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第二十六話 体験会

「いやそれがね。ユウ君って明日、ヒマ?」


 衝動的にスマホを壁にぶん投げなかった俺を誰か褒めて欲しい。


 何なのこれ。嫌がらせなの? 誰だ俺を陥れようとしてる奴は!


「……ヒマ、とはまたなんでですか?」


 一度深く息を吐いて、何とか冷静さを取り戻して聞き返す。


「んー、その前に。ユウ君ってさ、VRゲームとか分かる人?」


 VR? ヴァーチャルリアリティのことなのか?


「VRゲームと言うと、密閉型ゴーグルかけてビルの間を鉄骨で渡る疑似体験をするあれのことですかね」


 ざわ……ざわ……。突風もあるよ!


「妙に例えが具体的だけど、やったことでもあるの?」


「いえ、そういう番組を見たことがあったので」


 先輩と見てていっぺんやってみたいって超盛り上がったんだよな。


「なるほど。じゃあ話が早いよね。ユウ君はVRゲームの体験会に興味とかない?」


 あるある。超ある。でもこの話の流れはなんだ?


 なんだか嫌な予感に若干戸惑う俺を、目の前でじっと見ている二人。


 そんなに見つめられると緊張しちゃうんですが……。ほら、嫌な汗がね?


「体験会、ですか? なんかのイベントですかね?」


「ああえっと、体験会って銘打ってはいるんだけど、普通にお金も取るし常設のゲームセンターみたいなとこだよ」


 金を取る体験会? ゲームショー的なものを考えてたけどどうも違うっぽいな。


「ああ、もしかして湾岸のあれですか? 予約取るの大変って言う」


 思いついたのが一つあったので、とりあえず聞いてみる。


「ああー、そうそう、それだよそれ! 確か場所もテレビ局のそばだったし」


 ビンゴ。まさに見ていたテレビ番組のアミューズメント施設だ。


「でね、そこの予約取って明日行く予定だったんだけど、ドタキャンされちゃって。ユウ君、明日暇ならどうかなって」


 ねえ。これ鈍い俺でも多分分かるよ。デートのお誘いじゃないの?


「いやいやいや。彼女持ち捕まえて週末ヒマとかありえないですよね。からかうのも大概にしてくださいよ、ユキコさん」


 さんざん先輩に振り回された経験から言わせてもらおう。


 こういうのは、慌てたら負けだ!


「あ、バレた? てへー。ユウ君、今ちょっと面白い状況になってるんだって? ちょっとカマかけたりしてみましたー。どうだったかな? 更に面白い展開になった?」


 ああなったとも。なんせ今俺の目には人一人殺してきたみたいな目をしてるやつが少なくとも二人いるんだぜ。


「どうもこうも目の前の女の人が怖くて俺女性恐怖症になりそうなんですけど。もうこれ責任とってくださいよ、ユキコさん」


 責任とってちゃんと收めてよ! もう俺の手には負えないからね!


「責任、とらせてもらってもいいのかなぁ? よろこんでって言っちゃうよ? いいのー?」


 ああー。一つもよくないですねー。良くないから今すぐその口閉じましょうか。俺が死んじゃうよ? いいの?


「あっまって。待ってください。今そこにある危機。そうじゃないですよね。お願いだから違うって言って?」


 言ってくれないとこの二人が何するかわからんぞ! それでもいいのか!


「しかたないなー。冗談だよ、冗談。サヤカちゃんごめんねー。そこにいるんでしょ?」


「……キミ達はいつもこんなやりとりしてたのかい? 月曜日、ちょっとお話があるからね」


 呼びだされて、先輩は不承不承口を開く。声がめっちゃ重低音してるんですけど。寝起きなのかな?


「こわっ! サヤカちゃんこわっ! ところで私月曜は講義取ってないけど、行ったほうがいい?」


「呼び出しは火曜日にするから来なくていいよもう! さっきからなんなのさ! 一体!」


 日をずらしてでもやることはやるんですね。わかります。


 遂に我慢ならなくなったのか、先輩がテーブルをドンと握りこぶしで叩く。


「えー、今聞いてたでしょ? VRゲームの体験会へのお誘いだよー。聞いてよひめー。私ドタキャンされちゃってさー」


 姫。そういう呼び方もあるのか。なるほど。


「姫って言わないっ! もぐよ!」


「なにを!? こわっ! サヤカちゃん、ちょっと今日はご機嫌斜めかなー?」


 姫。そういう呼び方はやはりないよな。うん。


 てか誰がそうしたと思ってんだこの人は。


「そう思うなら話を進める努力をしてほしいかな。ドタキャンのことはわかったよ。それで、なんでユウ君なの?」


 先輩の指先が超高速で動いてる。トントントントンってテーブルノックしてる。そこ、誰も入ってないみたいですよ。


「うん? なんでって、なにが?」


「結局わたしも誘う気なんだったら、直接わたしに言えばいいじゃないか。なんでわざわざユウ君経由で話を持ってくるの」


 だよな。そう思うよな。俺もそう思います。


「ああ、だって。恋する男の子が何か先にデートプランでも立ててたら、引っ込めようと思ってたから。邪魔しちゃったら私が馬に蹴られちゃうじゃない? 前にもそんなことがあったから」


 じろりと先輩が睨んでくる。違いますよ。あの時はちゃんと俺のプランで行きましたからね!


 てかユキコさんもなんでそういうこと言っちゃうのかな? 確かにプランの立て方の相談はしたことあるよ? あるけどさぁ!


「……それについては間違いなく大丈夫だと太鼓判を押させてもらうよ。ねえユウ君?」


「アッハイ。ノープランです。すみません」


 マユとの予定はともかく、先輩とのデートプランなんて存在するはずがない。残念ながら事実だ。


「ええー。週末にデートプランの一つもないなんてー。サヤカー、あんた達大丈夫なの? ユウ君に捨てられちゃうの?」


「ユキコ。会うのは明日でもいいんだよ? なにせわたしにはまったく予定がないからね! 捨てられちゃいそうだしね!」


 何なら今飛び出して行きそうまである。スカイプ通話じゃなくてよかったね。この表情見られなくて残念だろうなぁ!


「あっうそうそ。じょーだん、じょーだんだから。お詫びにVR体験会にご招待しちゃうから。それで許して?」


「……今回は命拾いしたね、ユキコ。ご招待ありがとう。全力で参加させてもらうよ」


 で、出たー! 先輩の伝家の宝刀、テノヒラクルーだあああああ!


「あ、でも、さっき話したように今回はもう一人、一緒に参加できない? 枠余ってないかな?」


 先輩がマユに視線を移して頷くと、マユが申し訳無さそうにぺこりと頭を下げた。


「それは大丈夫。あそこ最大四人まで予約できるんだけど、甥っ子たちは友達三人で来る予定だったから。枠は足りてるよ」


「それはよかった。今回はどっちかというとわたしの方がオマケだから、ホントにわたしだけハブられちゃうとこだったよ」


 先輩はホッとした様子で、マユにOKサインを作ってみせる。マユも笑顔で頷く。


「なになに。なにそれ。予想以上に面白そうなことになってない? 明日が今から楽しみだわー」


「まぁ、いざという時にはユキコには遠慮してもらうという手もあるしね……」


「残念ながら、予約者本人が出向かないと無効になっちゃうんだなー。残念だなー。サヤカのドヤ顔見られなくて残念だなー」


 先輩のぼそりとしたつぶやきも、ユキコさんは律儀に拾ってくる。


 えーと。この人はあれですかね。人を煽らないと生きていけない人種の人なんですかね?


 相談してる時はあんなに真面目に答えてくれて頼りになったのに! もうなにがなんだかわからないよ!


「……まぁいいよ。それで、集合時間と集合場所はどうしよっか?」


「そだねー。予約時間が十四時台だから、移動時間とか諸々含めて駅前に十一時ぐらいでどうかな?」


 俺と先輩とユキコさんは同じ街に住んでいる。駅前で十分通じる。時間も問題無いだろう。


「わかったよ。それじゃ、また明日ね。おやすみ」


 答えながら先輩は俺とマユが頷くのを確認する。


「はいはーい。そちらも良い夜(・・・)をー」


 最後までくすくす笑ってる顔が想像できる声で爆弾投げていきおった。


 俺、明日からあの人とどういう距離感で接したらいいのかわかんなくなっちゃったよ……。


「なんだかわたし、どっと疲れたよ……」


「同感です……」


 先輩と俺はぐったりと力を抜きながら、揃って大きなため息をついた。

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