26話
麻衣は、カバンを開けて手を入れた。
入れたままにしていた乾電池式の充電器を取り出すと、テーブルに置く。
透明なカバー越しに、乾電池が一本見えた。
「これでいい?」
「うん」
蓋をあけて、取り出した乾電池をリモコン側に入れる。
前の乾電池には、マジックで八番と書いた。
「なんで番号振ってるの?」
「これ? うーん、深い意味はないけど、バラバラになるよりはいいかなって」
「そうなんだ。これで、また映るんだよね」
僕は軽くうなずいて、リモコンをテレビに向けた。
駅の映像か。
それとも、全く違う映像か。
麻衣は、腕で目元を隠した。
息を吐き出してボタンを押す。
画面は発光しなかった。
その代わり、僕たちは同時に顔を見合わせた。
「学校、だよね?」
「うん、私の……」
スマホの充電器をつけたままで、小学校に出勤したのだろう。
職員室の映像だった。
「ココ、どこ?」
テレビから見える画角は、目線より少し高い位置だった。
室内の全体が見渡せる。
「たぶん、職員室のスマホ置き場」
「なにそれ?」
「うん。最近、色々うるさくて。プライベートのスマホは一箇所に集めてるの。使う時は、スマホ置き場の前で使う決まりなの」
「持ち歩けないってこと?」
「うん。席にも持っていけいよ」
たしかに、教師関連のニュースを目にすることが多々ある。
「厳しいんだ」
「PTAと保護者がうるさくて。ここまでしないと納得しないのよ」
「そっか。教師も大変だな」
のんびりした会話中に、チャイムが鳴り、教師たちはそれぞれで出ていった。
しばらく、誰もいない職員室が映し出される。
動いているものが、何もないので、静止画のようだ。
「なにもないのかな?」
「それはないと思う。今まで一度だって」
動いた。
映像が傾く。
「なに?」
「わからない」
しばらくすると、また動いた。
どうやら誰かがスマホを触っているようだ。
「くそ、顔が見えない」
そんなことが、三回ほど続いたときだった。
突然、映像が真下を向いた。
映像は誰かの足元を映す。
「誰だ?」
「……これ」
麻衣には心当たりがあるのか、僕は急いでスマホをかざして録画ボタンを押す。
充電器に入った乾電池が、まるでカメラのように動く。
ケーブルでぶら下がっているため、グルグルと回転する。
「誰かわかるか?」
「……うん」
二十秒ほど、回転したのち、スマホ置き場に戻された。
そして、映像も切れた。
「麻衣、大丈夫か?」
まさか職場の人間が、誰も居なくなった職員室で、教師のスマホを勝手に触っていただなんて。
知っている人でも、触られたくはないだろう。
「今の映像で、誰かわかった?」
僕は出来るだけやさしく尋ねた。
相当堪えたのか、麻衣はうつむき、僕の質問に答えるため、ゆっくりと顔を上げた。
「……用務員の…………いつも挨拶してくれる人」
麻衣は絞り出すように答えた。
ショックだろう。
身近な人が、犯罪者とわかったときの気持ちは、計り知れない。
そっと近寄り、力なく椅子に座る麻衣を、ゆっくりと抱きしめた。
今、言葉はいらない。
小刻みに震える彼女を、僕はしっかりと受け止めた。
画面は暗転した。
真っ黒な画面に、二人の姿が映っている。
なぜか、胸騒ぎを感じて視線を外した。




