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09話

 

 その日は、朝早くから出勤した。

 工場は、稼働しているが事務所は静まり返っていた。


 破砕機の音が、振動と共に伝わる。

 誰も居ない事務所だと、普段は気にならない音も鮮明に聞こえてくる。


 部屋の電気は点けずにいた。

 パソコンのモニターに、日付と回収場所の一覧が表示されている。


 昨日の回収先は、市役所。

 二週間に一度の割合で、搬入されていることが分かった。


「やっぱり、あの辺りか」


 他の回収先に目を走らせるが、遠くても隣の県までで、それも二年前の話。

 産業廃棄物のほとんどは、越境してまで持ち込まれないことは知っていた。


 回収先が分かっても、それがいつのものなのか。

 誰のものなのかまでは分からない。


 第一、こんなことを調べてどうする。

 現実を前に、昨夜の意気込みが尻込みする。

 いつ、誰が、使用済みの乾電池を捨てた、なんて知るすべがない。


 深いため息がモニターにかかる。

 これ以上は、分からない。

 手詰まり感は否めない。


 手にした乾電池は、誰かの使用済み。

 それが大量にあり、理由は分からないが何かが残っている。


 破砕機の音はつづく。

 消えていく記録映像。


 やがて出勤する社員のために、暖房と電気を点けてモニターを消した。

 後は、先輩の連絡待ち。


 期待をせずに待っていた僕のスマホに、葛原先輩から一通のメールが届いたのは、二日後のことだった。



 自宅でカップラーメンを食べている時だった。

 テレビに背を向けて、スマホをいじっていると、通知が来た。


「あ、先輩」


 メールの件名には、乾電池の件、だった。

 一瞬、指先が止まる。


 あれから一度もリモコンを使っていない。

 テレビも点けていない。

 アンテナのコードも抜いて、間違えて押しても映像が映らないようにしていた。


 カップラーメンを脇に置いて、息を吐いてからタップする。


『お疲れ様。先日の件について報告します。

 結論から言って、乾電池に映像や記録が残ることはない、と分かりました。

 ざっくり言うと、乾電池の内部には、データを保存するための磁気ディスクやメモリチップのような『情報を固定する構造』が一切ないということです。


 また、リモコンを通して映るということでしたが、こちらも同様の理由から、ないという結論に至りました。


 期待外れだったらすまん。

 乾電池はこっちで処分していいか? 

 連絡下さい。



 追伸

 構造学的アプローチよりも、『残留思念の物質化』に関心を持つ知人の教授に相談する方が有益かもしれない。特異な事例として興味を示されているので、本件の特異性について意見を聞いてみるつもりです。



 僕は、ほっとした半分、解明される謎についての心配もした。

 これが、本当に葛原先輩のいうような『残留思念』だとしたら。


 そういう可能性があるなら、乾電池を通して僕の家のテレビに映ったことになる。

 背後にあるテレビに目を向けようとしてやめた。


 次に、僕の目に映るのは一体どんな映像なのだろうか。


 破砕音が耳朶に蘇る。

 消されていく記録。


 そんなことを想像するだけで、テレビの気配が背中に張り付いていた。


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