25話
映像は唐突に消えた。
二人の間に重い沈黙が横たわった。
「……ごめんなさい」
急に麻衣が言い出した。
「なに謝ってるの?」
「うん。夏彦のこと疑って」
「あ、もういいよ。俺もちゃんと話ししなかったし」
彼女は頭を横に振り、
「それでも、私が悪かった。一方的だったよね」
「だから、もういいよ。今日だって、会いに来てくれたんだろう?」
顔を覗き込むと、彼女は素直にうなずいた。
それだけで、十分だった。
「わかった。お互い様ってことにしよう。僕も説明不足だったし、麻衣も。それでいいよね?」
「うん」
互いに分かり合えた。
ほんの些細なすれ違い。
その原因を作り出したのは、すべてあの映像だった。
普通に暮らしていたはずの二人を、あの映像が引き裂いた。
許せなかった。
「これからどうするの?」
「そのことなんだけど」
僕は、麻衣の正面に座り、素直な気持ちを打ち明けた。
——許せなかった。
だから、確かめるしかない。
理由のない映像を見せられ、振り回されて、互いに傷ついた。
このまま、無かったことになど出来ない。
「じゃ、探すのね」
「うん。この映像を僕に見せた、理由が知りたい。今日も会社で見た。何かが起こっているんだ。僕の行く先々で。それをこの先ずっと見なくちゃいけないなんて、考えるだけで気がおかしくなるよ」
「だよね。テレビを点けるの怖くなるもん」
「だから、探ろうと思う」
「わかった。私も、協力する」
「えっえっ、麻衣も? どうして?」
僕は驚いた。
てっきりもう怖くなって、「二度とみたくない」、くらいは言い出すもんだと思っていた。
「なによ。私がいたら邪魔なの?」
「そんなんじゃないよ」
「じゃ、なに?」
こうなると、もう止まらない。
言い返すだけ無駄だと、僕は知っている。
「わかった。じゃ、危なくない範囲で手伝って」
「了解!」
いたずらっぽく笑うと、手を額付近に持っていき、警察のマネごとをする。
そうと決まれば、早速聞きたいことがあった。
「麻衣が見たっていう映像、どんな場面だったの?」
「ええと、あれは……」
麻衣が話していると、ふとあることが思い浮かんだ。
麻衣は、どこの乾電池を使ったんだ?
店員から乾電池式の充電器を借りて、その乾電池を使った、と僕は想像した。
その乾電池は今、テレビの引き出しに入っている。
「ごめん、話の途中だけどいい?」
「うん。なに?」
「間違っていたら言って。その乾電池って駅の店員さんから借りたの?」
「そう。夜にスマホの充電を忘れてて、駅で気づいて、スマホの充電器を借りたの」
なるほど、推理は合っていた。
「麻衣の知り合い?」
「うん。高校の同級生だよ、なんで?」
「いや、それはいいんだけど……」
高校の同級生。
少し引っかかったが言葉に出来ない。
今はいい。
次だ。
「麻衣は、その充電器から乾電池を取って、リモコンに入れたんだよね?」
「うん」
「それって、一本?」
「そうだよ。このリモコン、一本しか入らないでしょ?」
僕が思った通りだ。
乾電池式の充電器は、僕も使ったことがある。
だとしたら。
「もう一本は、まだ持ってる?」
「もう一本? ああ、うん。二本入りの充電器だから中に入れっぱな……しだよ……」
最後の声は掠れていた。
彼女にも分かったらしい。
リモコンに使った乾電池は、一本だけ。
残りは充電器に入ったままの乾電池が、もう一本ある。
まだ、見ていない映像が残っているかもしれない。
再び、沈黙が落ちた。
「ねえ、麻衣」
「うん?」
「同級生って言ったよね?」
「そうだよ」
僕は、決定的な見落としをしていた。
一連の映像は、僕の最寄り駅だと思い込んでいた。
この沿線の駅は、どこも似たり寄ったりで、駅名は映っていなかった。
でも、彼女の同級生ということは、
「あの駅って、麻衣の最寄り駅?」
彼女は、少し考えてから頷いた。
「そうだけど、それが?」
僕は答えなかった。
答えられなかった。
映像に映っていた駅。
人身事故が起きた駅。
麻衣が二度映っていた場所。
全部、同じ駅だった。
「夏彦?」
彼女の声が遠くに聞こえた。
映像は、麻衣の周りで起きていた。
充電器の中に、もう一本ある。
まだ、終わっていない。




