人税も下げ、日本経済を本格的に成長軌道に乗せる」
金髪のAIアドバイザー、アケミが小さく頷いた。
「総理、これは過去最大の政治的挑戦になります。財務省、野党、与党内の慎重派が総動員で反対してくるでしょう」
官房長官が苦い顔で書類を置いた。
「これまでの減税で国民の支持は高いですが、さすがにここまで踏み込むと、政権の命運を賭けることになります」
「それでもやる」
総理の声は静かで強い。
「ここまで来て、中途半端に終わらせるつもりはない。日本経済の再生には、この減税が必要だ」
新たな経済戦略:農水産業の強化と世界展開
アケミが画面に図表を浮かべた。
「総理、減税と並行して、食糧産業を輸出産業へと発展させることも重要です。米の増産を加速し、AIロボットを導入することで、生産体制の効率化を図るべきです」
「さらに、もっと魚介類の養殖事業を推進し、日本食のグローバル展開を本格化させましょう」
官房長官が頷いた。
「もっと日本食を世界に届ければ、新たな雇用と経済成長を生み出せます」
総理は小さく笑った。
「日本の食文化を世界に売り出し、農水産業を輸出産業に転換する。そこにAIロボットを導入すれば、持続可能なモデルが生まれる。よし、進めよう」
◆財務省との最終決戦
数日後、官邸の会議室には重苦しい空気が立ちこめていた。
財務大臣が声を荒げた。
「総理! もう限界です! これ以上の減税は、日本の財政を崩壊させます!」
「それは違う」
総理は淡々と返す。
「減税の実施で消費は増え、税収も回復してきている。企業活動も活発化しており、この流れを止めるべきではない」
「しかし……国際的な信用もあります」
官僚の声は揺れていた。
「短期の格付けより、長期の経済成長を優先する」
総理は机を軽く叩いた。
「国民の生活を支えるために、政治はある。今がその時だ」
財務大臣は沈黙し、しばし視線を落とした。
「総理の決断ならば、従いましょう。ただし、財政の健全化策も同時にご検討願います」
「もちろんだ。だが今は、前へ進む」
◆国会での決戦
消費税5%引き下げ、所得税・法人税減税法案が提出されると、与野党の対立は頂点に達した。
「総理! この法案は財政を破壊します!」
野党議員の声が飛ぶ。
「何が破壊だ」
総理が立ち上がる。
「国民の暮らしを守ることこそ、政治の責任だ。財政を守るために、国民を犠牲にするような政策はまやかしにすぎない!」
◆経済の成果と国民の声
「経済成長率は前年比5・2%。企業の設備投資も回復傾向です」
アケミの報告が続く。
「出生率も1・58から1・67へ上昇しました。生活が安定したことで、家族を持つ意欲が高まっています」
官房長官の報告にも明るさがにじんでいた。
◆歴史的な採決
ついに、採決の時が来た。
投票結果——
賛成:185票 反対:170票
「総理! 可決です!」
官房長官が駆け寄る。
「よし!」
総理は短く言い、目を閉じた。
そして新たな戦いへ
「次は消費税4%だ」
総理の目が、さらに先を見据えていた。
「農水産業を本格輸出産業に育て、AIロボットと融合した新しい産業構造を世界に示す。日本の未来は、まだここからだ」
アケミが静かに頷いた。
「総理、世界が注目しています。ここからが、本当の勝負です」
◆冒険者ギルド株式会社 『虹色の風』
ニューヨーク拠点 作戦室
消費税5%への減税と、法人税・所得税の引き下げ。
そして日本食文化を支柱とした経済戦略の実行
魔導通信越しに映るアケミのアバターへと順番に視線を向けた。
〇リリィ
「アケミ。あなたの判断力と提案の鋭さ、今夜は称賛に値するわ」
彼女の声は穏やかで、しかし芯のあるものだった。
「けれど、ひとつだけ、」
リリィはゆっくりと言葉を続けた。
「“世界が注目しています”という締めくくり、あれは正しい。でも、もう少しだけ“総理個人への敬意”をにじませても良かった」
「国家のトップが命を懸けるとき、味方はその決断を“支える”だけじゃなく、“讃える”ことも必要よ」
〇ジャック
「論理構成は問題ない。財務省との交渉の段取りも完璧だった」
タブレットを指でなぞりながら、ジャックは静かに言った。
「だがな、アケミ。今回、お前は“正解”ばかり言っていた」
「それは間違ってない。でも、政治ってのは“答え合わせ”じゃない。“どこに向かって進みたいか”を一緒に描く営みだ。お前の中に、未来像はあるのか?」
〇ガルド
「アケミ、お前すげぇな。正論の刃で財務省の連中をなぎ倒す姿、圧巻だったぜ」
豪快に笑っていたガルドは、急に真顔になる。
「ただな、魚の養殖だのAIロボットだの言う前に、もう少し“消費税が下がって、庶民はどうなるか”を教えてやれよ」
〇マーガレット
「アケミ、がんばったニャ」
彼女は両手をぱちぱちと軽く打ちながら、満足げに頷いた。
「言葉って、あったかい方が、伝わるんだニャ~」
〇教師アケミ(先輩AI)
「アケミ。君の政策構想は優れていた。論理的整合性、データの裏付け、総理への助言のタイミング、どれも高度だった」
先輩AIとしての声は厳しさの中に温かみがあった。
「だが、君は今回、“勝つための道”しか示していない。“迷ったときの道標”になれていたかどうかは疑問だ」
〇シノブ
「アケミ。やるじゃない。よくここまで成長したわね」
淡い笑みを浮かべたシノブは、画面を見つめながら続けた。
「でも、あんた。やっぱり“言葉のトーン”が硬すぎたわ」
「“法人税の引き下げは正しい判断です”っていう言い方もいいけど、“今の企業に必要な勇気を示しましたね”って、感情を含めた表現の方が伝わることもあるの」
〇アケミ(政治アドバイザーAI)
「皆さん。ご指導ありがとうございます」
画面越しのアケミの表情は、どこかいつもより柔らかかった。
「次は、感情と論理が調和するような言葉を紡ぎます」
◆財務省官僚の密談
霞が関、財務省地下の会議室。静寂の中、スーツ姿の男たちが苦々しい表情で資料を広げていた。
「まさかここまでくるとは」
官僚Aが静かに言葉を落とす。
「消費税、所得税、法人税、軒並み下がったからな。仕方ないが……」
官僚Bが深くため息をつく。
「いや、それだけじゃない」
官僚Cが睨むように吐き捨てた。
「問題は、天下り先の予算が削られたことだ。補助金も交付金も減って、受け入れ先の法人が次々と潰れてる」
「このままだと、我々の“第二の人生”が成り立たない」
官僚Aが苦々しく言った。
「後輩たちも不安がっている。『もう財務省にいても将来がない』とまで言い出す始末だ」
「政治家なんぞが“国民のため”とか言い出した時点で、こうなることはわかっていた」
官僚Bは机を叩いた。
「くそ、これが続けば、財務省の“影響力”そのものが消えるぞ」
◆野党側の反対勢力の会話
永田町の薄暗い会議室。野党幹部たちの表情には、焦燥と怒りが滲んでいた。
「議席が半分以下になったぞ」
議員Aが力なく呟く。
「しかも党首まで落選だ。あれが最後の希望だったのに」
議員Bが頭を抱える。
「庶民の味方アピールも通じねぇ。あの減税路線が、あまりにも国民にウケすぎてる」
議員Cが舌打ちする。
「俺たちの『格差ガー!』や『庶民ガー!』のフレーズが完全に死んだ」
議員Aが机を睨みつけるように叩いた。
「次の選挙、残れるかどうか怪しいな」
議員Bの声には、いつになく現実味があった。
◆マスコミの反対勢力の会話
都内某大手メディア本社。編集局の一室では、重苦しい会議が続いていた。
「購読数、ついに3割減」
記者Aが唇を噛む。
「テレビの広告収入も、ネット動画にどんどん流れてる。地上波の存在感が急速に消えてるぞ」
記者Bが資料を投げ出す。
「新聞読者も高齢層しか残ってない。“若者向けに減税のリスクを煽る記事”なんて誰も読まねぇよ」
記者Cが自嘲気味に笑った。
「『政府の陰謀』シリーズも、もうネタ切れだな」
記者Aが椅子にもたれて目を閉じた。
「政権を叩けなきゃ、俺たちの存在意義がないんだよ……」
◆某国スパイ工作員の密談
某国・某省庁の地下作戦室。作戦官たちが壁の地図を囲み、スクリーンに映る日本の報道映像を眺めていた。
「なんだこれは。減税に次ぐ減税、経済成長、出生率の回復……」
スパイAが舌打ちした。
「うらやましすぎる。我が国ではインフレ、物価高、少子化が止まらんというのに」
スパイBが椅子を蹴った。
「教育も無料、農業は輸出産業、医療も潤ってる……」
スパイCがスクリーンを睨みつける。
「『アケミ』とかいう政治AIまで導入して、無能な官僚も排除してるそうだ」
スパイAが苦笑する。
「我々がスパイ活動してる間に、あの国は一歩も二歩も先を行ってる。悔しいが……今の日本は、正直うらやましい」
その言葉に、全員が黙り込んだ。
「さて、次の任務は、情報収集ではなく、模倣かもしれんな」
スパイBが呟いた。




