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天元戦記  作者: yakiniku1010
第4章
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幕間 空騒ぎ

銀狐《ぎんこ》と黒鉄《くろがね》が薪を割っていると、憔悴しきった焔《ほむら》が歩み寄った。

「おぅ、ゆうべは南東の見張り当番だったか」

「随分疲れてるな」

焔は積み上げた薪の山に腰掛け、頭を抱えた。

「…俺はきのう、見てしまった…北東の櫓の下でな…不知火《しらぬい》が、双蛾《そうが》を抱き寄せ、抱き締め、濃密な……うぅっ!」

「!!」

黒鉄は斧を取り落とした。

「あいつら十年以上何もなくて、なんで今更…」

銀狐はへなへなと座り込む。

「やべぇな…双蛾は意外と、じじい連中に人気があるんだ…」

「いや…それどころじゃない」

長い前髪の奥で、焔の目が光る。

「不知火の取り巻きの女どもに知れてみろ…嫉妬の炎で、双蛾は真っ黒焦げに焼けて死ぬかもしれん…!」

「!!」

燈都《とうと》に、波乱が迫っている――

三人は険しい視線を交わし、慎重に様子を窺うことを誓い合った。


だが、わりとすぐどうでもよくなって忘れた。

あるとき焔は、薬草園に幼馴染を訪ねた。

「おい繭《まゆ》、獣油持って来てやったぞ」

先日捕らえた大角牛《おおつのうし》から採れたものだ。薬の材料になるとかで、入手できたら届けてほしいと、かねてから頼まれていた。

「ありがと。でも、どうせなら不知火が持って来てくれればいいのに。よりによって、焔かぁ」

「なんだよ、俺で悪かったな」

言いながら、双蛾のことが頭を過ぎる。

(…すっかり忘れてた…!)

繭が熱狂的な不知火贔屓(びいき)であることは、昔から有名だ。

かつて助けられたとかで双蛾にも懐いているが、男女の話となれば事情が違う筈だ。

うまく伝えなくては、双蛾が焼け死ぬ。

急に使命感に突き動かされ、焔は重々しく口を開いた。

「……実はよ…最近あいつ、双蛾と付き合ってんだ」

言いながら、目が泳ぐ。

「え…」

「いや、落ち着いて、冷静に聞いてくれ」

「…なにそれ…」

「まあその、これは別に、大した話ではなくて…」

「……尊い」

「は?」

繭は目を輝かせ、うっとりと天を見上げている。

「…考えてみれば、こんなに推せる組み合わせはないわ…!尊いを超えて、もはや神々しい…!」

挿絵(By みてみん)

焔の喉元で、言い訳が宙ぶらりんに途切れる。

繭は踊るようにクルクルと回転すると、焔の手を取った。

「そうと知ったら、団扇《うちわ》作らなきゃ」

「う…団扇…?」

「表に不知火、裏に双蛾って書いて、出陣のときに振って見送るのよ!」

「いや……ちょっとよくわからない」

繭は獣油の包みを手に、走り出した。

「みんなに知らせなきゃ。これ、ありがとう!またね!」


馴染みの酒場の隅で、三人は小さくなって卓を囲んだ。

「杏《あん》に聞いたらなぁ…とっくにそういう仲だと思ってた、と言うんだ」

黒鉄が渋い顔で盃を傾ける。

手酌で酒を注ぎ足しながら、銀狐が呟く。

「じじい連中は、これで不知火がモテなくなれば自分たちの時代が来ると、何故か思い込んでるし…」

焔は神妙に頷いた。

「まあ、とりあえず、双蛾が焼け死ぬ事態は避けられそうだな」

「私が焼け死ぬ?」

急に背後から声がし、三人は悲鳴を上げる。

両手に大皿を持ち、双蛾が立っていた。傍らに、当然のように不知火がいる。

「よぉ、お前らも来てたのか。一緒にどうだ」

屈託のない笑顔で、酒瓶を掲げる。

焔は両手でその腰を押し返し、遠ざけた。

「いや、だめだ。お前らはあっちで飲め」

「なんでだよ」

「ねぇ、焼け死ぬって何?」

「いいから、あっち行け」

腑に落ちない顔で文句を言いながら、二人が遠ざかる。

並んで別の卓に着くのを、じっとりと目で追う。

不知火が酒を飲み、双蛾が肉を食う。

――いつもの様子と何ら変わりない。

「…なぁ、俺たちは一体何をしてるんだ?」

「さあ…」

ふいに、そばでフフッと笑い声がした。

一斉に見上げる。

女将《おかみ》の氷雨《ひさめ》が横に立ち、生暖かい笑顔でこちらを見下ろしていた。

「――あんたたち、なんだか可哀想ね」

「!!」

「はい、これは奢《おご》りだよ」

口角を少し上げ、徳利《とっくり》を一本卓に置くと、氷雨はしずしずと立ち去った。

挿絵(By みてみん)


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