↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天元戦記  作者: yakiniku1010
第4章
PR
56/87

第4章 第5幕 北崖党

山脈の中腹にその砦《とりで》を見つけたとき、燦牙《さんが》の心は躍った。

断崖を削って砦を造り始めた矢先、ある日を境に岩壁がまったく崩せなくなった。拠点を築けなくなり、燦牙は苛《いら》ついていた。

その矢先のことだった。

そうだ、諦める必要などなかった。奪えばよかったのだ。

挿絵(By みてみん)

近付いてみて、気付く。人気《ひとけ》がない。打ち捨てられた後か。

天幕のボロ布にコソコソと逃げ込む人影が見えた。

支柱ごと天幕を剥《は》ぎ取るなり、中にいた数人を蹴り飛ばす。

転がった男の胸ぐらを掴み、無理やり引き起こす。

頭から被った獣皮と全身の刺青《いれずみ》。見覚えがある。

「てめぇら、赤牙《せきが》か」

かくかくと、男が頷く。

「牙狼《がろう》はどうした」

「し…死にました」

「死んだぁ!?」

直後、男を投げ捨てて爆笑した。

「牙狼め、しばらく見ねぇと思ったら、死んでやがったか!ざまぁねえな!」

手下たちも腹を抱えて笑う。

近くの椅子を蹴り寄せ、ふんぞり返る。

「今日からここは、黒蹄《こくてい》の城だ」

逃げ腰の赤牙残党を睨《にら》みつけ、笑みを浮かべる。

「てめぇらも俺が飼ってやるよ。この辺りのこと、色々と教えてくれよな」


奈落《ならく》に未練はない。

奈落の話など、もう聞きたくもない。

獄皇《ごくおう》はイカレている。二度と関わりたくない。

燦牙が興味を持ったのは、二ヶ所。

山の南と、上だ。

どちらかを経て、人界《じんかい》へ。

そこに黒蹄の王国を作る。

「上は、やめたほうがいいッスよ」

赤牙の残党が震えながら言う。

「今はもう行けないッス。変な圧で押し返されるんで」

「山が崩せなくなったのも、それのせいッス」

女の園と聞いて激しく唆《そそ》られたが、ならば無理して行くほどでもないか。

ところが、赤牙の奴らはさらに震える。

「南も、やめたほうがいいッス」

やたら腕の立つ連中がいて、それで牙狼が討たれたのだと言う。

赤牙を殴り付け、燦牙は怒鳴る。

「牙狼と一緒にするんじゃねぇ。俺なら行ける」

南だ。

夜闇の彼方にうっすらと見える、あの灯りだ。


北の果てに土煙《つちけむり》を認め、不知火《しらぬい》は仲間を率いて進み出た。

外壁へ近づかれる前に止める。

黒い群れが横へ広がりながら迫る。

粗野な黒装束。乗っているのは禽馬《きんば》ではない。角のある、見慣れぬ生き物だ。

黒蹄、という名を思い出す。おそらく、そいつらだ。

真ん中で剣を振り回す大柄な男――あれが頭か。

不知火は、禽馬を走らせながら、隊列を分けた。

右に双蛾、中央に自分、ほかの仲間に左翼を任せる。

隊がぶつかる――と構えた矢先、敵将が右方に向きを変えた。

「女ぁ!」

叫びながら双蛾《そうが》のほうへ駆けて行く。

双蛾の槍が、真正面から弾き返す。

不知火は苦笑し、その間合いに割って入った。

「赤牙と同じかよ。双蛾ばかり狙いやがって」

大剣を構え、背後の双蛾に声をかける。

「やっぱり中央頼む」

すぐに双蛾が身を翻《ひるがえ》し、駆け抜けて行くのが見えた。

敵将の顔が醜く歪む。

不知火は、振り下ろされた剣を跳ね返した。

刃《やいば》の間に火花が散った。


崩牛《ほうぎゅう》の手綱を引き、燦牙は間合いを取った。

こいつが牙狼を殺《や》った奴か。

女のほうがよかったが、仕方ねぇ。

こいつをここで殺って、あの街を手に入れる。

王になる。

そこから、人界だ。

燦牙は剣を握り直し、駆け出した。

一気に近付く。剣を振り下ろす。避《よ》けられる。見失う。

背後に殺気。身を躱す。崩牛がよろける。

やりにくい。

舌打ちし、間合いを取り直す。

突進し、数撃繰り出すが、全て弾かれる。

相手の大剣が閃《ひらめ》いた次の瞬間、崩牛がいななきを上げた。右の角が落ちている。

――やべえ。強ぇ。

暴れる崩牛をいなし、隣の戦場に目をやる。

手下が次々にやられている。さっきの女だ。あれも強ぇ。

目の前を大剣が過ぎる。鼻先を掠《かす》めた。

――危ねぇ。

これは駄目だ。

「お前ら、ひくぞ!」

大声を張り上げ、燦牙は向きを変えた。

崩牛の腹を蹴り、全力で走らせる。

ちらりと振り向く。追っては来ない。

手下のほうを見る。随分削られた。忌々《いまいま》しい。

南は駄目だ。

燦牙は山脈を睨みつけた。

――やっぱり、上だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。