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第四十一話 引き続きお子様にはとても見せられないようなガチな奴 ねえ、私、ちゃんと言ったよね?

「……ユウお兄ちゃん? まだやってるの? 朝ごはん、できたんだけど……」


 おお、マユさんナイスタイミング! ……って、なんか流石にタイミングが良すぎませんかね?


「……先輩、先輩! 時間切れです。タイムアップです。終わりですよ。離れて!」


 それはひとまず置いておいて、まずはこの目がとろーんとしてしまっている先輩をなんとか引き剥がさないといけない。


 肩に軽く力を入れて体を離そうとするが、先輩は両手を俺の首の後に回して一向に離れてくれる様子がない。


「先輩! せんぱ……うぷっ」


 それどころか、喋る口があるならもっと有効的に使えとでも言わんばかりに口をふさがれる。


 一旦離れたせいか、先輩の舌がやけに熱く感じられる。それが俺の口内を再び蹂躙していく。


 後頭部に添えられた手もぐっと力を増し、更に密着する。先程よりよほど距離が近い。


「……ユウお兄ちゃん? 聞こえてるの? そこに居るんだよね?」


 返事がなかったからか、マユがもう一度扉をコンコンとノックする。


 いまこの扉を開けられたら……。とてもお子様にお見せ出来るような光景ではない。


 俺は慌てて顔を振って口を離すと、やっとマユに返答する。


「お、おう。ちょっと今先輩が離してくれなくて……。スマンがもうちょっと、待ってくれるか?」


「……もう。冷めちゃうから、早めにお願いね」


 と言うと、廊下をぱたぱたと歩き去る音が聞こえる。わざと音を立てて行ってくれたのかもしれんな。申し訳ない。


 うーむ。マユに気を使わせてしまった。なにが何もしませんよ、だ。ちょっと前の俺をぶん殴ってやりたい。


 今これどんな状況になってんだよ。ちょっと前の俺ぇ!!


「ユウ君……もっと……」


 先輩がじっと潤んだ目で見上げてくる。正直こんな先輩を見て、俺だって何も感じないわけではない。ぐっとくる。


 けど、流されるばかりではいけないのだ。さっき、俺はそれに気づいたはずだ。もう、同じ過ちは繰り返さない!


「先輩……ぐっ!?」


 と、話しかけようとしたそのタイミングで臀部に軽くない衝撃。それからゴンッという痛そうな音。それらは全て、俺の体から発生していた。


 ……あれ? 俺は、今、なにを……?


 気づけば、俺は先輩に伸し掛かられていた。足でも掛けられて倒されたのか。天井の照明が視界に入る。


「んふっ……ちゅ……」


 と、視界が先輩の顔で一杯になって、またも幸せな気持ちになる。


 ああ……なんでこんな簡単なことが、こんなに気持ちいいのだろう。


 こんなに気持ちいいのに、どうしてやめなくてはいけないのか。


 どうしてって、マユに呼ばれたから……で……!


 そこまで考えて、俺は再び理性を取り戻した。


 危ねぇ。何だ今の。まるで終わろうとする俺を、阻止するかのように……?


 いかんいかん。負けたらいかん。煩悩退散煩悩退散……よし。


 俺は鉄の意志を持って、終わりの刻が来たことを先輩に告げる。


「まことに残念なことですが……本日ここで打ち止めです。続きはまた後日ということで……」


 と言った瞬間、とろーんとしていた先輩の目がギンッとした光を放つ。


「……人をここまでその気にさせておいて、はいお預けですとはよくも言ってくれた。キミ、覚悟はできてるんだろうね?」


 俺に伸し掛かっていた先輩は俺の襟首をまとめて掴み上げると、その目でこちらの顔を覗き込んでくる。


「そんなこと言われても! だから朝からはやめようって! 俺言ったじゃないですか!」


 なにこの目こわっ! 紛うことなき捕食者の眼だこれ。俺なんか狙われたらひとたまりもないのは間違いない。


「言ってないよ! 聞いてないもの! そんなこと一言だって聞いてない!」


 真っ直ぐで、真っ直ぐすぎて直視できない。俺は視線を外して力なくつぶやく。


「……いやまぁ、直接言葉にはしてないですけど。ほら、ニュアンス的な奴で伝えたじゃないですか」


 そしたら先輩が挑発してきたんじゃないですか。ほら、おれはわるくない。ね?


「キミ、普段さんざん言葉にしなきゃ伝わらないこともあるって言ってたけど。あれ、嘘だったの?」


 言わなくてもわかるは確かに幻想だけど、言わなくても伝わるものがあるのもまた事実だよぉ!


「先輩。落ち着いてよく考えてください。もうタイムリミットなんです。マユにも呼びだされたでしょう。現実問題、これ以上なんてやりようなんて無いんですよ。どうしろってんですか」


「それを考えるのがキミの仕事なんじゃないのかな! キミは責任のとり方ってものを、少しは考えたほうがいいと思うね!」


「責任……責任ったってなぁ……」


 まぁ、ここまでやらかしてしまったのは確かに俺の過失も大きい。


 当初の通り、この場限りと適当にやり過ごしておけばよかったのだ。


 それをあんな安い挑発に乗ってしまったばかりにこんなことになってしまった、なんてのはそれこそ言い訳という奴だろう。


「……早くしないと、マユちゃんまた来ちゃうよ? いいのかな?」


 焦らせないでくださいよおおおお! 今ただでさえない知恵絞ってんだからさあ!


「と、とりあえず朝食の後、マユも出かける前にはもう一度シャワーを浴びるはずです。その時ぐらいしか……」


「ふむ。マユちゃんは出かける前にはシャワーしてから出かける、と。キミ、よく知ってるね?」


「ええ。マユのシャワー待ちとか普通にありましたから。人が待ってても平気で浴びに行くマユに、一体何度文句言ったことか」


 その度に何度丸め込まれて黙らされたか。この件に関しては結局一度として俺が勝てたことはない。


「ふぅん。じゃあ、マユちゃんがどれぐらいシャワーに時間かけるとかもわかる、と」


「そうですね。出かける前なら大体15分ぐらいですかね。30分は流石に悪いと本人も思うみたいで」


「……実際そうやって具体的な数字が出てくるのも考えものだね。まぁいいよ。わかった。じゃあ、結論としては保留ということでいいんだね?」


「それでお願いします。いい加減マユも待ちくたびれてると思うんで。はやく行かないと」


 朝食まで作らせておいて待たせるとか、作ってもらった立場としてはありえない所業といえる。


「じゃ、そういうことで……は、いいけどさ。キミ、このままマユちゃんの前に出るつもりなのかい?」


 ……そのうち落ち着くと思ったんですよ。思ったより粘られてるせいで、未だに俺の一部分が元気なままだ。


 先輩は俺にまたがったままの姿勢でその部分に手を添え、からかうように指先を躍らせる。


「いや、先輩、やめてくださいって。そんなことされたら俺、いつまで経っても戻れないでしょうが!」


 先輩の手を俺の手で抑えて引き剥がそうとすると、今度は逆の手が攻めてくる。


 逆の手も掴むと、なんだか俺が先輩の手を無理矢理引き寄せて、何やらいかがわしいことをさせてるような格好になる。


 実態はむしろ逆なのだが、先輩特有のいたずら心に火が付いてしまったらしく。なかなかやめてくれない。


「ユウ君だって結構無理してるんじゃないのー? わたしだけ一方的に辱められるのは、やっぱ違うと思うんだよねぇ」


 おい誰が誰をいつ辱めたって!? 人聞きの悪いことは言わないでもらおうか!


 と二人で揉み合っていると、脱衣所のドアが音もなく開かれる。


「…………ふたりとも、なに、してるのかな?」

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