幕間 星占
嶺洲城内の一室で、星占は、ぼんやりと窓辺に座っていた。
山脈の向こうに、夕日が沈んでいく。長すぎる一日が、終わろうとしている。
初めて目の当たりにした、戦場。
たくさんの人の死。
焼け落ちる街――。
見えた未来の通りだった。
だが、初めて、二つの未来が同時に見えた。
街が死ぬ未来と、街も人も死ぬ未来。
閻魔が、守るために捨てることを選び、最悪の結末は回避された。
自分は、その背中を押せたのだろうか。
閻魔を待ち受ける運命は、何か変わったのだろうか。
戸を叩く音がした。
「どうぞ」
扉が開く。閻魔だった。
星占の向かいに腰を下ろし、窓へ目を向ける。
「疲れたろう」
星占は俯いた。
「そなたに助けられた。
――本当に未来が見えていたのだな」
「えっ」
驚いて顔を上げる。
「信じてなかったんですか?」
心外だった。
閻魔が破顔する。
「いや、そんなことはない。だが、ここまでとは…」
しばしの沈黙が続いた。
空が暗くなっていく。
「…わしの破滅の未来も、これで変わったのか?」
「……わかりません」
それは本当だった。
あのとき見えた遠い未来は、目を凝らしても、今は見えない。
閻魔は頷いた。
「わしは明日、天元へ向け発つ」
「私も一緒に…」
言いかけた星占を、閻魔は軽く手を挙げて制した。
星占はまた俯く。
「……足手纏い、ですよね。ウマにも乗れないし…」
「そうではない」
閻魔は優しく微笑んだ。
「そなたが双蛾と現れたとき、心臓が止まるかと思った。
前線に出ていたと知り、一歩間違えば、命が危なかったではないか、と…」
手を組み替え、静かに言った。
「そなたを、失いたくない」
沈む前の最後の夕日が、閻魔の頬を照らしている。
「ここで、待っていてほしい。必ず迎えに来る」
星占は閻魔を見つめた。
目を凝らす。
無事また会える未来を、今すぐ見たかった。
だが、こんなときに限って、何も見えない。
――見えない未来は、信じるしかない。
星占は、迷いを断ち切るように、微笑んだ。
「ご武運を」
閻魔は頷き、立ち上がった。
扉が開き、静寂が訪れる。
日が落ち、部屋が暗くなる。
星占は目を閉じ、見えぬ未来に祈りを捧げた。




