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08話

 

 二階くらいの高さから、暗い夜道を街灯が照らしている。

 画角から、出窓のような場所だと分かる。


 囁くような声が聞こえた気がして、ボリュームを上げる。

 子供の声。

 ドキッとしたが、よく聞いてみると、笑っていて興奮している様子だった。

 女性の笑い声も交じる。

 親子のように聞こえる。


 ただ、映像は暗い夜道。

 奥から人影がやってくる。

 街灯の下を通り過ぎる時、長い髪が揺れたような気がした。


 画面の端まで来たときだった。

 別の人影が、ふっと現れて、二つの影が重なった。

 叫び声が聞こえたような気がした。

 短く、鋭く。

 でも次の瞬間、子供の笑い声が被さって、笑いながら叫んでいるみたいに聞こえた。


「……なんだ?」


 ボリュームを上げても、聞こえてくるのは親子の楽しげな声。


 街灯の逆光が、その輪郭を塗りつぶしている。

 まるで意志を持った暗い影絵が、意味不明な動きをしているようにしか見えない。


 音声は子供の笑い声。

 どうしても音に引っ張られて、映像が頭に入ってこない


 すると、影絵が二つに別れ、一つが街灯に近づいた。


「う、うそだ。そんな……」


 影から差し出した一筋の輪郭が、濡れているように見える。


 息が詰まる。

 どうにか見えないかと顔を寄せてみるが同じだった。


 動かない影は、夜に染み込むように薄く、子どものはしゃぐ声がわざとらしく聞こえた。

 頭が理解する前に、映像はプツンと切れ、静寂が戻る。


 耳朶に残った温かい笑い声。

 目に焼き付いた動かないシルエット。


 感情が上手くコントロール出来ない。

 嗚咽をぐっと我慢しようとしたが、食い縛った歯の隙間から情けない声が漏れた。


 テーブルの上のスマホ。

 調べれば、想像を確定してしまう。


 でも、分かることもある。


 スマホを両手に持ち、検索をする。

 文字入力に戸惑いつつも、結果を見る。


 地域を絞ったので、二十件余り。

 ゆっくりとスワイプする中に、見つけた。


 二ヶ月前の記事。

 一時、騒がれていたので思い出した。


 刺傷と、重い後遺症の文字で指が止まる。

 犯人は未だ捕まらず。


 当時、毎日のようにニュースやワイドショーで取り上げてられていたが、次の事件が発生すると、一ヶ月も立たずに、忘れ去れられる。


 自分もそうだ。

 この記事を見返すまで、すっかり忘れていた。

 地元で起きた事件なのに……。


 椅子にへたり込む。

 見なかったら良かったという後悔と、分かったことが二つ。


 疲れた頭を奮い立たせ、もう一度、スマホを見る。


 映像は、過去のもの。

 もう一つは、周辺で起きた事件、事故。


 明日、会社で調べないといけない。

 回収先について、何時、何処から回収された乾電池なのか。


 見て見ぬふりはできない。

 それでも、思うことがある。


 今日一日、すべてを忘れたい。


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