表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天元戦記  作者: yakiniku1010
第2章
20/24

第2章 第9幕 暁の郷

軍議のため、双蛾そうが不知火しらぬいは、少数の仲間を伴いあかつきさとを訪れた。

しばらくぶりの郷を、双蛾は見渡す。

刈り入れの終わった田を囲む水路が、日差しを受けて柔らかく輝く。

燈都とうととは違う、穏やかな活気。

不知火たちが市を見に行くと言うので、双蛾はひとり先に閻魔えんまやかたへ向かった。

馴染みの村人とすれ違う。

館の周囲には建物が増えたが、家並みは記憶のままだ。

練兵場が見える。弁慶とよく手合わせをした。新参に稽古をつけたのも懐かしい。

厩舎きゅうしゃに立ち寄り、じんを繋いだ。

ふと館を見上げたとき、視界に引っかかるものがあった。視線を戻す。

回廊から、ある筈のない顔が、こちらを見下ろしていた。

(…星占ほしうら…!?)

全身が固まった。

静かに、手を振って寄越す。

(…どうして?)

硬直した足が、ひとりでに動き出す。速まる。館の門を開け放ち、階段を駆け上がる。

回廊へ出た。

見間違いではなかった。

「双蛾…会いたかった」

星占が微笑んだ。

混乱する。

前に会ったのは、いつだったか。また背が伸びた。髪も伸びて、綺麗になった。少し寂し気な笑顔は、昔のまま――

(…違う…そうじゃなくて)

「どうしてここにいるの?」

歩み寄り、星占の手を取った。

最後に会ったとき、星占は何と言っていた?

――思い出せない。

「…双蛾みたいに、守るために外に出たよ」

揺るがない瞳。

言葉を失う。

そうだった。次に不幸が見えた人に、ついて行くと言っていた――誰に?

「…閻魔さんに、ついて来た」

――思考が止まった。

背後から、聞きなれた声がした。

「おぉ、双蛾。来たか」

振り返る。動きがひどく鈍い。

紅蓮ぐれん弁慶べんけいは、先に来ておる。不知火はどうした?」

「…市に…」

双蛾の顔を見ると、閻魔は改まって言った。

「――星占がいたので、驚いたろう。

何やらわしが破滅するのを案じてくれてな、助けてくれるそうだ」

鷹揚な笑顔。

――わかっていない。

双蛾は、小さく首を振った。

閻魔は気づかず、回廊の外を見下ろした。

「不知火が来たようだな。中で待つとするか」

星占に向かい、微笑む。

「部屋へ戻っていなさい」

「はい」

閻魔が立ち去る。

双蛾は、星占の手を握りしめたまま、立ち尽くした。

「――大丈夫だよ、双蛾」

星占の目を見る。

気後れするほど真っ直ぐに、見つめ返される。

「私が変えるから。心配しないで」

何も言えなかった。

そうだ。

辛い道でも、星占が選ぶなら応援しようと、心に誓ったはずだった。

だが、その相手が、閻魔だとは――

「軍議に遅れちゃうよ。ほら、行ってらっしゃい」

星占に背中を押され、双蛾は重い足で館へ入った。

挿絵(By みてみん)


軍議は上の空だった。

無論、内容は頭に入っているし、意見も交わした。

だが、意識は別のところにあった。

閻魔は――わかっていない。

星占が予言を外したことがないことも。

どんな覚悟でついて来たかも。

星占は――どうなる?

変えられなかったと言っていた。今までは。

そのたびに絶望してきた筈だ。

このままついて行って、変えられなかったら―――

そもそも、破滅とは――何だ?

双蛾は閻魔を見た。

地図を広げ、議事を読み上げる。堂々として、よく通る声。

理想を掲げ、手を伸ばすことを諦めない。

燈都を思い出す。

何もなかった界門かいもんに、閻魔が作ろうと言った街だ。

燈都ができて、故郷から危険が減った。

恩人だ。

――その閻魔が、破滅する?

軍議が終わった。

双蛾は席を立ち、無意識に机上を片付けた。

胸の内だけが、散らかったままだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ