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第七十二話 一刀両断リビング系ソファ

「まぁそう言う与太話はいいからさ。何から行くか決めようよ」


 で、でたー。先輩の一刀両断バッサリ奴。この見事な斬れ味よ。


「よた……。く……。ユキコさんは、どこから行くとか決めてました?」


 おお……。マユ、今一瞬すっごい顔したけど何とか耐えたな。えらい。


「うーん。甥っ子たちに任せるつもりだったから、ほとんど調べてないんだよね」


 ユキコさんは自分でも言った通りあまりVRに興味が無いようで、ジャンル分けを見て首をひねっている。恐らくそれぞれの違いがよくわからないのだろう。


「俺も以前興味が出た時に軽く調べたぐらいですかね。あ、移動系は是非鉄骨やりたいです。ね? 先輩」


「ああっ! それ! それは絶対やりたい!! 鉄骨渡り!!」


 そう、この鉄骨渡りこそ俺達がTVで見て絶対ここに来たいと思った最大の理由なのだ。これをやらずに帰るだなんて、とんでもない!


「鉄骨……ってなんですか? 平均台みたいなもの? 確かに怖そう……」


「いやいや。サヤカやユウ君が言ってるのは、漫画でやってたビルとビルの間を鉄骨渡してそこを命綱無しで渡りきるってゲームだよ。だよね?」


 いまいちピンとこないマユに、ユキコさんが補足説明をしてくれている。


 俺の役目だったのに、代わりさせちゃってすみません。


 ユキコさんは最後俺達に同意を求めてきたので、二人で超めっちゃ頷いておく。


「なんですかそれ!? え、それ、普通に死にますよね? 命綱なしですよね?」


「うん。普通に死ぬね。描写こそされないけど死んだんだろうね。巨額の賞金がかかったそう言うゲームだったからね。実写映画化もしたけど、見たことない?」


 ついでに鉄骨には高圧電流が流れてるからな。


 しゃがんで鉄骨に手をついたりしたら感電してやっぱり落ちるぞ。


 ああ、あと強風もたまに吹くから要注意だ!


「そう言えば、ユウお兄ちゃんがリビングでそんなの見てたような気も……」


「……マユちゃんはなんで他所ん家のリビングの様子を、そうやって当たり前のように語るんですかねぇ……」


 んー、と思い出すように(あご)に人差し指を当てるマユに積極的に絡んでいく先輩。


「それはもう。ユウお兄ちゃんの妹ですから。何もおかしなことはないですよね」


 マユさんそれはもうニッコリと。極上の笑顔ってのはこんなのを言うんだな!


「くっ……! 今に覚えてるがいいよ! で、どうせやるなら楽しみたいよねぇ。ということで、固定型からじっくり回らない?」


 先輩その捨て台詞は負け犬のセリフです! それなら無言の方がまだマシだよ!


「この二人は何やってんだか……。私はそれでいいよ。ユウ君は?」


「俺もそれでいいと思います。マユもそれでいいよな?」


 俺が先輩の提案に否を出すわけもなく。


 VRに慣れてからの鉄骨渡りは、それはもうさぞや怖いことだろう。


「うん。どれも面白そうだから、どれからでも楽しみ!」


 ふふ。その笑顔がこの後いつまで持つのかな? 楽しみだ。


「だなー。俺も普通に超楽しみだし。ユキコさんには感謝しないとな」


「ホントだね。ユキコさん、今日はホントにありがとうございます」


 俺達は揃ってユキコさんに軽く頭を下げる。マジ感謝。


「やー。言ってもドタキャンの代役だから。そこまで感謝されるほどでも」


 ユキコさん、軽くわたわたと両手の平を見せて謙遜の姿勢。


「いやいや、ユキコのお陰で念願のVR体験が出来るんだから。感謝感謝だよ」


 先輩、何だか偉そうにうんうん頷いてるけど。ちゃんとお礼、言おうね?


「なに。そんなに行きたかったの? もうちょっともったいぶればよかったわー」


「何でわたしの時だけそう言う反応になるのかな!? これおかしいよね!?」


 ほーら。ちゃんと言わないから。ユキコさん、さっきまでテレテレだったのに。


「ユウ君達とサヤカとじゃ対応が違うだなんて当たり前でしょ? 何言ってんの」


「それはそうだけど! そうだけど! なんかさっきからおかしくない!?」


 お? 流石の先輩もそろそろ気づいてきた頃かな?


「おかしくは、ないかなー。サヤカだし」


「先輩じゃしょうがないですよね」


「サヤカさん、ふぁいとっ! です!」


「ムッカー! マユちゃんのそれが一番トサカにくるよそれ!」


 この分なら、もうちょっとは先輩からかって遊べそうですね!




「えーと。固定系は三種類ですね。どれからやります?」


 固定系は大きな一人用ソファに座って、VRギアとヘッドフォンを装着するという流れのようだ。


 固定系ゾーンとして何列か壁で仕切られた敷地内に、ソファがそれぞれ壁側を向いた格好で何列か設置されている。


 座席の正面には、それぞれの体験者が今見ている映像が映し出されている。


 どうやら、待っている間暇な同行者も楽しめるようにという趣向のようだ。


 流石に数台じゃ需要をカバーしきれないのだろうが、なんかこう……この既視感はなんだろう。


 ……あっ! パチンコ屋みたいな……? 少々密集具合は弱いが、そんな感じ。


 ちなみに後でマユにそれを話した所、せめて美容院って言ってよ……と渋い顔をされた。確かに、美容院もあんな感じだよね! いや美容院入ったこと無いけど!


「恐怖の廃病院。エースパイロットの軌跡。首都高激走カーチェイス。ちょっと、これどれも絶対ハズレが無いやつじゃん! こんなの選べないよおおおおおお!」


 全くもって同意である。誰だこんな面白そうなもの開発した奴は! ありがとうございます!! 全力で楽しみます!!


「いや先輩、全部一通りやりますからね? 今はどれから遊ぶかの選択ですよ」


 と指摘する俺も、正直心がぴょんぴょんしてしまって仕方がない。


 この沸き立つ跳ね上がる気持ち! そう、ワクワクとも言うな!


「私、恐怖系はちょっと……。他のがいいかな」


「お、マユちゃんは怖いの苦手? 私はカーチェイスがいいかなぁ。楽しそう」


 そういやマユ、お化け屋敷系はいつも必死でしがみついてきてたな。


 ならなんでついてくるのかとも思ったが、今にして思えば……。


 まぁ、そういうことなのかもしれないな。


 今はそんなことはいい。今はカーチェイスだ。これも楽しそう。


「エースパイロットは最後にやりたいですね。じっくり味わいたい」


 どう見てもこれガンダムじゃんね。アーマード・コア系の方がそれっぽいけど、流石にあれは高速機動戦に酔っちゃうか。あのパイロット達って地味に凄いよね。


「ということは、まずはカーチェイスからかな? んじゃ予約入れてくるね」


「あ、先輩お願いします。じゃあ俺達は……どうしてりゃいいんだ?」


 固定型ゾーンの予約受付に向かう先輩を見送ると、俺は場内を一通り見回す。


 結構、複数人で連れ合ってきてる人が多いようだ。と言うか殆どがそうだ。


 まぁ予約取るのも大変だし、どうせ取るなら最大人数で予約取るわな。


 一ブースに大体四人程固まってワイワイやっているのがデフォのようだ。


「んー。他の人の見ててもいいけど、ネタバレになっちゃうかな?」


 まぁ、我々も最初の一人目で内容自体はわかっちゃうんですけどね。


 後ろで一緒に見てるわけだから。それはもうどうしようもない。


「受付の裏の、真ん中あたりが待合スペースになってるみたいです。そこでみんな待機してるのかな?」


 この会場は、大雑把に言うと逆凹の字型を想像してもらうとわかりやすい。


 右側が固定型ゾーンで、左側が移動型ゾーン。一番奥が没入型ゾーンとなる。


 正面入口が受付で、その裏手のちょうど真ん中辺りが待合スペースのようだ。


「じゃあ、先輩が戻ってきたらひとまずそっちで一休みしましょうか」


「だね。これでも結構早歩きで来たからね。できればちょっと休憩したい所」


「お疲れ様です。ユキコさん」


「いやいや、マユちゃん達の方がお疲れだよ。なにせ全力ダッシュだからね」


 まぁ、疲れたと言えば少し疲れたかな。どっちかというと先輩の方だな。


 休めると知れば先輩も多少は回復できるだろう。どのみち待ち時間は長そうだ。


「んー、それほど全力って感じでもなかったですけどね。歩調合わせましたし」


 流石現役女子高生。体育の恩恵ばりばり受けとりますな。


「うん。マユよ。それは先輩の居るところでは言ってやるなよ」


 先輩、ちょっと涙目とかなっちゃうかもしれないからな!

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