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天元戦記  作者: yakiniku1010
第3章
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43/52

幕間 星占

那由多なゆたを連れて南に行くが、そなたも来るか?

聞かれたとき、行こうと思った。

オババや双蛾そうがに会える。

あかつきから帰って以来沈んでいた心が、浮き立つのを感じた。

だが。

顔を上げたとき、星占ほしうらの目の前から、光が消えた。

(…いつ以来だろう)

呼吸を整え、落ち着いて目を凝らす。

――ひび割れた大地――争う声――後ろ姿――

(…双蛾そうが?)

燃える街が見え、そして――

唐突に視界が戻った。

「…何か、見えたのか」

閻魔えんまが眉根を寄せ、星占の顔を覗き込んでいた。

ごくりと唾を飲む。

あれは――燃えていたのは、見慣れた街ではなかったか。

「…悪いことが、起きそうです」

閻魔がはっとして尋ねる。

「まさか、那由多に何かあるのか?ならば、連れて行くのは…」

星占が首を振る。

「那由多のことじゃない。あなた自身のこと…」

目を伏せたまま、一歩近寄る。

閻魔の袖を、そっと掴んだ。

「…行かないで」

挿絵(By みてみん)

閻魔はしばし黙ったあと、優しく言った。

紅蓮ぐれんを苦しめたもの。わしらから暁を奪ったもの――この目で確かめねば、わしは、先に進めんのだ」

その目を見つめ返す。

「那由多のことでないなら、心配無用だ。わしのことは、わしが何とかする」

閻魔は、袖を引く星占の手をとり、握った。

「気がかりなら、ともに来ればよい。燈都とうとのときは、それで救ってくれたではないか」

星占は俯いた。

垣間見えた光景を思い出す。

(双蛾…)

あの背中の意味はわからない。

だが――。

『私、どうすればいい?どうしたら力になれる?』

最後に会ったときの、切羽詰まった表情。

いつも強く、揺るぎなく、何でも自分で決断してきた双蛾。


その判断を曇らせたくはない。

(…今は、会わない方がいい…)

「――私は、行きません。でも…」

閻魔の手を握り返す。

「どうか、ご無事で…」

閻魔は頷き、星占を抱きしめた。


出立の朝。

星占はしゃがんで、那由多の帯を締め直してやった。

「気をつけて行くのよ」

那由多は笑って頷き、その後星占の目を覗き込んだ。

「母上…心配?」

意表を突かれ、星占は口籠る。

――那由多に心配かけるなんて。

しっかりしなければ。

那由多の両肩に手をそえ、星占は微笑んだ。

「那由多はしっかり者だから、心配してないよ。父上のこと、よろしくね」

「うん!」

那由多はにっこり笑い、力強く頷いた。


閻魔を救うと決意し、村を出て八年。

何か、変えられているのだろうか。

あのとき見えた未来が、近付いている。

手を振り旅立つ閻魔の後ろ姿を、星占はじっと見送った。


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