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天元戦記  作者: yakiniku1010
第3章
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第3章 第6幕 燈都

「今のは一体、何だったんだ」

弓を背負い直し、ほむらが言った。

不知火しらぬいにも、わからなかった。

魔獣まじゅうが出たと聞き、数人を率いて禽馬きんばを走らせた。

土埃つちぼこりの向こうから、何かの群れが迫る。

――むしか。

数が多いなら、散らせば厄介だ。

不知火の合図で、群れの両端へ矢が放たれる。

群れは矢を避け、中央へ寄った。

双蛾そうがが槍を構え、じんを左へ駆る。

不知火は右へ。

近づくにつれ、姿が見えた。

巨大な百足むかで

――だけではない。

その背に、人がいた。

気づいた時には、矢が飛んでいた。

咄嗟とっさに炎で焼き払う。

双蛾は――?

風が砂塵さじんを巻き上げる。無事だ。

「近づき過ぎるな! 人が乗ってる、矢が来るぞ!」

言い終えぬうちに、仲間たちの方へ矢が飛ぶ。

双蛾の放った風のやいばが、矢を落とす。

不知火は大剣を振り下ろし、百足の頭を叩き斬った。

転げ落ちた騎乗兵に向け炎を放つ。

蟲の列の先頭が仲間のもとへ達し、そこからは乱戦となった。

挿絵(By みてみん)

禽馬を二頭失ったが、なんとか人は無事だった。

蟲のむくろの中に、敵兵が転がっている。

皆、裸同然の身なり。

辮髪べんぱつに、青黒い刺青いれずみ

不知火は眉をひそめる。

――この辺りの人間じゃねぇ。


時折現れる離奈衆りなしゅうに、異形いぎょうの者が混じり始めた。

集団で雷雲を呼ぶ者。

武器も持たず、爪と歯で襲う者。

今日のように魔獣を操る者までいるとなると、守り方を考えねばならない。

誰もが不知火や双蛾のように、単騎で魔獣と渡り合えるわけではないのだ。

「城壁が必要だ。あと、なんか遠くまでぶっ飛ばせる武器」

仲間の手当てを終え、双蛾が立ち上がる。

「火矢とか?」

「いや、もっと破壊力あるやつ。――あれとか飛ばせねぇか」

不知火の視線の先には、界門かいもんを埋めていた土石の山がある。

新しい町を築くにあたり、不知火はそれらを様々に使った。

捨て場に困ったのもあるが、そもそも木材が足りなかった。

過去の経験から、町が燃えた際に延焼を防ぐ仕組みも必要だと知った。

双蛾は嶺洲れいしゅうから書物を借り、石造りの技を学んだ。

かつての燈都とうとにまだ規模は及ばないが、以前より堅牢な町が、着実に形作られていた。

――今度の町は、絶対守る。

篝火かがりびに浮かぶ町並みに目を向けたとき、向こうから弁慶べんけいがやって来るのが見えた。


南盟なんめい?」

即席に設けた軍議の席で、双蛾は聞き返した。

初めて聞く名だった。

弁慶の表情が、数日前に別れたときとは違うことに、双蛾は気付く。

嶺洲より向こうのことは、双蛾もあまり考えたことがなかった。

界門の復興も進み、すべては順調と思っていた。

――まさか、これが破滅のきざしでは。

星占の瞳が、脳裏をよぎる。

「だがなぁ、こっちも留守にするのは気がかりだ」

不知火が腕組みしてうなる。

「私が行くよ」

視線が、一斉に双蛾へ集まった。

「離奈衆のこともあるし、不知火は残って。さっきの石を飛ばす装置、昔読んだ覚えがある。本を置いてくから、作っといてよ」

場がざわつく。

あごに手を当て考えていた焔が、呟いた。

「――いや、お前ら二人とも行ったほうがいい」

「でも」

「前に燈都がやられた、僧兵のアレが来るってことだろ」

皆が黙る。苦い記憶が蘇る。

確かに、あの規模の戦なら、戦力を惜しむ場合ではない。

「こっちは壁と石飛ばす機械、作っときゃいいんだろ。そういうのは得意だぜ」

銀狐ぎんこが、わざと気楽に言う。

「どのみち俺たちは、ここを離れられん。そっちは任せた」

力強く言う黒鉄くろがねは、二番目の子が生まれたばかりだ。

不知火は腕組みのまま仲間を見渡し、やがて頷いた。

「…わかった。それじゃ、とっととやっつけて、帰って来ようぜ」

両の拳を、双蛾と弁慶に差し出す。

二人が拳を合わせた。

(――破滅なんて、させない)

双蛾は、唇を強く噛んだ。


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