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第二十七話 洗濯物

「なんだかわたし、どっと疲れたよ……」


「同感です……」


 先輩と俺はぐったりと力を抜きながら、揃って大きなため息をついた。


 てか最後のあれはなんだよ。あんな事言われたら妙に意識しちゃう人とか出ちゃうだろ!


 主に俺とか。俺とか。たまに先輩とか。マユはないだろうけど。


 いかんいかん。今日はマユが居るんだから平常心平常心……。


 俺が瞑想して心を落ち着けていると、そのマユがお盆に新しいお菓子と紅茶のセットを持って戻ってきた。


「お疲れ様です、サヤカさん。ユウお兄ちゃん。気持ちが疲れた時はチョコがいいですよ。これどうぞ」


 目をつぶってあーと言いながら目頭をグリグリやってる先輩に、ブラックでサンダーなお菓子を差し出すマユ。


 これ、美味しいんだよね。俺も好き。俺にもちょうだいと一つ貰って口に入れる。


 ああー。このパフのさくさく感がまた……。疲れた心が癒やされます。


 その間にマユは緑茶の湯のみを下げて、紅茶のセットを手早く配膳していく。


 食べるお菓子によって飲み物を変えるとか普通はしませんよね? さすマユ!


「紅茶もちょっと甘目にしておきますね。温めで淹れてあるので、ゆっくりどうぞ」


「ありがと、マユちゃん。なにからなにまで助かるよー」


「いえいえ。私も仲間に入れてもらったお礼ですから」


 マユは本当に嬉しそうな顔をして笑っている。


「そんなこと気にしなくてもいいのに。マユちゃんは気を使いすぎだよ」


 先輩もそんなマユを見て微笑ましそうな顔をしている。


 それにしてもこの二人、なんかさっきより仲良くなってませんかね。


 なんか二人できゃっきゃしてるんですけど。


 まぁ喧嘩されるよりはよっぽどいいからいいんだけどさ。


 なーんか、俺だけ置いてけぼりじゃない? 放置気味じゃない?


 べ、別に二人の仲の良さに嫉妬したりなんかしてないんだからね! ふんだ。




「ねえ、ユウお兄ちゃん」


「んー? なんだ? マユ」


 俺が起動したノートパソコンで先輩と明日のVR体験会の情報をネットで漁っていると、一通りの片付けを終えたマユが戻ってきた。


「もうそろそろお風呂入った方がいいぐらいの時間なんだけど、今浴室って洗濯物干してるよね? その辺どうするのかなって」


「ああ、そうだな。洗濯物ももういい加減そろそろ乾いてる頃だろ。今俺が回収……してきちゃいけないやつですよね。わかるよ。わかるから、そのカバディスタイルはやめようか。なあマユよ」


 こやつ、一瞬で戦闘態勢に移行したぞ。なんかレベルアップしてね?


 必殺のタックルを下半身に食らってはたまらないので、手を突き出してその意志はないことを伝えておく。


 ふぅ。危ない危ない。うっかり後頭部を危険に晒すところだったぜ。危機一髪。


「わかってもらえて幸いだよ、ユウお兄ちゃん。無益な殺生は誰も幸せになれないからね」


 おいちょっと? いまこの娘殺生って言った? 折衝の間違いじゃなく? 実力行使の前にせめて交渉をしてね?


「まぁとりあえずだ。マユは先に浴室の洗濯物を全部回収してきちゃってくれ。カゴは洗濯機の横にあるから」


「うん、わかった。そのあとは?」


「俺が入れ替わりで入って、突っ張り棒とかピンチハンガーとか撤去するよ。それで風呂に入れるようになる。実に簡単なもんだ」


 すぐ設置できて、すぐ撤去できる。コストもかからない。まさにライフハックの真髄を見たね。


「わかった。じゃあ、ささっと回収してくるね」


「あ、ちょっと待った。マユ、今日は湯船どうする? 沸かすか?」


 一人暮らしだと毎日湯船にお湯を張るのは不経済だったり掃除が手間だったりで、結局シャワーで済ませてしまうことが多い。


 今回は一人ではないのでお風呂を沸かしてもいいのだが、二人はもうさっき一度シャワーを浴びたからな。


 一応、要望を聞いておくことにする。


「うーん、そうだね。今日は色々あったから、やっぱりちゃんと浸かっておきたいかも。お願いできる?」


「ほいよ、りょうかい。んじゃこっち片付けたら自動給湯ボタン押しとくわ。回収終わったら声かけてくれ。見に行くから」


「いやそこで見に来ちゃダメでしょ!? もう、ユウお兄ちゃんのえっち!」


 おうふ。マユさん、不意打ちでそういうことするのやめてもらえませんかね。


 急にやられるとドキっとするだろ。色んな意味で。心臓に悪い。


「へっへっへ。そうです。俺がエッチなお兄ちゃんです。モタモタしてたらお風呂覗きに行っちゃうぞー」


 お返しに悪乗りして襲いかかるポーズでマユを急かし立てると、背後からの冷たい声。


「ユウ君。そういうのマジでキモいから。やめて」


 ……あ、はい。すみません。生きててすみません。


 俺だって、傷つくことぐらい……ある。



 することもなくボーッと後ろからノートパソコンを操作する先輩と画面を眺めていると、カゴを小脇に抱えたマユが戻ってくる。


 ちゃんと服の下に下着を隠してるようで、ピンク色どころか白いものすらまったく見えない。


 じゃなくて、洗濯物は無事に全部乾いたみたいだな。ライフハックさまさまだ。


「お、終わったか。んじゃ片付けてくらぁ」


 俺は入れ替わりで立ち上がって、浴室へ向かう。


「うん、お願い」


 マユはテーブルの脇に座って、洗濯物を片付けてしまうつもりのようだ。


 俺は浴室に入ると、まずは大活躍の扇風機さんを一旦脱衣所へ移動させる。


 次にピンチハンガーを取り外して、扇風機の隣に畳んでおく。


 伸縮式ハンガーを回収してまとめると、脱衣所の保管場所へ仕舞っておく。


 ハンガーって設置場所から持ち出すとすぐなくなっちゃうのってなんでだろね。


 けっこう大きいからあんまり紛失ってイメージ無いんだけど、しょっちゅう足りなくなって探すハメになる。


 設置の手順とは逆の工程で突っ張り棒を取り除けば、もうそこは何の変哲もない単なる浴室。


 あとは浴槽に栓をしてしっかり排水口が塞がれているかを確認すると、自動給湯ボタンを押して浴槽に蓋を載せていく。


 これでよし、と。二十分か三十分もすれば風呂も沸くだろう。俺は引き続き大物たちを片付けていく。


「ユウ君、ちょっとー」


 部屋のほうから先輩が呼んでいる声が聞こえた。はて、なんだろう。


 呼ばれたついでに扇風機を部屋の元あった場所に戻しておく。


 最後にピンチハンガーをベランダに吊るし直して、これにて片付け完了。


「はいはいユウ君ですよ。俺を呼ぶのは誰かな?」


 部屋では洗濯物も片付け終わったようで、先輩の前にはテーブルに置かれた自分の分であろう洗濯物が畳まれて置いてあった。


 先輩はその洗濯物に視線を置いたまま、なんでもないことのように俺に言う。


「ユウ君。明日マユちゃんが帰る前に、ちょっと下着屋寄ってこうか」


 ……は?

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