28話
事の顛末を手短に説明すると、十分ほどで富野刑事がやって来た。
近所で聞き込みをしていたらしい。
「なるほど。わかりました」
富野刑事は、メモを取りながら、再び説明を求められた。
「じゃ、今、彼女さんの携帯に、そのアプリが入っているってこと?」
「はい、そうです」
富野刑事ともうひとりの男性。
前と同じで、名乗りもしなければ話もしない。
ただ、二人でひそひそと話をすると、部屋から出ていった。
僕が目で追っていると、
「ああ、彼には本部に連絡をして裏取りをしてもらいます」
「なるほど」
その後、映像を見せながら説明を終えたときには、十一時前だった。
「それでは、明日また連絡します」
「はい」
麻衣が慌てて、カバンを持って「終電、間に合うかな」と言って立ち上がった。
「ご自宅まで送りましょうか? 映像が欲しいので署に寄ってもらえると助かるのですが」
「いいですか?」
麻衣の帰りは、富野刑事にお任せして玄関口で二人を見送った。
「ふー、疲れた」
椅子の背もたれに体を預けて、目をつぶる。
色々ありすぎて、興奮しているのか、安堵しているのか、よく分からない。
ひと息つく。
何も考えないように、テレビでもつけようとした。
「アンテナ、忘れてた」
もうあの映像を見ることはないだろう。
コードを差して、電源ボタンを押す。
いや、押さなかった。
まだ、あの乾電池が入っている。
リモコンから取り出し、九番とマジックで書いて、引き出しにしまう。
代わりに別の乾電池を入れた。
しばらくぶりのテレビ番組。
映るのを待った。
ブーン、と低い音が鳴った。
映った瞬間、思わず目を閉じた。
「……止めてくれよ」
全身の力が抜け、頭を抱えた。
それでも、目を逸らせなかった。
画面には、ホームが映っている。
乗客が並ぶ姿を、後ろから見ている映像だった。
誰かの後頭部辺りが見えている。
画面右側から、電車の音が響いてくる。
段々、音が大きくなる。
次の瞬間。
ブレーキが甲高い音を立てた。
耳を覆いたくなるほどの、電車の悲鳴。
すぐに鈍い音と、何かが砕ける音が一瞬だけ混ざった。
ホームに入ってきた電車が、ブレーキを響かせながら通り過ぎていく。
「おいおい、うそだろ……」
目の前の人がいなくなっていた。
映るのは、減速していく電車だけ。
やがて完全に止まった電車は、不自然な停止位置だった。
そこで、悲鳴やらざわつく声が左右のスピーカーから聞こえ始めた。
だが、映像だけは変わらない。
じっとしている。
あきらかにおかしい。
十秒くらいだろうか、やがて映像が動き出した。
人の流れに逆らうように、映像が進む。
慌てたり、驚く人たちの顔が左右に流れ、その途中で画面が切れた。
「……違う」
声が漏れた。
あれは、落ちたんじゃない。
落とされた動き、だった。
まだ終わってなかった。
真っ暗な画面が反転するようにテレビ番組が、映った。
『先日、午前七時二十分頃、駅ホームで女性が電車に接触する事故が発生しました。当初は自殺の可能性が高いと見られていましたが、警察の調べにより、被害者が突然バランスを崩したような動きが見られたことから、事故の線が強まっています』
キャスターの声が、淡々と読み上げる内容に、僕は再び耳を塞ぎたくなった。
葛原先輩の、教え子は殺された。
一体誰に?
どうして、また僕に見せた。
テーブルに突っ伏した。
髪の毛を掻きむしり、冷たい涙がぽたりと落ちた。




