24話
帰路についた。
道中、手は繋いだ。
僕から伸ばした手を、彼女はしっかり握り返してくれた。
彼女は相変わらずおしゃべりで、色々なことを話してくれた。
「でね、漫画も読みたいんだけど、私、縄跳び苦手だから練習しないと」
「小学三年、男子の夏休みかよ」
笑いは絶えなかった。
このまま、続けばいいと本気で思った。
自宅につくと、それまでの明るさが嘘のように消えた。
麻衣の顔も、いつになく緊張していた。
「乾電池なら、何でも見れるの?」
「ううん。新品は見れない。一度使った乾電池だけ」
椅子を引き、麻衣は腰掛けた。
「あ、そういえば、今日、乾電池捨てたんだ」
「えっ? 見れないの?」
「うん……ごめん」
「なーんだ。つまんない」
「いやいや、映画じゃないんだから」
少し笑いが戻る。
それが却って緊張感を生んだ。
上着のポケットに手を入れたとき、一本あることを思い出した。
今日、会社で事務の女の子に渡したのは二本。
あのとき、僕は三本拾っていた。
「……あった」
乾電池を手のひらに乗せて、麻衣に見せる。
「普通の電池だね?」
「うん。廃棄されるからって、汚いものばかりじゃないよ」
「ふーん。でも、もう取ってきたダメだよ。それって業務上横領になるから」
「ああ、わかってる」
横領もそうだけど、無許可収集運搬でも捕まる。
「じゃ、リモコンに入れてから」
「ちょっと、待って」
彼女は立ち上がると、テレビの裏側を見た。
「ホントだ、アンテナのコード、抜いてるんだ」
「うん。最初はテレビ番組だと思ったからね」
「わかった。点けてみて」
僕はリモコンをテレビに向ける。
これが正解かどうか分からない。
また、意味のわからない映像を見ることになるのだろうか。
それでも、麻衣が心配だ。
守らなくては。
親指に力を込めて、電源ボタンを押した。
「キャ」
フラッシュのように強烈な発光が部屋中を照らす。
思わず腕を目にかざす。
「なんだ?」
「眩しい……」
それも一瞬だった。
次には、部屋の明かりは戻っていた。
「びっくりした」
「だな」
視界が白く飛んだあとの網膜に、じわじわと像が結ばれる。
目を向けた二人の前に、異様な風景が広がっていた。
画角はかなり低く、地面から斜め上を見ているような感じだった。
やけに視線が低いのが気になった。
まるで地面に倒れているような。
「どういう映像? って、本当に映ってる!」
「ああ。毎回違うから、僕もこれを見るのははじめて」
「なんだろう、ちょっとボヤっとしてる?」
「うん」
汚れたメガネ越しに見ているようで、全体の焦点が薄っすらとぼやけている。
ピント不良なのか。
「壊れている……」
「なにが?」
「多分、乾電池が壊れ欠けてるんじゃないかな」
「そうなの?」
映像は止まったままで、内容が見えてこない。
どこで記憶されたんだ。
頭をフル回転させて、場所を突き止める。
全く見たことのない映像じゃない。
「どこだ、ここ」
「うん。私、見たことあるような」
「どこかわかる? 僕も見たことが……」
既視感が、既知に変わった瞬間、僕は声を上げた。
「びっくりした……どうしたの?」
指をさした。
声が出ない。
場所がわかった。
「なに?」
彼女がテレビに目を向けて、「なにが映ってるの?」と言い終わると同時に、彼女も短い悲鳴を上げた。
「うそ、これ私だよ……」
線路。
レールの横から、ホームを見上げている映像だった。
画面の右側に、ホームの端に立つ、角川麻衣が佇んでいるのが見えた。
「ねえ、先週あった……」
「あの時の」
否応なしに、点と点が線を結ぶ。
以前見た映像とは違う、別の視点から見ている。
前回は、売店から見ていた。
そして、今回は……。
因果は収束する——。
先輩の言葉が、頭の奥で蘇る。
葛原先輩。
彼は一体——。
僕はしばらく動けなかった。
乾電池の映像は、必ず何かが起きている。
この時はじめて、背筋に冷たいものを感じた。
彼女の震える手が、僕に触れる。
僕はきつく握り返した。
大丈夫。
必ず、守る。
そう決心して、強く画面を睨みつけた。
この映像から、考えること。
ヒントになることを見つけ出すんだ。
消えないでくれと、祈りながら、震える手でスマホのカメラを起動した。
何度か撮影し、その後は録画に切り替えた。
なぜ今まで、撮らなかった。
証拠は残せたはずなのに。
すべてに後悔をしながら、僕は画面が消えるその瞬間まで、撮影し続けた。




