17話
僕と同じタイミングで、人波にも動き戻ってきた。
駅員の姿と、アナウンスが流れる。
その声に交じるように、人の声が聞こえてきた。
「理子、おはよう」
「おはよう。今、飛び込みがあったのみたい」
「そうなの?」
「うん、たった今」
『ただいま、1番線にて、お客様と列車が接触いたしました。現在、救護活動を行っております。全線で運転を見合わせております。ご利用のお客様には大変ご迷惑をおかけいたします』
「……貸して」
「え?」
「充電器……ちょっとだけ」
声が途切れる。
女性の声は、雑踏と繰り返されるアナウンスに紛れてしまう。
「うん、いいよ」
「ごめんね。……借りる」
「いいよ。あんまり残って……あげる」
断片しか聞こえない。
それでも、重要な何かだ。
音量を最大に上げて、食い入るように見る。
「あっ……」
声が漏れた。
売店の前を横切った人影。
視線が、無意識にそれを追う。
通り過ぎる――今のは。
遅れて、理解が追いついた。
「麻衣……」
巻き戻して確認したい衝動を堪えれず、思わずリモコンボタンを探した。
あるはずがないボタンを。
プツン。
次に顔を上げたとき、映像は消えていた。
「おい、待て待て!」
電源ボタンを押しながら、片手でテレビを叩く。
「映れよ! 映ってくれ!」
誰もいないリビングに、声が虚しく響く。
映像は戻ってこない。
ただ、分かったこともある。
この映像を映した乾電池。
「……なんで、どうして麻衣がいるんだよ」
喪失感が全身を襲う。
彼女が持ち込んだ乾電池は、廃棄でもなんでもない。
あの売店の女性と知り合いで、それを僕の家でリモコンに使った、ということなのか。
一本は彼女が見て。
もう一本は、今、僕が見た。
頭がぐらりと揺れた。
気づけば、床に座り込んでいた。
膝を抱えたまま、動けない。
「なんだよ……なんなんだよ、これ……」
嗚咽は、いつしか泣き言に変わっていた。
映像を見せるだけで、僕に何が出来るっていうんだ。
「迷惑なんだよ……」
五日前に捨てられた乾電池と、今目の前で起きた悲劇。
その残酷なまでの符号に、僕はただただ愚痴をこぼした。
「助けてくれってことかよ……でも、俺に何ができるんだよ……」
うずくまる僕の頭の上で、スマホが鳴る。
無視しても良かったが、麻衣の笑顔がちらついた。
テーブルに手をかけて、体を持ち上げる。
にじむ視線の先に、メールが来ていた。
「葛原先輩?」
縋るようにスマホを手に取ると、開いた。
『お疲れ様。例の乾電池なんだけ、過去に似たような事例が一例だけあったらしいんだ。詳しくは明日、東京から帰ったら連絡する。他に映像が見えた乾電池があれば、捨てずに取っといてくれ』
何度か読み返した。
「似たような事例だって?」
深みにハマったような感覚に、一縷の光が差したみたいに僕は顔を上げた。




