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天元戦記  作者: yakiniku1010
第3章
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幕間 燈都防衛戦

敵影、との報せを受けて、ほむらたちは禽馬きんばで荒野に出た。

相手も禽馬だ。前回のような魔獣まじゅうの騎兵隊でないだけ、まだましか。数は――三十ほど。こちらの倍近くいる。

「畜生、あと少しで投石機が完成したのに」

隣の銀狐ぎんこが舌打ちする。

「俺たちで食い止めるしかない。あいつらと、約束したろ」

黒鉄くろがねが唇を結んだ。

「出るぞ!」

焔の掛け声で、一斉に禽馬を駆る。

左右に分かれ、敵を挟み込む。散らせず攻めるのは、得意の戦法だ。

敵が近付く。顔全体に、黒い刺青いれずみ。ここらの野盗ではない。

(また離奈衆りなしゅうかよ…!)

剣を交える。互角、いや、こちらが押している。

勝てる――そう思った矢先、焔の目の前を何かが横切った。

鉄球だ。

異様に長い鎖の先に鉄球をつけ、後衛の兵が振り回しているのだ。

黒鉄の腹を直撃した。

「黒鉄!」

敵を一人切り伏せ、下馬した黒鉄に禽馬を寄せる。空になった禽馬は奪われた。

「焔、突破される!」

銀狐が叫ぶ。

「先回りして町へ!蔵は明け渡していい、人だけは守れ!」

銀狐が禽馬をひるがえし、数名を率いて町へ走った。

敵が散って行く。

黒鉄を抱き起こす。

呼びかけるが、返事がない。

重い体を持ち上げて禽馬に乗せ、自分もまたがる。

土埃つちぼこりが町のほうへ迫って行くのが見えた。

(――このまま、やられるのか。あいつらのいない間に…)

禽馬を進めながら、焔の胸に黒いもやが広がった。


敵は蔵を破ると、引き上げた。

日の暮れ始めた荒野で、これ見よがしに、こちらから見える距離で野営の準備を始めている。明日また襲撃してくるつもりだ。

「――閻魔えんまのおっさんに文を送って、援軍を頼んだ」

町の西端に急ごしらえした幕僚ばくりょう。天幕に入り込むなり、銀狐が言った。

座り込んだまま、焔が応える。

「…南盟なんめいのことで大変だろうが、背に腹は代えられねぇよな」

ずっと意識のなかった黒鉄が、うっすらと目を開けた。

起き上がろうとして顔をしかめ、また寝転がる。

「無理すんな、あばらやってる。下手すりゃ内臓もだ」

焔がささやくと、黒鉄は目にうっすらと涙を浮かべた。

「俺は…死ぬのか。不知火しらぬいの留守も守れず…不甲斐ふがいねぇ…!」

「おい、死ぬなんて言うな!」

銀狐が枕元に座り込む。

「ずっと一緒にやって来たじゃねぇかよ…」

こぶしで目元を拭う。

焔は固く目を閉じ、俯いた。

そのとき。

天幕が乱暴に開いた。

大柄な女が、仁王立ちで立つ。胸と背に一人ずつ幼子おさなごをくくりつけている。

あん…」

黒鉄が、弱々しく妻の名を呼んだ。

「…死ぬ前に、会えてよかった…俺がいなくても、子供たちと幸せに…」

言い終えぬうちにドカドカと天幕に入り込むと、黒鉄の尻を思いきり蹴り上げた。

「痛ぇ!!何すんだ!」

黒鉄が目を剥く。

「このくらいで死ぬわけないだろ!頑丈だけが取り柄なんだから!」

杏は腰に手を当て、焔と銀狐を交互ににらむ。

「大の男が三人(そろ)って、何めそめそしてるんだ。あんたたちが頼りないから、あたしらで投石機完成させたよ!」

「えっ」

ちょうどそのとき、外で歓声が上がった。

焔と銀狐が走り出る。

投石機のまわりに、女が集まっていた。

「今の見た!?命中したよ!」

蛮族の野営地に、煙が上がっている。

「あたしが敵をやっつけたって知ったら、不知火、付き合ってくれるかなぁ〜」

身をよじり、甘い声を上げる。

「ずるーい!あたしもやるぅ!」

石を抱え、次々に群がる。

唖然として口を開ける焔と銀狐の横で、杏が不敵に笑う。

「フッ…あの機械は、なかなかいいね。不知火たちが帰るまでに、もう一つ作っとくか」

言うが早いか、走り去る。

挿絵(By みてみん)

「銀狐」

今度は背後から呼びかけられた。

「…じいちゃん?」

銀狐の祖父が立っていた。鎧甲冑よろいかっちゅうを身に着け、薙刀なぎなたを持っている。武装した老爺ろうやを数人引き連れていた。

「なんだ、その恰好。まさか、戦う気か」

「ふん、何十年この魔境で暮らしてきたと思っとる。ウマを借りるぞ」

「何言ってんだ。いつも酒飲んで寝てるだけだろ」

「馬鹿め。不知火のような若造より、わしらいぶし銀のほうが魅力があると、見せつけてくれるわ」

「見せつける?誰に」

老爺は、投石機のまわりの女たちに目を向けた。

「ムフッ」

口元に笑みを浮かべ、一斉に禽馬にまたがる。

「行くぞぉ!」

止める間もなく、駆け出して行った。

「きゃぁ、また命中よぉ~!」

女たちが騒ぐ。

焔と銀狐は、呆然と荒野を見つめた。

老爺の群れが敵陣に辿り着き、乱戦が始まっている。

銀狐がぽつりと漏らす。

「…援軍要請、しちまったけど…」

「…やっぱりいらねぇって、また送っとくか」

焔が小さく呟いた。


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