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天元戦記  作者: yakiniku1010
第3章
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第3章 第9幕 双蛾

両腕に一つずつ、大岩を抱えて運ぶ。

城壁の建設を手伝いながら、双蛾そうがは荒野に目を向けた。

野盗も、魔獣まじゅうも、いない。離奈衆りなしゅうの影も、今は見えない。

――魔境まきょうの不穏は、ここで止める。

界門かいもんの守りを固めることは、そのまま故郷を守ることだ。

「うおっ、一度に二つも運んで来たのか。相変わらず怪力だな」

銀狐ぎんこが声を上げた。

「こっちのは、投石機のほうに丁度いいな。向こうに置いといてくれ」

ほむらが指示を出す。

視線の先では、女たちが三台目の投石機を組み上げていた。

作業を率いるあんが、手を振って寄越した。

「ああ、双蛾。ありがとよ」

岩を下ろしててのひらの砂を払い、杏に尋ねる。

黒鉄くろがねの具合、どう?」

「大したことないのさ。大げさなんだよ、あいつは」

杏は笑うが、一時は命も危なかったと聞く。

離奈衆の脅威が増す中、ここを長く空けるのは危うい。

双蛾と不知火しらぬいの認識は同じだった。

しかし――天元てんげんにまた危機が迫ったなら。

自分はどうする?


燈都とうとへ帰る前日のことを思い出す。

あかつきを手放す決断を、閻魔えんまは下した。

故郷を出て初めて暮らした場所だ。双蛾にとっても、大事な郷だった。

だが、南盟なんめい蹂躙じゅうりんされるくらいなら、敵の手に渡るほうがましだ。

閻魔の決断は、きっと正しい。

だが――。

双蛾が部屋を尋ねたとき、星占ほしうらは、那由多なゆたを寝かしつけたところだった。

「私も、最後に、暁に行っておくことにした」

椅子を勧め、星占は静かに微笑む。

「お世話になった人たちと、ちゃんとお別れしたいし」

「…うん」

頷きながらも双蛾は、座れずに立ち尽くした。

聞きたいことがあって来たのに、言葉が出ない。聞くことが正しいのかも、わからなかった。

(…破滅って、このことなの?)

閻魔の原点でもある暁を、手放さねばならなかった。星占は、それを防げなかったということなのか。

星占は黙って双蛾を見つめ、一瞬遠い目をしたあと、微笑んだ。

「違うよ。

もっと先のこと。私、まだ何も変えられてない」

言葉に詰まる。それでも、双蛾は踏み込んで尋ねた。

「この先に、もっと悪いことがあるの?」

星占は答えない。

「私、どうすればいい?どうしたら力になれる?」

星占は立ち上がり、歩み寄った。

「未来を変えるって決めたのは、私。やりたいことを、やってるだけなの。だから、私のために無理しなくていいのよ」

双蛾の手をとる。

「双蛾は、どんなときも、自分の思う通りに進んで。

それが、私の憧れた双蛾だから」

星占の瞳は、優しい微笑みをたたえていた。

双蛾は唇を噛んだ。


思う通りに――それが、わからなくなっていた。

(答えを示してくれたほうが、楽なのに)

故郷を守りたいのと同じくらい、星占と閻魔を守りたかった。

北へ視線を向けたまま黙って立っていると、不知火が歩み寄った。

両腕に抱えた大岩を、地に下ろす。

「投石機、やっぱりいい案だったな。さすが俺」

双蛾は不知火を見つめた。

いつも通り、伸びた背筋。

真っ直ぐな瞳。

「――どうした?」

(…不知火は、迷うことなんてあるのかな)

答えずにいると、不知火は怪訝そうに双蛾の顔を覗き込んだ。

ふいに何か思い付いたように、手を打つ。

「あぁ、これが、あれか。婆さんの言ってたやつ」

鷹揚な笑みを浮かべ、両腕を広げる。

「いいぞ、寄りかかって」

「…なにそれ」

双蛾は眉をひそめた。

不知火が笑う。

「何年前だ?お前に先に言われたからな。俺もいつか言おうと思ってた」

挿絵(By みてみん)

――あのときだ。

界門が閉じて、不知火が落ち込んでいるように見えたとき。

確かに言った。

(そんなこと、覚えてたんだ…)

もう一度、不知火を見る。

いつか迷いが生じたとき、支えがあれば、思う通りに進めるだろうか。

(――できるかも)

心がふっと軽くなった。

「じゃあ、本当に辛くなったら、お願いする」

「今でもいいんだぞ」

不知火が朗らかに言う。

双蛾は微笑みを返すと、不知火に背を向け、一歩踏み出した。


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