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23話

 

 帰り道。

 考えが、行き詰まっていた。

 何度考え直しても、たどり着くのは「何が起きるのか」だった。

 過去を見せられているはずなのに、気づけば今に影響している。


 過去を見せられて、未来を考える?


 だったら、最初に見た三つの映像の意味が分からない。

 葛原先輩の映像だって、僕が見た過去の映像で繋がっただけだ。


「今日だって……工場の映像はなんだった?」


 独り言が増える。

 信号待ちをしている人の気配が離れていくのが横目で感じた。


 口をつぐんで前を向いた時、見知った顔が目に飛び込んできた。

 心臓が高鳴る。

 向こうは僕に気づいていない。


 どうしよう。

 考える間もなく、歩道の信号が青に変わる。


 歩いてくる。

 まだ、気づかない。


 青信号で立ち止まっていた、僕。

 不意に目が合った。


「夏彦……」


 彼女の唇が、そう動いた。


「ま、麻衣」


 点滅している。

 もうすぐ赤だ。

 気づいていない彼女の手を黙って握り、歩道に引き寄せた。


「あ、赤信号に変わりそうだったから」

「う、うん」


 ぎこちなく向かい合う二人。

 握った手だけが、繋がっているようで、僕からは離せなかった。


「夏彦、あのね」

「麻衣、話が」


 二人の声が重なり、車の騒音に紛れて消されていく。

 僕は咄嗟に、「あ、どうそ」と握った手を離さずに言う。


「ううん。なに?」

「うん。麻衣が見たっていう映像なんだけど」

「……うん」


 胸の動悸を堪えながら、口にした。


「話、聞いてくれないか?」


 彼女は僕の顔を見て、ゆっくりとうなずいた。


 僕たちは、そのまま近くのファミレスに向かった。

 彼女に触れているだけで、安心する。

 すべてを投げ出して、ひたすら謝り、許してもらいたい。

 現実に繋ぎ止めるように握った小さな手を、このまま続けたい。


 全部、僕が悪かった。


 ひと言、そう言って。


 ——でも。

 僕の誤解を解くだけでは済まない。


 彼女は二度、映像に映っている。


 一度目は、彼女が見たという映像。

 二度目は、僕が見た駅のホーム。


 それぞれに意味があるとしたら。

 いいや、絶対に何かある。

 それを探さないと。


 麻衣に危険が及ぶ前に、阻止しなくて。


「ねえ、さっきからひとりでなに言ってるの?」


 ファミレスのテーブルを挟んで、麻衣が問いかけた。

 怒っている風ではなかったが、少しだけ固く見えた。


「ごめん。ちょっと……」

「ちょっと、なに? 気になるでしょ?」


 僕は、こくりとうなずいて、今日までの出来事を話した。

 答えも結論もない、中途半端な説明。


 最後のピースどころではない。

 半分以上もない少ない状態で、この絵を当ててくれ、と無茶なこと言っているようなものだ。


 それでも真剣に説明した。

 隠し事もしなかった。

 変に話を膨らませもしなかった。


 僕の話が終わる頃、目の前のハンバーグは、鉄皿まで冷めていた。


「ということなんだ」


 彼女は僕の話を黙って最後まで聞いてくれた。

 目の前の料理も手をつけずに。


「冷めちゃったね。食べよう」

「……うん」


 やっぱり信じて貰えない。

 考えれば分かることだ。

 盗撮を疑われ、その答えが理由のわからない映像のお話し。


 ため息をつき、フォークを手にしたとき。


「あとで、夏彦の家に行くね。私も、見てみたい」


 嬉しさのあまり、大声を我慢した。

 それと同時に、別の感情も込み上げた。


 彼女が見ることになる不安が、押し寄せる。

 だが、今は信じてくれたであろう気持ちに、僕の手はハンバーグを切り分けた。


 食べながらでも、あの映像の続きが見える気がした。

 それに今日見た、工場の映像。


 なにかも偶然なのか。

 それとも、必然。


 疑心暗鬼になる気持ちを、詰め込んだご飯と共に、胃の中に押し込んだ。

 味なんて、何も分からなかった。


「なに笑ってるの?」

「うん。ハンバーグ、冷めてるなって」

「なにそれ?」


 クスクスと笑い合う。


 守らなくては。


 そう思った。


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