幕間 星占
那由多を連れて南に行くが、そなたも来るか?
聞かれたとき、行こうと思った。
オババや双蛾に会える。
暁から帰って以来沈んでいた心が、浮き立つのを感じた。
だが。
顔を上げたとき、星占の目の前から、光が消えた。
(…いつ以来だろう)
呼吸を整え、落ち着いて目を凝らす。
――ひび割れた大地――争う声――後ろ姿――
(…双蛾?)
燃える街が見え、そして――
唐突に視界が戻った。
「…何か、見えたのか」
閻魔が眉根を寄せ、星占の顔を覗き込んでいた。
ごくりと唾を飲む。
あれは――燃えていたのは、見慣れた街ではなかったか。
「…悪いことが、起きそうです」
閻魔がはっとして尋ねる。
「まさか、那由多に何かあるのか?ならば、連れて行くのは…」
星占が首を振る。
「那由多のことじゃない。あなた自身のこと…」
目を伏せたまま、一歩近寄る。
閻魔の袖を、そっと掴んだ。
「…行かないで」
閻魔はしばし黙ったあと、優しく言った。
「紅蓮を苦しめたもの。わしらから暁を奪ったもの――この目で確かめねば、わしは、先に進めんのだ」
その目を見つめ返す。
「那由多のことでないなら、心配無用だ。わしのことは、わしが何とかする」
閻魔は、袖を引く星占の手をとり、握った。
「気がかりなら、ともに来ればよい。燈都のときは、それで救ってくれたではないか」
星占は俯いた。
垣間見えた光景を思い出す。
(双蛾…)
あの背中の意味はわからない。
だが――。
『私、どうすればいい?どうしたら力になれる?』
最後に会ったときの、切羽詰まった表情。
いつも強く、揺るぎなく、何でも自分で決断してきた双蛾。
その判断を曇らせたくはない。
(…今は、会わない方がいい…)
「――私は、行きません。でも…」
閻魔の手を握り返す。
「どうか、ご無事で…」
閻魔は頷き、星占を抱きしめた。
出立の朝。
星占はしゃがんで、那由多の帯を締め直してやった。
「気をつけて行くのよ」
那由多は笑って頷き、その後星占の目を覗き込んだ。
「母上…心配?」
意表を突かれ、星占は口籠る。
――那由多に心配かけるなんて。
しっかりしなければ。
那由多の両肩に手をそえ、星占は微笑んだ。
「那由多はしっかり者だから、心配してないよ。父上のこと、よろしくね」
「うん!」
那由多はにっこり笑い、力強く頷いた。
閻魔を救うと決意し、村を出て八年。
何か、変えられているのだろうか。
あのとき見えた未来が、近付いている。
手を振り旅立つ閻魔の後ろ姿を、星占はじっと見送った。




