表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/34

21話

 

 翌日。

 あれだけ寝たはずなのに、ギリギリで目が覚めた。


 本当は、朝早く出勤して乾電池を捨てるはずだったが、もう間に合わない。

 それでも、ダンボール箱から紙袋に移して出勤した。


「おはようございます」


 堂島課長と、事務の女性が数名。


「おはよう、桐島くん」


 席に付く前に、課長がやって来た。


「ちょっと、ちょっと」


 小声で呼び出す。


「はい」


 そのまま事務所から出ると、喫煙所に連れて行かれた。

 ヤニの臭いに思わず鼻を押さえる。


「昨日、警察から連絡あったよ? もちろん、電話を取った事務の女の子には、口止めしているから。なにがあったんだ?」


 なるほど、そういうことか。

 道理で、女の子の視線がいつもと違うはずだ。


 僕は、手短に説明した。

 河川敷で見つかった親子の家が近所だった、と。


「なんだ、そうだったのか。びっくりしたよ」

「すみません、ご迷惑をお掛けしました」

「いいよいいよ。大したことじゃないから」


 その後、ひとりでウンウンと何度も頷きだしたので、喫煙所から出た。

 出ていく間際に、タバコに火を点けた堂島課長に肩を叩かれ、「よろしくね」と言われた。

 何のことだか、最初は分からなかったが、四月は昇給月だと思い出してため息が出た。


「まあ、色々お世話になってるし、ひと言くらい言っておくか」


 そう呟いて、席に戻った。


 昼過ぎ、食堂から戻ってくると、事務の女の子が集まって何かをしていた。

 基本、あまり関わらないようにしているのだけど、一人の女の子が近づいてきた。


「桐島さん、乾電池って持ってませんか?」


 ビクッと肩が震える。


「か、乾電池?」

「リモコンの電池が切れたみたいで、テレビ見れないんです」

「あ、なるほどね」


 止めていた息が溢れそうになるのを、ぎりぎりで堪えた。

 しかし、足元には、山ほど入っている紙袋があった。

 でも、それを差し出すわけにも行かず、「……持ってないけど」と嘘をついた。


「ですよね。やっぱり工場から持ってくるしかないですよね」


 ちょっと不貞腐れながら、離れていった。

 別段不思議でもなんでもない。

 今までもそうだったように、乾電池が切れれば、工場から持ってくる。

 厳密に言えば、廃棄処分品を持ち出すことはアウトだ。


「じゃ、取ってこようか?」


 ついでに捨てられる。


「え、本当ですか。ありがとうございます」


 僕は、紙袋を手に急いで事務所を出た。

 工場も昼休憩で、破砕機もベルトコンベアも止まっていて、静まり返っていた。


 音のない工場は、ちょっと不気味に思える。

 騒がしいのが当たり前で、それ以外は死んでいるように感じるからだ。


 乾電池の山に近づいて、何本か手にするとポケットに入れた。

 紙袋の乾電池は、すでに山の中に埋もれて見分けがつかなくなっていた。


 もう、あの映像を見なくて済むと思うだけで、心が軽くなった気がした。


「はい、とりあえず二本持ってきたから」


 そう言って乾電池を渡すと、喜んでリモコンに入れた。


 席について、スマホを見る。

 お気に入りのマンガの未読が溜まっていて、タップして読もうとしたときだった。


「なにこれ?」

「何チャンネル?」


 その声を聞いて、スマホから目を離した。

 書庫の上に置かれたテレビに自然と目が行く。

 事務の女の子たちは、不思議そうに眺めていたが、番組じゃないことはすぐに気づいた


 椅子から立ち上がり、手にしたスマホを机に落とした。


「う、うそ……」


 その映像は、僕がさっきまで居た場所だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ