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32話

 

 震える手でスマホを耳に当てるも、麻衣は出なかった。

 時間を見ると、午後七時前。


「まだ、学校か?」


 今から学校に押しかけて……。

 いや、逆に学校なら安心だ。

 いきなり、通り魔に狙われることもない。


 SNSでメッセージを残し、スマホを置いた。

 何か、できることはないのか。


 テーブルに並べられた乾電池を見る。


 三つの映像は、すべて僕の過去だった。


 だとしたら、その次はなんだ。


 通り魔の映像。

 夜道の女性。


 そして、麻衣。


 彼女が映像を見て、僕が疑われた。

 誤解は解けたが、後になって自分じゃないかもしれないと麻衣は否定した。


 それから、駅のホームにある売店からの映像。

 麻衣が、店員から乾電池式の充電器を借りて、その映像には、人身事故の現場が映ってた。


 通り魔の映像と、見間違えたという女性以外には、麻衣が映っている。


 何かが足りない。

 決定的に、何かを見落としている。


 考えろ。

 今ここで辿り着けなければ、間に合わない。


「クソ……何を見て、何を見落としてるんだ!」


 順を追ってみても、まとまらない。

 やっぱり、まだ見ていない映像があるだろうか。


 不意に思い出した。


「最初と最後……か。もし、最後の映像が見れたら。違う——見るとしたら、どんな映像だ」


 胸の奥で、何かが引っかかる。

 見えないものを想像するより、“見たことにして”考えた方が早い。


「僕が、見たい映像は……」


 想像してはいけない気がした。

 だが、遅かった。


 頭に浮かんだ映像は最悪のシーンだった。


「あー、僕は馬鹿だ……」


 呼吸が浅く、早くなる。

 喉の奥からせり上がる、得体のしれないものを無理やり飲み込んだ。


 僕は、二十八年間、父に騙されていた。

 信じ込まされていた。


 それが、何もかも嘘だとしたら……。


 頭がふらつき、床に倒れるように座る。


 嘘。


 僕の周りは嘘だらけだ。

 すべてが嘘で出来ていたんだ。


 葛原先輩は、集合写真で嘘をついていた。

 本当は、その場に居た。


 会社の映像だって、僕は嘘をついて乾電池を持って帰った。


 麻衣も……嘘だとしたら……。


 否定したいのに、止まらなくなっていた。

 思考は勝手に想像し、辻褄を合わせていく。


 もし、麻衣が嘘を言っていたら。


 彼女が見たという映像。

 そこに、葛原先輩と麻衣が一緒に映っていたとしたら。


 集合写真にも、二人は居た。

 あの時、僕は気づかなかっただけで。


 先輩の研究には、父の寄付が必要だ。


 ——いや、違う。


 そんなはずはない。


 なのに、頭の中で、勝手に繋がっていく。

 辻褄が、合ってしまう。


 どれくらいそうしていたのか、スマホの着信音で気づいた。


 重い体をなんとか動かし、スマホを手に取る。


 SNSの着信。


 開くと、麻衣からだった。


『お疲れ様。今から帰るけど、なにかあった?』


 いつもと同じ。

 変わらない麻衣。


 でも、僕の方が変わってしまった。


 震える指先で、返事を書く。

 すぐに返事がきた。


『どうしたの? 私がそんなことするわけ無いでしょ?』

『わかった。葛原先輩に聞いてみるよ』

『そういえば、先輩と同じゼミの子、先週から連絡取れてないって聞いた。知ってた?』


 今更なにを言っているんだ。

 葛原先輩の番号をタップしようとしたとき、着信が来た。


 ボタンを押して、耳に当てる。


『もしもし、桐島さん?』

「はい。そうです」

『富野です。良かった。いま、映像を分析して分かったのですが、彼女さん。まずいことになってます』

「ええ、でしょうね」


 そう言いながら、自分が何を言っているのか分かっていなかった。


『え、知ってたんですか?』

「……多分、裏があります」

『裏?』

「まだ分かりません。でも……何か、おかしいんです」

『そうですか……。わかりました、もし彼女から連絡がありましたら、私に教えてください。任意同行をお願いすることになると思いますので』


 僕は返事もせずに、電話を切った。

 スマホの画面に自分の顔が薄っすらと反射する。


 まるで、幽霊みたいじゃないか。


 リビングに行き、ずっと伏せてあったデジタルスタンドに電源を入れる。


 入れ替わる映像。

 両親の笑顔と、僕が笑う姿。


 しばらく眺めていると、見たことのない映像が映った。


 父と母に抱かれた、幼い子ども。

 そして、もう一人。


 僕は、しばらく動けなかった。

 やがて、電池が切れたのか映らなくなった。


 テーブルの上の乾電池をかき集めた。

 ビニール袋に押し込み、玄関へ向かう。


 ドアを開けた瞬間、胸の奥で、何かが静かに笑った気がした。


 因果は、もう動き出している。


 それでも、僕は外へ出た。


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