表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天元戦記  作者: yakiniku1010
第2章
13/20

第2章 第3幕 予言

みんなが私を、おかしな子だと言う。

見えたものを伝えているだけなのに。

双蛾そうががいなくなって、一人の時間が増えた。

久しぶりに帰って来た双蛾が、オババの家へ向かうのを見て、嬉しくて駆けて行った。

その途中、急に空が重くなって、足が止まる。

血。叫び。――死。

目の前をよぎる。

気配のした方を振り返ると、領主さんがいた。

双蛾を村から連れ出した人だ。

道端の柵にもたれて、畑を眺めている。

「…やめたほうがいいよ」

思わず声が出た。

領主さんが、ようやく私を見る。

「…やろうとしてること、うまくいかないよ。

悲しんで、苦しんで…死んじゃうよ」

一瞬きょとんとして、それからしゃがみ込む。

「わしのやろうとしていることが、わかるのか?」

にこやかな瞳。

もう一度目を凝らすが、何も見えない。

領主さんは私の頭を撫で、立ち上がった。

「よし、わかった。気をつけよう」

手を振って去っていく。

――また、うまく伝えられなかった。


それから二年。

双蛾は、久し振りに村を訪れていた。

結界を施すためだ。

一般的に、結界の力は、術者との距離が離れるほど弱まる。だが双蛾は、紅蓮ぐれんと試行錯誤を重ね、離れても持続する結界を編み出した。

これで、場所を知る者以外は、村を見落としやすくなる筈だ。

天元てんげんの脅威が強まる中、双蛾はようやく息をついた。

常駐する兵に、結界の扱い方を説明した。話が済むと、一人の兵士が照れくさそうに言った。この村で所帯を持ち、もうすぐ子が生まれるのだと。

胸の奥が温かくなる。

この穏やかな時間が続いてほしい。誰にも、この平和を壊させたくない。

ふと土手のほうへ目をやった。

星占ほしうらがぽつんと座っているのが見えた。

双蛾は近づき、後ろから目を塞ぐ。

「だーれだ」

くすりと笑う。

「双蛾、もう私そんなに子供じゃないよ」

双蛾は微笑み、隣に腰を下ろした。

しばらく会わないうちに、ずいぶん大人びた。

――それに、元気がない。

もともと、どこか孤独だった。友と呼べる者も、いなかったのではないか。

自分が去ったあと、星占はどう過ごしてきたのだろう。胸がチクリと痛んだ。

二人で川を見つめる。せせらぎが響く。

「…双蛾はいいな」

ふいに、星占がつぶやいた。

「強くて…みんなを守れて」

言葉を返せなかった。

「……あの川で、勘二かんじが死んだの、知ってる?」

どきりとした。

話は聞いている。

日に焼けた、いたずらっ子の顔が浮かぶ。剣を教えてくれと、せがまれたこともあった。

元気がないのは、そのせいか。

「……私、死ぬこと、わかってた」

「え…?」

星占を見る。

視線は川を向いたままだ。

「私ね…ときどき、未来が見えるの」

双蛾は黙って聞いた。

「男の子達が、みんなで泳ぎに行こうって集まってた。

私、勘二が死ぬのが見えて――やめなよって…死んじゃうよって言おうとした」

言葉を区切る。

「でも、またおかしなこと言ってるって笑われて、結局みんな川に行くのが見えた。

それで、やっぱり勘二が溺れるのが見えて……」

一度、息を飲む。

「それだけじゃない。

勘二のお母さんが、あんたが変なこと言ったせいだって、泣きながら私に怒鳴ってるのも見えた」

双蛾は言葉を失った。

「だから私……何も言わなかった」

静かに続ける。

「あとで、お母さんが泣いてるのを見たとき……私、申し訳なくて…」

星占がこちらを向く。

その目に涙が溜まっていた。

「よく考えたら、もっと方法があったかもしれない。

私が大騒ぎして、みんなを止めれば、川へなんか行かなかったかもしれない」

涙が一筋、頬を伝う。

「……こういうことばっかりなんだよ。未来が見えたって、いいことなんかない…」

双蛾は、胸を激しく揺さぶられた。

星占の瞳が遠くを見るとき、何が起きているのか――

初めて知った。

双蛾はそっと肩を抱き、強く引き寄せた。


日が傾くまで、肩を寄せ合ってそこにいた。

川面かわもが夕日にきらめく。

挿絵(By みてみん)

星占はもう泣いてはおらず、力なく双蛾に寄りかかっていた。

「…ちょっとした未来は、変えられたこともあるんだよ。お茶碗が割れるのとか、洗濯物が雨に濡れるのとか」

小さく呟く。

「でも、人が死ぬようなことは、私には…」

星占が、静かに体を離す。

目は、また川をまっすぐに見ていた。

「私も、双蛾みたいに誰かを守りたい」

ゆっくりと顔を向ける。

さっきの、壊れそうな瞳ではなかった。

「――次に誰かの不幸が見えたら、私、その人について行く。

何ができるかわからないけど……やってみる。未来が変わるように」

双蛾は黙って見つめ返す。

孤独な少女。姉のように慕ってくれる、優しい子。

(…星占……)

――それは、つらい道ではないのか。

これまで、何を抱えてきたのか。

彼女を残し村を出た自分が、悔やまれる。

(…私みたいに強くだなんて)

星占のほうが、自分よりもずっと強い。

彼女が選ぶ道ならば、信じて応援するだけだ。

双蛾は唇を噛み、もう一度星占を抱きしめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ