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過去編 一年前 八月第二週 その四 AM11:10 ユキコとお礼とアイスパック

こちらは前日譚よりもっと以前の時間軸の追加となります。

過去編は先輩彼女(サヤカ)後輩彼氏(ユウ)女子高生(マユ)のそれぞれの昔を書いていきます。

AM11:10 ユキコとお礼とアイスパック


「お取り込み中のとこちょーっといいかな?」


「あ、はい。なんですか?」


 彼女さんの肩を抱き、顔色を覗き込んでいる彼氏君。


 後ろからそっと肩をとんとんとやって、まずはひと声かけてみる。


「彼女さん? がちょっと具合悪そうに見えたんで……大丈夫ですか?」


「あ、ありがとうございます。なんだかちょっとふらついたみたいで……ご迷惑を」


 彼女さんを伺うように見てみれば、彼氏君もハッとした表情で感謝しながら謝ってくる。


「あー、いーのいーの。別にまだなんにも迷惑とか、かかってないから。それより、うちの姫が気になっちゃったみたいでね。様子見てきてって頼まれちゃったのさ」


 そう言うと、彼は私の後ろに居る姫とアヤを振り返る。


 アヤの奴が姫の手を取って振らせてる。まったくしょうがないな姫は。そのくらい自分でやんなさい。


「あ……そうなんですか。それはどうも、ありがとうございます。マユ? 親切なお姉さんが気にかけてくれてるぞ。話、聞いてもらうか?」


「そだね。女の子同士で話した方がいいこともあるだろうし、よかったら私話聞くよ?」


「う、うん……。あ、でも、そういう体調の悪さじゃないので……ちょっと気分がすぐれないな、ぐらいで」


 と、話をしてる最中に列の前の方が動き出すのが見えた。


 このままだとあんまり良くないな……。


「んー、そうなるとかるーく熱中症のなりかけって感じなんじゃないかと思うんだよね。アイスパック的な奴って、手持ちにあるかな?」


 ホントはどこか涼しいところで横になるのが一番なんだけど、そこまでひどい感じじゃないし、とりあえず冷やして様子を見てみよう。


「あー……。そう言うのは、ちょっと用意してなかったです。マユも持ってないと思います」


「そっか。じゃ、私らの予備をあげるよ。おーい、姫ー」


 予想屋に無理矢理持たされた物ではあるけど、役に立つならどんどん使ってしまえ。


 あいつが人の役に立つことがあるだなんて、珍しいこともあるもんだと感心しながら姫達へ振り返る。


「ユキコ! なんでこんな時にまで姫とか言うの!? ホントもぐよ!?」


 受け取りに近寄れば姫の顔が超怖い。ふふん。今の私にそんなこと言っていいのかな?


「今もがれたら対応できなくなっちゃうじゃん! 対応、代わってくれるの?」


「うぐぐ……覚えてなよ、ユキコ。……はい」


「へっへっへ。最初からそうやって素直に出してりゃいいんだよ。そしたらお嬢ちゃんも痛い目にもあわずに済んだんだぜぇ」


 悔しそうな姫からアイスパックを受け取ると、顔が自然と超ニヤニヤしだしちゃう。


「ユキコは一体どこの山賊なのか。そしてそれって間違いなく恐喝し終わった後のセリフ」


「現代風に言ったらチンピラだよチンピラ。普段からその辺の繁華街の裏道で喝上げしてるんだよ」


「人助け中の私によくもそれだけ悪意のこもった悪口言えるね!? しかも本人の目の前で!」


 ちっ。そうだった。アヤが居たんだった。せっかくの貴重なニヤニヤタイムだったというのに!


「そもそもこの話はユキコが振ってきた。私たちは悪くない」


「ほらユキコ、はやく行きなよ。彼氏君待ってるじゃない」


「くっ! 確かに……。じゃあ行ってくる」


 なかば追い払われる形で彼らのところに戻ろうとすると、アヤからの追撃が入る。


「私へのおみやげは隣の壁の本でいい」


「あ、それわたしも」


「買えるかっ! まったくもう! ……ごめんね。おまたせー」


 隣も同じ規模の長蛇の列だってのに! あんなのに並んでたら今日一日が終わってしまう。


 ぷんすかしながら彼らの元へ戻ると、彼氏君の方が苦笑していた。


「いえ、楽しそうなお友達ですね」


「そだねー。楽しいよ。でも君も素敵な彼女さん連れてるじゃん。私はそっちの方が羨ましいけどね」


 彼氏君にアイスパックを手渡して、今は彼氏君の腕の中に体を預ける彼女さんの様子をうかがう。


 それにしても可愛い子だなー。ちょっと小柄で、こんな妹が欲しかったってみんなが思うような感じかね。実にうらやましい。


「マユは……そうですね。ありがとうございます。アイスパックも」


 彼氏君は一瞬何かを迷うような様子だったが、気を取り直すとアイスパックの中央を拳で強く叩きつけた。


「うんうん。いーってことよ。じゃんじゃん使っちゃって。一個しか無いけどさ」


 まぁ二個以上使っても冷えすぎるだけだから、一個でいいんだけど。


「ほら、マユ。お姉さんがアイスパック分けてくれたぞ。すぐ冷えてくるから、これを脇の下に挟んでおこう」


「あ、ありがとうございます……。ユウ兄ちゃんも、ありがと。……ひゃっ! これ、もう冷たいよ」


 あー、アイスパックって反応させ始めるとすぐ冷えるよね。ホッカイロはしばらくかかるのに。


「何かにくるむか……。ちょっと待ってろ。ハンドタオルでいいかな。ほら、これ巻いとけ。あと、歩けるか? 列離れたほうがいいか?」


 彼氏君の言葉につられて前の方を見てみれば、もう大分近くの列まで移動が始まっていた。本格的に流れだしたら後は早い。決めるなら今のうちだろう。


「ううん。大丈夫。ほんとに大丈夫だよ。あとちょっとだし、そこまでは大丈夫。その後は、ちょっと涼しいところで休憩したいかな?」


 そう言ってにっこり笑う彼女さん。んー、出来たお嬢さんですなぁ。こういうのを健気っていうの?


「そうだな。休憩はもちろんするけど、今は本よりマユだぞ? ホントに大丈夫なのか? 別に本は委託でも買えるんだから、今日無理する必要はないからな?」


 おー、彼氏君もいいこと言うね。彼女さんの体調が第一! いいねー、ポイント高いですよポイント。


「ユウ兄ちゃん、委託じゃ本しか買えないよ。会場限定セットは、今ここでないと買えないんだよ」


 彼女さん? なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ? これは彼女さんのほうが乗り気なタイプ?


「この馬鹿! そんなもの買えたところで、マユが倒れたら楽しんで読めるわけ無いだろ」


 そうそう、そうだよ彼氏君。その通りだ。本より体調! これは間違いないね。


 買えました! でも姫がぶっ倒れました! とかマミさんに報告したら私、どうなっちゃうんだろね。


 とりあえず絶対にアヤは逃がさないようにしよう。絶対にだ。お願いだから一人にだけはしないで欲しい……。


「えへへ……そうでした。私が倒れちゃったら大事になっちゃうもんね。でも大丈夫。ホントに今は大丈夫だよ」


「水分と塩分は取ってるからいいと思うけど、一応経口補水液も持ってるから、これ飲んどけ」


 と、彼氏君がバッグから飲む点滴のペットボトルを取り出して、栓を開けてから彼女さんに手渡す。


 一応、色々準備はしてたみたいだね。今度からはアイスパックも入れとこうね。


「ん……うぇー。ま、まじゅい……」


 なにそのベロ出してうぇーってやるの。超かわいいんですけど。


「そいつがまずいならその辺は足りてるってことだ。後は冷やすだけだな。……マユ、背中開くぞ?」


「うぇ? う、うん……」


 彼氏君が躊躇なく彼女さんの背中から服の裾を手繰り寄せてる。


 あの、ここ、超人いっぱい居るんだけど、彼氏君はそれでいいのかい?


「いや、クールファンがあるから。こいつをセットするだけだ」


「あ、なるほど。……ん、涼しい……」


 と思ってたら、彼氏君が開いた裾から手を突っ込んで小型ファンを腰に挟むと、すぐに服を整えなおした。


 あれは背中から首筋に風が抜けるから、結構涼しいんだよね。今は特に効果的だろう。


 あ、彼氏君が襟をちょっとつまんで気道を開けてあげてる。細かい所が憎いねぇ。


「これでひとまずは打てる手は打ったかな。あ、すみません。放置する形になっちゃって」


 一通りの処置をしたと安堵したことで周りが見えるようになったのか、彼氏君がこちらへ目礼とともに謝罪してくる。


「ああいや、いいんだよいいんだよ。あんまり手際よくて私も見てるだけになっちゃってたし。てかちょっとびっくり。こういうの、慣れてるの?」


「慣れてるというほど処置した経験はないですけど、色々事前に準備はした感じです。部活とかでもたまにこういうのありましたし」


 部活! なつい響きに私も昔はやってたなーと懐かしい気分になってしまう。


 三年の夏で引退して、もう一年にもなるのか。なんだか不思議な気持ち。


 それまでずっと部活のある生活をしてたのに、一回辞めるともうそれが無いのが当たり前の生活になってしまっている。去年の私からはとても今の私の生活なんて想像もできないだろう。


「あー、なるほどね。それでね。うん、彼女さんはいい彼氏君もって幸せだねー。それじゃ具合もなんとかなったみたいだから私は一旦戻るけど、また何かあったら遠慮無く言ってね!」


 そろそろ私も自分の場所に戻らないと、列移動の時に弾かれちゃうからね。


「ありがとうございました。アイスパック、助かりました」


「ありがとうございます。ホントに、助かりました。ご迷惑かけてすみません」


「いーってことよー。次に君達が困ってる人達見たら、助けてあげてね。それじゃー」


 二人して頭を下げてくる二人にいーよいーよと手を振りながら、私は姫たちのところへ帰還する。


「……ユキコがいい人ぶるために、一体何匹の猫が犠牲になったことか」


「帰ってくるなり何なの!? 怖い話!? やめてよね!」


 このアヤの真顔の冗談ほんっと怖い。なに、なんなの。


「猫をかぶる、かな? あれ別に本物の皮を被るわけじゃないからね」


「別にいい人ぶってたわけじゃないし。本来の私はあれこそが本体だし。超好感度稼ぎまくっちゃってモテて仕方ないし」


 ふふん。これでも私、結構モテますのことよ?


「……これでモテるとこだけ本当なのが本当にウザい。心底ウザイ」


「ユキコはホントモテるからねぇ……」


 この二人の嫌そうな顔。私がモテて一体何が悪いというのか。


「姫がそれ言う!? 皮肉かな?」


 姫だけはそれ言っちゃいけないでしょ。反則ですよ。


「あはは……。やっぱもごうか」


「同意。ユキコは一度もがれないと持たざるものの苦しみはわからない」


「ちょっと! その本気っぽい目はやめてよね! 怖いから!」


「本気っぽい? ……本気じゃないと、いつ思ったのかな?」


「大丈夫。骨は拾ってあげる。情け」


 なんでおっぱいもがれると骨が出るの!? アヤみたいに胸が骨だけでできてるわけじゃないんですけど!


「ごめん。サヤカ。だからその笑顔やめて? ね? はい! 反省しました!」


「……次はないよ?」


「けっ! 運が良かったな。姫を怒らすからこうなる」


 アヤのこのチンピラっぷり。さっき人を山賊だ何だと言ってたのは誰なのか。


「アヤさんも、やめてね?」


「ひぅ。……はい」


 順調にアヤもシメられたところで、一件落着。


 後は姫が落ち着くまで静かにしていよう。うん。それがいい。


「……はぁ」


 結局私達は列移動が始まるまでずっと、静かなままだった。


 だって怒ってるサヤカとか、マジ怖いんだもん……。




「ま、六部は手に入ったから。これで良しとしましょう。一限にならなくてホントよかったよ」


 流石に三人並んで手入れたのが三部だけだと、始発列で並んだ意味がなくなってしまう。


 それならもっと他の壁大手に並んだほうが良かった、ということにもなりかねない。


 もっともこの辺は毎回読みづらいところはあるので、ある程度は仕方ないのだが。


 今回はあれかな、祭典前に有名作家とツイッターで絡んでたから、そこからお客さんが流れ込んできてたのかもしれない。


 単純に出した本のジャンル人気を読み誤っただけかもしれないけど、まぁその辺は私達にはわからないことだ。


「仕方がない。では、速やかに次の目標へ向かうべし」


「だね。あー、また長蛇の列に並び直しなのかー。相変わらず夏はキッツいね」


 冬はもうちょっと楽になる。暖かくなる方法の方が、夏の熱対策より簡単だからね。


「毎回こんなことしてる皆が単純に凄いって思えるよ……。わたしには無理」


「まぁねー。サヤカはあれでしょ、いつも重役派でしょ?」


「それはそれでいい身分。それもこれも所有欲のなさ故なのか……」


 入場フリーになってからの余裕入場のことを重役出勤という。他のケースでもよく使う表現だね。


「まぁ、ここまでして欲しいって本は今のところあまりないかな? 四日目もあるしね」


「四日目に依存してると思わぬところで取りこぼしますぞ? やっぱ本は現地で入手しておかないと」


 街のショップへの委託が本格化するのが祭典の終わった翌日なので、いつの間にかこの日を四日目と呼ぶようになった。


 四日目はしっかりと店の外に列ができるぞ! 時には大手並みになったりもする。


「その通り。だから我々はあえてファンネルに身を費やす」


「結局は好きでやってるってことだよね。好きでなきゃできないもんね」


 と、私達が列を離れて次の目的地へ向かう途中、先ほどの彼らが声をかけてきた。


「あの、先程はありがとうございました。おかげさまで無事、本も買えました」


「私もアイスパックのおかげでかなり良くなりました! ありがとうございます」


 見れば彼女さんの顔色も大分よくなっているようだ。この分なら安心だろう。


「あー、いーよいーよ。よかったね、彼女さん。あとお礼ならこっちの姫に言ってあげてね。私は姫の代わりに対応しただけだから」


「うぇ!? ちょ、ちょっとユキコ?」


 と、この際だから手柄を全部姫に押し付けておく。


「その通り。最初に異変に気づいたのは姫。感謝は姫へ」


「アヤさんまで!?」


 突然注目されて慌ててアヤの後ろに逃げ込んだはいいけど、全然隠れきれてないからね。


 そもそも体格違いすぎるし。そしてそのアヤにも裏切られたって顔して愕然としてる。


「ほら、姫。そんな後ろに引っ込んでたら彼氏君がお礼言えないでしょ。困ってるよ?」


「で、でもわたし……」


「お礼を言われるぐらい、いいっしょ? ほら、しゃんとする!」


「うぅ……覚えてなよ、ユキコ」


 それでもなおアヤの背中から離れない姫をアヤと二人がかりで引っ張りだして、彼氏君の矢面に立たせる。


「ええと、ありがとうございました。ホントに助かりました」


「い、いえ……。そんな、大したことはしてないので……」


 せっかく彼氏君がいい笑顔でお礼言ってくれてんのに、肝心の姫はうつむいたまま顔もあげない。もったいない。


「それでも俺達は助かったので。それで、これはお礼なんですが……」


 と、彼らが一つずつ差し出してきたのは……先程のサークルの会場限定セット!


 え、嘘、マジで? いいの!? いや良くないんじゃ!?


「え、でも、これを手に入れるために並んでたんじゃ……?」


 だよね。普通そう思うよね。これじゃ彼らにとっては並んでた意味なくない?


「ええ。しっかり手に入れましたよ。それで、申し訳ないんですが先ほどの話がちょっと聞こえてまして……」


「あ、二限の……」


 あー、なるほど。あらかじめ二人で四部買ってたのか。お礼にするつもりで。


「はい。俺たちは一部ずつあればいいので。これ、よかったら。余るようでしたら適当にお願いします」


 と、彼氏君から直接手渡されたもんだから、姫が慌てて受け取ってる。


「あ、代金を……」


「いえ、結構です。俺達も、アイスパックの代金お支払いしてませんし」


 姫があわててバッグにしまった財布を取り出そうとすると、彼氏君がそっと手のひらをこちらに向けて静止してくる。


「でも、アイスパック一つとじゃ吊り合わないですし……」


「物の価値はその時々で変わると思います。今回の俺達には、あのアイスパックはその本と同じか、それ以上の価値がありましたので。気にしないでください」


「でも……」


 と、姫がなおも渋っていると、彼氏君が何かを思いついてバッグを漁りだした。


「これ、スルメなんですけど、俺達……というか俺にはもう要らないと思うので。これの処分料も込みということで、よろしくお願いします」


 効果は抜群ですよ、って笑ってる。うーん、彼、私達より年下だよね? 何なのこの対応。やばくない?


「姫。感謝の気持ちで差し出されたのなら素直に受け取っておかないと、かえって失礼になることもある」


「そ、それはそうだけど……」


「正直我々も助かっている。今回の件はこれでお互いに助かったということで締めたらどう?」


「それで、いいのかな……?」


 あんまり見かねたのか、アヤが姫に助言を始めた。


 まぁ、そうだよね。これ断っちゃうと相手も困るよね。


「俺達は、構いません」


「それじゃ……ありがとう」


 やっと姫が宙に浮かせていた手をおろして、しっかりと会場限定セットの入った手提げ袋を握りこむ。


「ところで彼氏君、この後はー?」


「はい。救護室でちょっと見てもらおうと思ってます」


 私が声をかければ、彼氏君はそう言ってこちらを振り向いて答えてくれる。


「え、ユウお兄ちゃん? 私、そこまでしてくれなくても大丈夫だよ?」


「いやそうも言ってられないだろ。今一時よくても、後で具合が悪くなったら困る。念のためだよ。念のため」


「う、うん……。そう言われちゃうと、ね」


「そだよー。今日のところは彼氏君のいうこと聞いとくといいよー」


「ですかね……。はい」


 彼氏君にこんなに気をかけてもらえるとか、羨ましい限りだよ。まったく。この贅沢者め、とでも言ってあげようか。


「ん。では、俺達は救護室に行ってきます。この後もがんばってくださいね」


 彼女さんも納得したということで話がまとまり、彼氏君は彼女さんの手を引いて一歩下がる。


「ん。ありがとー。君達もお大事にね」


「そちらの健闘も祈る」


 アヤ、彼らは医務室行くって言ってるでしょ。


「はい。では、です」


「ありがとうございました」


「じゃねー」


 三人で軽く手なんか振って見送ってあげる。


 何となくさよならという気分でもなかったし、また今度って間柄でもない。自然と出てきた言葉だった。


「……貰っちゃったね」


「姫が海老で鯛を釣った。これはぜひマミさんに報告すべき」


「姫のイケメンっぷりもね。あの流れるような救助要請は、ちょっと他では真似できませんわー」


 なんとなくの物悲しさがさせたのか、私とアヤが二人で盛り上がってると、姫がスッと私達の前に立ちふさがる。


「ところで……。貴方達、さんざん人前でわたしの恥ずかしいあだ名、ずっと呼んでくれてたよね……」


 お礼、しないとね? と微笑む姫から、私とアヤは全力ダッシュで逃げ出した。

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