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18話

 

 出張先から直接駆けつけてくれた、葛原先輩のキャリケースが玄関先に置いてあった。


「大丈夫か? メールを見た時は、ビックリしたぞ」

「す、すみません。もう、わけが分からなくて」

「まあ、ビールでも飲めよ」


 葛原先輩は、僕の目の前に缶ビールをぽんと置いて、自分の分をごくごくと飲んだ。


「大体のことはメールで把握したが、そんな映像がね」

「……はい。もうどうしたらいいか」

「落ち着け、もう一度整理するぞ。こういう時は、闇雲に考えるんじゃなくて、分かることを整理して行くんだ」


 葛原先輩は、書類ケースから取り出したノートを、テーブルに広げていた。


「まずは、時系列順に行くと、彼女が盗撮……あ、ごめん」

「大丈夫です、続けてください」


 葛原先輩は、小さく頷いて続けた。


「彼女が自分の映っている映像を見たのが、五日前の今月十九日、だな?」

「はい」


 そう言った僕の返事に、一瞬先輩のペンが止まる。


「どうかしましたか?」


 なんでない、と言って話を続ける。


「それから、今日、ホームを映す映像を見た。映像に映った新聞から日付が十九日と分かった」

「……はい」

「リモコンの乾電池は、ホームの売店——女性だっけ?」

「腕しか見えませんでしたが、声からそうだと思います」

「OK。売店の女性は、麻衣ちゃんの知人で」

「はい。そこでスマホの乾電池式の充電器を借りたんだと思います」

「うんうん。それをお前の家でリモコンに入れた」

「たぶん、それでいいと思います」


 少しずつだが、言葉が認識を補完していく。


「つまり、充電器の中には乾電池は二本あって、一本は彼女が。もう一本はお前が使った」

「そうです」

「……ん。これはひょっとして」


 続きの言葉に息を飲んだ。


「な、なんでしょうか?」

「ううん。後で話す」


 葛原先輩はノートに視線を落としたまま、話を続ける。


「その映像には、接触事故が映されていた。日付の裏付けは、新聞と事故当日のネットで調べた。その両方で間違えない、ということだな」


 僕は、返事をする代わりに小さく頷いた。

 先輩は、ノートをじっと見ながら、ペンを走らせる。


「他に分かったことは、乾電池には、他の人——麻衣ちゃんでも見ることができる。あと、映像には、必ず何か起きてる。それは過去の記録、であってるか?」

「たぶん、間違いないです」

「なるほどな。不思議といえば不思議な現象だな。藤堂博士が提唱している『残留思念』が仮に正解だったとしてだな……」

「だったとして?」

「うーん」


 ノートに何かを書き込んだ。

 覗くのも失礼だと思い、話をしてくれるのを待った。


「そうだ。その前に、メールでも書いた話をしてもいいか?」

「ええ、どうぞ」


 少し期待外れだが、わがままを言って来てくれたんだ。

 それに、別の事例も気になる。


「その教授は、どちらかというと科学的じゃなくて、そういう話が趣味で、色々聴き漁っているひとでな。お前の話をしてみたんだ。そしたら、似たようなことを見たっていうんだ」

「み、見たんですか?」

「ああ。生徒の一人が持ち込んだらしいんだ。媒体は、乾電池じゃないくて、デジカメだったらしい」

「デジカメ……」

「まあ、そうガッカリするな。それでな、その持ち主は親父のらしいんだが、行ったことのない旅先の写真が写っているっていうんだ。両親はもともと旅行好きで、夫婦で色々な場所に行ってたらしいんだが、知らない写真が残ってて、しかも一度も行ったことのない場所だったらしい」

「忘れているだけ、とか?」


 葛原先輩は、ビールを飲みながら僕を指さす。


「俺もそう思って聞いたんだ。そしたら、ほら。最近のデジカメって、撮影した日付と場所が記録されるらしいんだ。その記録を検索したら、写された場所と一致していて」


 そこで先輩は、僕の顔を見てひと言いった。


「ボケてた、って落ちじゃないからな」

「僕、なにも言ってません」

「そっか、まあいい。知らない場所で撮影された枚数がなんと三十枚。同じ場所で撮影されたものもあったり、違っていたり。しかもだ、一緒に旅行したデータとデータの間に、残ってたっていうんだよ」


 確かに、僕の映像と似ているといえば似ているような。


「な、不思議だろう? 行ったことのない場所が撮影されている。お前の場合は、知っている場所だが、内容が分からない。なにか共通点がありそうで、なさそうなんだよな」


 葛原先輩は、最後に「どちらも、“本人の意思と無関係に記録されている”」と言ってノートに視線を戻した。


 誰が、何のために……?

 そう思うと、無関係というワードが深く染み込んできた。


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